セキュリティバイデザイン (セキュリティ・バイ・デザイン) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

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セキュリティバイデザイン (セキュリティ・バイ・デザイン) の読み方

日本語表記

セキュリティバイデザイン (セキュリティバイデザイン)

英語表記

Security by Design (セキュリティ バイ デザイン)

セキュリティバイデザイン (セキュリティ・バイ・デザイン) の意味や用語解説

セキュリティバイデザインとは、システムやソフトウェアの開発において、企画・設計の初期段階からセキュリティを組み込むという考え方、およびそのアプローチである。従来、セキュリティ対策は開発が完了した後や運用段階で追加されることが多かったが、この方法では根本的な設計上の問題に対応できず、多大な修正コストが発生したり、脆弱性が残り続けたりする課題があった。セキュリティバイデザインは、こうした問題を解決するために、開発ライフサイクルの最初から最後まで、すべての工程でセキュリティを考慮し続けることを基本理念とする。つまり、セキュリティを後から付加する「オプション機能」としてではなく、品質の一部であり、システムの根幹をなす「必須要件」として扱うのである。このアプローチにより、開発の手戻りを減らし、より堅牢で信頼性の高いシステムを効率的に構築することが可能となる。 セキュリティバイデザインを実践するためには、いくつかの重要な原則と思想が存在する。その一つが脅威モデリングである。これは、システムの設計段階で、どのような攻撃者が、どのような手法で、どの資産を狙う可能性があるかを体系的に洗い出し、分析・評価するプロセスである。潜在的な脅威を早期に特定することで、設計レベルでの対策を講じることができ、実装段階での脆弱性の作り込みを未然に防ぐ。次に、最小権限の原則が挙げられる。これは、ユーザーアカウントやプログラム、プロセスに対して、その役割を遂行するために必要最小限の権限しか与えないという考え方だ。万が一、アカウントが乗っ取られたり、プログラムに脆弱性があったりした場合でも、被害の範囲を限定的に抑える効果がある。また、多層防御という概念も重要である。これは、単一のセキュリティ対策に依存するのではなく、ネットワーク境界、サーバー、アプリケーション、データといった複数の階層で防御壁を構築するアプローチを指す。仮に一つの防御層が突破されたとしても、次の層で攻撃を食い止めることで、システム全体の安全性を高める。さらに、デフォルトでセキュアという原則も基本となる。これは、システムやソフトウェアの初期設定を最も安全な状態にしておくべきだという考え方である。利用者が意識的にセキュリティ設定を緩めない限り、安全な状態が維持されるため、設定ミスによる脆弱性の発生を防ぐことができる。他にも、システムに障害が発生した際に、アクセスを遮断するなど安全側に倒れるように設計するフェイルセキュアの思想や、攻撃者から狙われる可能性のある不要な機能やサービスを極力排除し、攻撃対象領域を最小化することも、セキュリティバイデザインの重要な要素である。 これらの原則は、システム開発ライフサイクル(SDLC)の各フェーズに統合されて実践される。要件定義フェーズでは、機能要件と同時にセキュリティ要件も定義する。設計フェーズでは、前述の脅威モデリングを実施し、セキュアなアーキテクチャを設計する。実装フェーズでは、安全なコーディング規約であるセキュアコーディングを開発者全員が遵守し、脆弱性が含まれやすい危険な関数などの使用を避ける。テストフェーズでは、コードの静的解析(SAST)や、実際にアプリケーションを動作させて脆弱性を検出する動的解析(DAST)、専門家による侵入テストなどを実施し、設計や実装段階で見逃された問題を検出する。そして、リリース後の運用フェーズにおいても、継続的な監視や脆弱性スキャン、インシデント発生時の迅速な対応体制の維持など、セキュリティ活動は途切れることなく続く。このように、開発の全工程を通じてセキュリティを組み込むことで、完成したシステムの安全性を根本から確保するのである。 セキュリティバイデザインを導入する最大のメリットは、長期的なコスト削減と品質向上にある。開発の後期工程やリリース後に重大な脆弱性が発見された場合、その修正には設計の変更を伴う大規模な手戻りが発生し、コストは初期段階で対策する場合の数十倍から数百倍に膨れ上がると言われている。最初からセキュリティを組み込んでおくことで、こうした致命的な手戻りを防ぎ、開発プロジェクト全体としてのコストと時間を抑制できる。また、設計レベルから堅牢性が考慮されているシステムは、後付けの対策を重ねたシステムよりもはるかに攻撃に強く、安定したサービス提供が可能となる。これは、結果として利用者や顧客からの信頼獲得に直結し、ビジネス上の大きな強みとなる。現代においてサイバー攻撃がますます高度化、巧妙化する中、セキュリティはもはや専門部署だけの課題ではない。システム開発に関わるすべてのエンジニアが、セキュリティバイデザインの考え方を理解し、日々の業務で実践することが不可欠となっている。