シャローコピー (シャローコピー) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
シャローコピー (シャローコピー) の読み方
日本語表記
シャローコピー (シャローコピー)
英語表記
shallow copy (シャローコピー)
シャローコピー (シャローコピー) の意味や用語解説
シャローコピーは、オブジェクトの複製方法の一つであり、コンピュータプログラムにおいてデータ構造をコピーする際に用いられる。この方式では、元のオブジェクトが持つ情報のうち、プリミティブ型(数値、文字列、真偽値など)の値は新しいメモリ領域にコピーされるが、オブジェクト型(配列、リスト、辞書、他のオブジェクトなど)への参照は、元のオブジェクトが参照しているものと全く同じ参照を新しいオブジェクトも共有する。これにより、新しく作られたコピーされたオブジェクトと元のオブジェクトは、その一部を共有する状態となる。 システム開発において、データのコピーは頻繁に行われる操作である。しかし、このシャローコピーの性質を理解していないと、予期せぬデータの変更やバグの発生につながる可能性があるため、特にシステムエンジニアを目指す初心者はその動作原理を正確に把握しておく必要がある。シャローコピーの対義語として、完全に独立した新しいオブジェクトを作成するディープコピーが存在するが、本稿ではシャローコピーに焦点を当てて詳しく解説する。 コンピュータのメモリは、データを格納するための広大な空間と考えることができる。プログラムが変数に値を割り当てるとき、その値はメモリ上のどこかに格納され、変数はその格納場所を指し示す役割を果たす。プリミティブ型のデータ、例えば「整数 10」や「文字列 "hello"」のようなものは、変数がその値自体を直接保持することが多い。したがって、これらのプリミティブ型データをコピーする場合、新しい変数は単に同じ値の新しいコピーを受け取るだけであり、元の変数とは完全に独立する。一方、オブジェクト型のデータ、例えば「配列 [1, 2, 3]」や「ユーザー情報の辞書 {name: "Alice", age: 30}」のようなものは、そのデータ本体がメモリ上の別の場所に格納され、変数はその本体が格納されている場所への「参照」を保持する。この「参照」は、メモリ上のアドレス、すなわちデータの所在地を示すポインタのようなものである。 シャローコピーはこの「参照」の仕組みに深く関わっている。あるオブジェクトAをシャローコピーして新しいオブジェクトBを作成する場合を具体的に考えてみよう。まず、オブジェクトBはオブジェクトAとは異なる新しいメモリ領域に作成される。これは、オブジェクトBがAとは別の独立した存在として振る舞うための基本的なステップである。しかし、Bの内部に含まれる要素のコピーの仕方がシャローコピーの肝となる。もしオブジェクトAがプリミティブ型の要素(例えば数値)を持っていた場合、その数値はBに新しい値としてコピーされるため、Bからその数値を変更してもAの数値には影響しない。 しかし、オブジェクトAが他のオブジェクトへの参照、すなわちネストされたオブジェクト(例えば、配列の中に別の配列が含まれているような構造)を持っていた場合、シャローコピーによって作られたオブジェクトBは、Aが参照していたそのネストされたオブジェクトと全く同じメモリ上の位置を参照することになる。つまり、AとBは異なるオブジェクトとして存在するものの、その内部にある特定のサブオブジェクトに関しては、両者が同じものを共有している状態となる。 この状態で、オブジェクトBを通じてネストされた共有部分のデータを変更すると、その変更はメモリ上の共有されているデータ本体に直接反映される。結果として、オブジェクトAを通じてそのネストされた部分を参照しても、オブジェクトBによって行われた変更がそのまま見えてしまうことになる。この「意図しない副作用」が、シャローコピーを理解する上で最も重要な点である。 多くのプログラミング言語において、配列やオブジェクトのデフォルトのコピー操作(例えば、Pythonの`list.copy()`メソッドや`copy`モジュールの`copy()`関数、JavaScriptのスプレッド構文や`Object.assign()`関数など)はシャローコピーとして実装されていることが多い。これは、シャローコピーがディープコピーに比べて処理が高速であり、メモリの使用量も少ないというメリットがあるためである。特に、コピーされるオブジェクトが非常に大きく、その内部にネストされたオブジェクトがほとんどない、あるいはネストされたオブジェクトが変更される可能性が低い場合には、シャローコピーは効率的で十分な選択肢となる。 シャローコピーのメリットは、主にそのパフォーマンスとリソース効率にある。オブジェクト全体を再帰的に走査して全てのデータを新しいメモリ領域に複製する必要がないため、コピーにかかる時間が短縮され、大量のデータを扱う場面では処理速度の向上に寄与する。また、ネストされたオブジェクトを共有することで、メモリ上に同じデータが複数存在することを避けるため、メモリ消費量も抑えられる。 しかし、シャローコピーのデメリットは、メリットの裏返しでもある。最も深刻な問題は、前述した「意図しない副作用」の発生である。コピー元のオブジェクトとコピー先のオブジェクトが完全に独立しないため、一方のオブジェクトが共有しているネストされたデータを変更すると、もう一方のオブジェクトにもその変更が影響を及ぼしてしまう。これは、プログラマがコピーされたオブジェクトが元のオブジェクトとは完全に独立していると誤解している場合に、予期せぬバグを引き起こす原因となる。特に、複数のモジュールや関数間でデータをやり取りする際にシャローコピーされたオブジェクトが渡されると、どこでデータが変更されたのか追跡が困難になり、デバッグ作業が複雑化する可能性がある。 このような問題を避けるためには、コピー操作を行う際に、その操作がシャローコピーなのかディープコピーなのかを常に意識する必要がある。もし、コピーされたオブジェクトとその内部のすべての要素が、元のオブジェクトから完全に独立していることを望むのであれば、明示的にディープコピーを実行する必要がある。ディープコピーは、元のオブジェクトが持つネストされたオブジェクトも含めて、全てを再帰的に新しいメモリ領域に複製する。これにより、コピー元とコピー先のオブジェクトは完全に独立し、一方の変更が他方に影響することはない。しかし、ディープコピーはシャローコピーに比べて処理が複雑で、実行時間も長くなり、メモリ使用量も増大する傾向があるため、その使用は必要な場合に限定すべきである。 システムエンジニアを目指す初心者にとって、シャローコピーの概念はオブジェクト指向プログラミングやデータ構造の理解を深める上で非常に重要である。特に、Python、Java、JavaScriptなどの現代的なプログラミング言語ではオブジェクト参照の概念がコードの挙動に大きく影響するため、シャローコピーがどのような状況で発生し、どのような影響を与えるのかを正確に理解しておくことは、バグの少ない堅牢なシステムを構築するための第一歩となる。コピー操作を実行する際は、そのオブジェクトがネストされた構造を持つかどうか、そしてそのコピーがシャローコピーなのかディープコピーなのかを常に意識し、必要な独立性を確保するために適切なコピー方法を選択することが求められる。