共有メモリ (キョウユウメモリ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

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共有メモリ (キョウユウメモリ) の読み方

日本語表記

共有メモリ (キョウユウメモリ)

英語表記

shared memory (シェアードメモリ)

共有メモリ (キョウユウメモリ) の意味や用語解説

共有メモリは、複数の独立したプロセス間でデータを効率的に共有するためのプロセス間通信(IPC)手法の一つである。通常、プロセスはそれぞれ独立したメモリ空間を持っており、他のプロセスがそのメモリ空間に直接アクセスすることはできない。しかし、共有メモリを用いると、OSが特定のメモリ領域を確保し、その領域を複数のプロセスが共通してアクセスできるようにする。これにより、データをコピーする手間が省かれ、非常に高速なデータ転送が可能となる。特に大量のデータを頻繁にやり取りする必要があるシステムにおいて、その真価を発揮する。 プロセスは、それぞれの実行環境を分離するために、OSによって独立した仮想メモリ空間を与えられている。この設計は、あるプロセスが誤動作しても他のプロセスに影響を与えないという安定性やセキュリティ上の利点をもたらす。しかし、複数のプロセスが連携して一つのタスクを処理する場合、互いにデータを交換する必要が生じる。このデータ交換、すなわちプロセス間通信(IPC)を実現するための様々な手法が存在するが、共有メモリはその中でも特に高速性が求められる場面で選ばれることが多い。 他のIPC手法、例えばパイプやメッセージキュー、ソケットなどでは、プロセス間でデータをやり取りする際に、カーネルを介したデータのコピーやシステムコールの呼び出しが頻繁に発生する。これらの操作はオーバーヘッドを伴い、特に大量のデータを転送する場合や、非常に短い間隔で通信を行う場合には性能上のボトルネックとなりやすい。 共有メモリの仕組みは、これらのオーバーヘッドを大幅に削減することにある。OSは共有メモリとして利用される物理メモリ領域を確保し、その物理メモリ領域を複数のプロセスの仮想メモリ空間にそれぞれマッピングする。これにより、各プロセスはあたかも自分のメモリ空間の一部であるかのように、その共有メモリ領域に直接アクセスできるようになる。あるプロセスが共有メモリにデータを書き込むと、他のプロセスはそれをすぐに読み取ることができ、データ転送のための追加のコピー処理やシステムコール呼び出しが不要となる。これにより、データ転送の効率が格段に向上し、極めて高速な通信を実現する。 共有メモリの代表的な利用例としては、データベースシステムが挙げられる。データベースサーバは、複数のクライアントプロセスからのリクエストを処理する際に、データキャッシュやトランザクション情報などを共有メモリに配置し、各ワーカープロセスが高速にこれらにアクセスできるようにする。また、Webサーバーが複数のワーカープロセスを起動してリクエストを処理する場合や、大規模な科学技術計算で多数の並行プロセスが中間結果を共有する場合、さらにはグラフィック処理においてCPUとGPUが画像データなどを共有する場合など、様々な高性能が要求されるシステムで活用されている。 しかし、共有メモリにはその高速性と引き換えに、いくつかの課題と注意点がある。最も重要なのは、複数のプロセスが同時に共有メモリ領域にアクセスし、データを読み書きする際の同期の問題である。例えば、一つのプロセスがデータを書き込んでいる最中に別のプロセスがそのデータを読み取ろうとしたり、複数のプロセスが同時に同じ場所を書き換えようとしたりすると、データの一貫性が失われたり、不正な値が読み込まれたりする「競合状態」が発生する可能性がある。このような問題を避けるためには、セマフォやミューテックスといった同期機構を適切に利用し、共有メモリへのアクセスを制御する必要がある。これらの同期機構を用いることで、一度に一つのプロセスのみが共有メモリの特定の領域にアクセスできるようにしたり、特定の操作が完了するまで他のプロセスのアクセスを待たせたりすることが可能となる。 同期制御の設計と実装は複雑であり、不適切な設計は「デッドロック」(複数のプロセスが互いに相手の解放を待ち続け、結果としてどのプロセスも処理を進められなくなる状態)や「ライブロック」(プロセスが絶えず状態を変えるが、実質的に何の進展もない状態)といった、デバッグが非常に困難なバグを引き起こす可能性がある。そのため、共有メモリを利用するプログラミングでは、データ構造の設計、アクセスの順序、ロックの取得と解放のタイミングなど、細心の注意が必要となる。 さらに、共有メモリセグメントのライフサイクル管理も重要である。共有メモリセグメントは、OSによって作成され、プロセスにアタッチされ、使用後にデタッチされ、最終的にシステムから解放されなければならない。これらの操作を怠ると、不要なメモリ領域がシステム内に残り続ける「メモリリーク」の状態に陥ることがある。また、共有メモリはOSが管理するリソースであるため、アクセス権の設定を誤ると、意図しないプロセスが共有メモリにアクセスし、セキュリティ上の脆弱性となる可能性もある。 このように、共有メモリは非常に強力で効率的なIPC手法であるが、その利用には高度なプログラミングスキルとシステム設計の知識が求められる。POSIX共有メモリ(`shm_open`, `mmap`など)やSystem V共有メモリ(`shmget`, `shmat`など)、あるいはWindowsのファイルマッピング機能など、各OSが提供するAPIを用いて実装される。これらのAPIを理解し、適切に同期機構と組み合わせることで、高性能な並行処理システムを構築することが可能となる。

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