シェルソート(シェルソート)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
シェルソート(シェルソート)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
シェルソート (シェルソート)
英語表記
Shell sort (シェルソート)
用語解説
シェルソートは、データを並べ替えるためのアルゴリズムであるソートアルゴリズムの一種で、特に挿入ソートの改良版として知られる。挿入ソートは、既にソート済みの部分に新しい要素を正しい位置に挿入していくことで並べ替えを行うが、要素が正しい位置から大きく離れている場合、その要素を移動させるために多くの比較と交換が必要となるため、大規模なデータ集合に対しては効率が悪いという欠点があった。シェルソートは、この挿入ソートの弱点を克服するために考案されたアルゴリズムである。
シェルソートの基本的なアイデアは、「ギャップ」(間隔)と呼ばれる一定の間隔をあけて存在する要素群に対して挿入ソートを行うことにある。配列全体をいきなりソートするのではなく、まず大きく離れた位置にある要素同士を比較・交換することで、データ全体を大まかに整列させる。この処理を、ギャップの値を徐々に小さくしながら繰り返し適用していく。例えば、配列の要素数がN個の場合、最初はN/2のような大きなギャップを設定し、次にN/4、さらにN/8といった具合にギャップを狭めていく。そして、最終的にはギャップを1にすることで、通常の挿入ソートが実行される。
この一連の処理の中で、最初の大きなギャップによるソートでは、遠く離れた位置にある要素が少ない手順で大きく移動できるため、配列全体が比較的早く大まかに整列される。配列がほぼ整列された状態、つまり各要素が正しい位置の近くに移動している状態になってから、最終的にギャップが1の挿入ソートを行うため、通常の挿入ソートよりもはるかに効率的に動作する。なぜなら、挿入ソートは、ソート対象のデータがほぼ整列されている場合に非常に高速に動作するという特性があるためだ。シェルソートは、この挿入ソートの利点を最大限に引き出す工夫が凝らされていると言える。
シェルソートは、比較ソート(要素の大小を比較することで並べ替えを行うソート)の一種であり、追加の作業領域がほとんど不要な「in-placeソート」でもある。しかし、同じ値を持つ要素が複数存在する場合、それらの要素の相対的な順序がソート後も保持される「安定ソート」ではない。計算量については、平均的にはO(N log N)程度で動作するとされるが、その性能はギャップの決め方(ギャップシーケンス)に大きく依存し、最悪計算量については特定のギャップシーケンスによって異なるため、厳密には確定的な評価が難しいという特徴を持つ。
シェルソートのアルゴリズムは、具体的なギャップシーケンスの選択と、そのギャップを用いた挿入ソートの繰り返しによって構成される。まず、ソート対象のデータが格納された配列(またはリスト)を考える。
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ギャップシーケンスの選択と初期化: シェルソートの鍵となるのは、ソート処理中に用いる「ギャップ」の値を決定するシーケンス、すなわちギャップシーケンスである。代表的なギャップシーケンスには、「N/2, N/4, ..., 1」(シェルの原案)や、「1, 4, 13, 40, ...」(クヌースによるもの)、「1, 5, 19, 41, 109, ...」(セジウィックによるもの)などがある。これらのシーケンスは、ソート効率に大きな影響を与えるため、慎重に選ばれる。一般的には、最初にある程度大きなギャップを計算し、そこから徐々に値を小さくしていく。例えば、配列の要素数をNとした場合、初期ギャップをN/2とし、以降はギャップを2で割っていく(整数部分のみを使用)という単純な方法が考えられる。
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ギャップに応じた部分挿入ソート: 決定された現在のギャップ値(例えば
hとする)を用いて、配列全体に対して部分的な挿入ソートを実行する。この部分挿入ソートとは、配列の要素をh個おきに見ていき、それらが形成する部分配列に対して挿入ソートを適用する、という考え方である。 具体的には、配列のインデックスiをhからN-1まで順に見ていく。各iに対して、array[i]の値を、array[i-h],array[i-2h],array[i-3h], ... といったh個前の要素たちと比較する。もしarray[i]がarray[i-h]より小さい場合、array[i-h]をarray[i]の位置に移動させ、さらにarray[i-2h]と比較するといった具合に、通常の挿入ソートと同じロジックをh間隔で適用していく。 この処理をもう少し詳しく説明すると、まずarray[i]の値を一時変数に保存し、jをiに設定する。そして、jがh以上で、かつarray[j-h]が保存した値よりも大きい間、array[j]にarray[j-h]の値を代入し、jをh減らす。このループが終了した時点で、jの位置に保存していた値を挿入する。これにより、インデックスh,2h,3h, ... の要素群、インデックスh+1,2h+1,3h+1, ... の要素群、というようにh個の独立した部分配列がそれぞれ挿入ソートされることになる。 -
ギャップの更新と繰り返し: 上記2の処理が配列全体に対して完了したら、次にギャップの値を更新する。多くのギャップシーケンスでは、ギャップの値を小さくする。例えば、初期ギャップが
hだった場合、次にh/2といった具合に更新する。 そして、新しいギャップ値を用いて、再び上記2のギャップに応じた部分挿入ソートを実行する。この過程を、ギャップが最終的に1になるまで繰り返す。 -
最終的な挿入ソート: ギャップが1になったとき、実行されるのは通常の挿入ソートである。この時点では、前の段階で大きなギャップでソートが行われているため、配列はすでにほぼ整列された状態になっている。個々の要素は正しい位置から大きく離れておらず、多くても数ステップの移動で正しい位置に収まることが期待される。そのため、ギャップ1の最終的な挿入ソートは非常に効率的に、高速に完了する。これにより、シェルソートは全体のソート時間を短縮できる。
シェルソートの利点としては、実装が比較的容易であり、クイックソートやマージソートといった他の高速なソートアルゴリズムと比較して、追加のメモリ使用量が非常に少ない(in-place)点が挙げられる。また、特にデータ量が小さい場合や、既にほぼ整列されているデータに対しては、他の高速ソートに匹敵、あるいはそれ以上の性能を発揮することがある。 一方で、欠点としては、最適なギャップシーケンスの選択が難しく、その選択によって性能が大きく変動するという点がある。また、安定ソートではないため、同じ値を持つ要素の相対的な順序を保持したい場合には不向きである。計算量については、平均的にはO(N log N)に近い性能を示すとされるが、最悪計算量についてはギャップシーケンスに依存するため、一般的にはO(N log^2 N)やO(N^(3/2))といった評価がされる場合もある。これらの特性を理解した上で、シェルソートは適切な場面で活用されるべきソートアルゴリズムである。