シングルAZ (シングルエーゼット) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
シングルAZ (シングルエーゼット) の読み方
日本語表記
シングルAZ (シングルエーゼット)
英語表記
Single AZ (シングル エーゼット)
シングルAZ (シングルエーゼット) の意味や用語解説
シングルAZとは、クラウドサービスを利用してシステムやアプリケーションを構築する際に、そのすべてのコンポーネントを単一のアベイラビリティゾーン(AZ)内に配置する設計方式を指す。これは、システムの可用性や耐障害性を向上させるために複数のAZにコンポーネントを分散配置する「マルチAZ」構成と対比される概念である。シングルAZ構成は、そのシンプルさとコスト効率の良さが特徴である一方、単一のAZに障害が発生した場合にシステム全体が停止するリスクを伴う。クラウド環境におけるインフラ設計の基本的な選択肢の一つであり、システムの重要度や予算、可用性要件に応じて採用される。 アベイラビリティゾーン(AZ)とは、主要なクラウドプロバイダーが提供するリージョン内に物理的に独立して存在するデータセンターの集まりである。各AZは独自の電源、ネットワーク、冷却システムを備えており、同じリージョン内の他のAZとは地理的に離れて配置されているため、一つのAZで発生した大規模な障害が他のAZに影響を及ぼす可能性は極めて低い。AZ間の通信は低遅延の専用ネットワークによって接続されている。シングルAZ構成では、仮想サーバー、データベース、ストレージ、ネットワーク機器などのすべてのリソースがこの単一のAZ内にデプロイされる。 この設計方式の主な利点は複数ある。第一に、システム設計と運用が非常にシンプルになる点が挙げられる。複数のAZにまたがる複雑なネットワーク構成やデータ同期の仕組みを考慮する必要がないため、構築時間と管理負荷を軽減できる。運用上のトラブルシューティングも単一の環境に集中できるため、比較的容易である。第二に、コスト効率が高い点が挙げられる。リソースを冗長化して複数のAZに配置する必要がないため、必要なインスタンス数やストレージ容量が少なく済み、AZ間でのデータ転送費用も発生しないか、非常に限定的である。一般的に、クラウドサービスではAZを跨いだデータ転送に費用が発生するため、シングルAZ構成はこの点でもコストを抑えることができる。第三に、同じAZ内のリソース間のネットワーク遅延が一般的に低いため、アプリケーションの応答性能が向上する可能性がある。これは、特に低遅延が求められる一部のアプリケーションにおいて有利に働くことがある。 しかし、シングルAZ構成には重大なデメリットも存在する。最大の欠点は、単一障害点(Single Point of Failure)になることである。選択したAZで大規模な停電、ネットワーク障害、自然災害、あるいはクラウドプロバイダー側の予期せぬシステム障害が発生した場合、そのAZ内のすべてのリソースが利用不能となり、結果としてシステム全体が完全に停止してしまう。この場合、システムを復旧させるためには、別のAZやリージョンに手動でリソースを再構築するか、事前に準備された災害復旧計画を実行する必要があるが、これには相当な時間と労力がかかり、サービス停止時間(ダウンタイム)が長期化するリスクが高い。AZレベルでの耐障害性を持たないため、クラウドプロバイダーが提供する自動的なフェイルオーバーや高速な復旧は期待できない。 シングルAZ構成が適切とされるのは、システムの可用性要件が比較的低い場合や、コストを最優先する場合である。例えば、開発・テスト環境、ステージング環境、社内向けの非基幹システム、あるいは許容できるダウンタイムが長い個人向けサービスなどでは、この構成が選択されることがある。これらのシステムでは、一時的なサービス停止がビジネスに与える影響が軽微であるか、マルチAZ構成の導入に伴う複雑さやコストが見合わないと判断される。 シングルAZでシステムを構築する場合でも、AZ内部での冗長化は検討すべきである。例えば、ロードバランサーの背後に複数の仮想サーバーを配置したり、可用性の高いマネージドデータベースサービスを利用したりすることで、単一サーバーの故障やソフトウェア障害など、AZ内部のコンポーネントレベルの障害に対する耐性はある程度向上させることができる。しかし、これらの対策はAZ全体に及ぶ大規模な障害には対処できない点を理解しておく必要がある。システムの可用性に対する期待値とリスク許容度を慎重に評価し、その上で最適なデプロイメント戦略を選択することが重要である。多くの基幹システムや、高可用性が求められるサービスにおいては、マルチAZ構成の採用が推奨される。