シングルボードコンピュータ (シングルボードコンピュータ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
シングルボードコンピュータ (シングルボードコンピュータ) の読み方
日本語表記
シングルボードコンピュータ (シングルボードコンピュータ)
英語表記
Single Board Computer (シングルボードコンピューター)
シングルボードコンピュータ (シングルボードコンピュータ) の意味や用語解説
シングルボードコンピュータは、文字通り一枚のプリント基板上にコンピュータとしての主要な機能、すなわち中央演算処理装置(CPU)、メモリ(RAM)、ストレージインターフェース、各種入出力ポートなどをすべて集積した小型のコンピュータを指す。これは、一般的なデスクトップPCやノートPCが複数の基板や部品で構成されるのとは対照的であり、極めてコンパクトなサイズで完全なコンピュータシステムを実現できる点が最大の特徴である。 通常のPCが高性能や拡張性を重視するのに対し、シングルボードコンピュータは特定の用途や組み込みシステム、あるいは教育目的に特化して設計されることが多い。そのため、多くの場合、処理能力は一般的なPCと比較して控えめだが、その分、消費電力が非常に低く、製品コストも安価であるという利点を持つ。IoT(Internet of Things)デバイス、スマートホーム機器、産業用制御システム、教育現場でのプログラミング学習用ツールなど、その応用範囲は多岐にわたる。 シングルボードコンピュータの内部構成要素を見ると、まず中心となるのはCPUである。多くの製品で、スマートフォンやタブレットにも広く採用されているARMアーキテクチャベースのプロセッサが使われる。これは、低消費電力かつ低発熱という特徴が、小型で電力供給が限られる環境に適しているためである。CPUの他にも、実行中のプログラムやデータを一時的に保持するRAMが基板上に実装されている。RAMの容量は製品によって数百MBから数GBまでと様々である。 ストレージに関しては、一般的なPCで使われるハードディスクドライブ(HDD)やソリッドステートドライブ(SSD)ではなく、多くの場合、SDカードスロットやeMMC(embedded MultiMediaCard)といったフラッシュメモリが採用される。これらは小型で物理的な駆動部分がなく、衝撃に強く、低消費電力であるという利点がある。OSやアプリケーションは通常、このSDカードやeMMCにインストールされ、そこから起動する。 入出力インターフェースも重要な役割を果たす。USBポートはマウス、キーボード、外部ストレージなどの周辺機器を接続するために広く提供されている。ネットワーク接続にはEthernetポートが搭載されることが多く、一部のモデルではWi-FiやBluetoothといった無線通信機能も内蔵されている。ディスプレイ出力にはHDMIポートが標準的に備わっており、モニターやテレビに映像を出力できる。さらに、シングルボードコンピュータを特徴づける重要なインターフェースとして、GPIO(General Purpose Input/Output)ピンがある。これは汎用入出力端子であり、ユーザーが直接電子回路を接続し、センサーからのデータ読み取りや、LEDの点灯、モーターの制御といった物理的な操作をプログラムから行える。これにより、非常に柔軟なハードウェアの拡張や制御が可能となる。 シングルボードコンピュータの動作原理は、基本的なコンピュータと変わらない。SDカードなどに書き込まれたOSが起動し、その上で様々なアプリケーションが実行される。OSにはLinuxベースのディストリビューションが主流であり、特にRaspberry Piシリーズで広く使われるRaspberry Pi OS(旧Raspbian)などが代表的である。これらのOSは、一般的なデスクトップOSと同様に、ファイルシステム、ネットワークスタック、ユーザーインターフェースなどを提供し、開発者はPython、C++、Javaなどのプログラミング言語を用いてアプリケーションを開発できる。 シングルボードコンピュータの利点は多岐にわたる。第一に、その小型さから、限られたスペースにコンピュータを組み込むことが容易であり、様々な機器のスマート化に貢献する。第二に、非常に低い消費電力で動作するため、バッテリー駆動のデバイスや、常時稼働させる必要のあるIoTデバイスに適している。第三に、低価格で入手できるため、個人の趣味のプロジェクトから教育用途、プロトタイピングまで、幅広い層に手が届きやすい。第四に、GPIOピンの存在により、センサーやアクチュエーターなどの物理的な部品と連携したシステムを簡単に構築できるため、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせた開発学習に非常に有効である。 一方で、デメリットも存在する。一般的なPCに比べて処理性能が劣るため、グラフィックを多用するゲームや、複雑なデータ処理、大規模なソフトウェア開発環境としては力不足である場合が多い。また、汎用PCのようにOSのインストールや周辺機器の接続が直感的に行えない場合もあり、特に初心者はセットアップに手間取ることもある。しかし、その学習コストを補って余りあるほどの多様な応用可能性を秘めている。 具体的な応用例としては、自宅のメディアサーバーやファイルサーバーとして利用したり、監視カメラシステムを構築したり、スマートミラーやロボットの制御システムに組み込んだりすることが挙げられる。工場や農業分野では、センサーデータを収集してリアルタイムで監視・制御するエッジコンピューティングデバイスとして機能する。AI(人工知能)や機械学習の分野でも、NVIDIA Jetsonシリーズのように、特定のAI推論処理に特化した高性能なシングルボードコンピュータも登場しており、その用途はさらに拡大している。 代表的な製品としては、市場で最も広く知られているRaspberry Piシリーズがある。これはイギリスのラズベリーパイ財団が教育目的で開発したもので、現在では趣味のプロジェクトから産業用途まで幅広く利用されている。他にも、BeagleBone BlackやOrange Pi、ASUS Tinker Boardなど、様々なメーカーから多様な性能や機能を持つシングルボードコンピュータが提供されており、ユーザーは自身のプロジェクトの要件に合わせて適切な製品を選択できる。このように、シングルボードコンピュータは、限られたリソースの中で最大限の機能を引き出し、現代社会の様々な課題を解決するための重要なツールとして進化を続けている。