サイト信頼性エンジニアリング (サイトシンライセイエンジニアリング) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
サイト信頼性エンジニアリング (サイトシンライセイエンジニアリング) の読み方
日本語表記
サイト信頼性エンジニアリング (サイトシンライセイエンジニアリング)
英語表記
Site Reliability Engineering (サイトリライアビリティエンジニアリング)
サイト信頼性エンジニアリング (サイトシンライセイエンジニアリング) の意味や用語解説
サイト信頼性エンジニアリング(Site Reliability Engineering、以下SRE)は、Googleによって提唱された、システムの信頼性を維持するための体系的なアプローチである。その本質は、ソフトウェアエンジニアリングの原則をシステム運用業務に適用することにある。SREの主な目的は、サービスの信頼性を高いレベルで維持しながら、新しい機能の開発や改善の速度を損なわないこと、つまり、安定性と俊敏性という二つの目標を両立させることにある。従来、開発チームは新機能の迅速なリリースを追求し、運用チームはシステムの安定性を最優先するため、両者の間には対立が生じやすかった。SREは、この構造的な問題を解決するために、データに基づいた客観的な基準と共通の目標を導入する。 SREを構成する中心的な概念として、SLI、SLO、そしてエラーバジェットが存在する。まずSLI(Service Level Indicator / サービスレベル指標)とは、サービスの信頼性を測定するための具体的な指標のことである。例えば、ウェブサービスであれば、リクエストに対する成功率、応答時間(レイテンシ)、システムの稼働率などがSLIとして定義される。これは、サービスの健康状態を定量的に把握するための客観的な物差しとなる。次にSLO(Service Level Objective / サービスレベル目標)は、SLIに基づいて設定される、達成すべき目標値である。具体的には「リクエストの成功率を99.9%以上に保つ」や「全リクエストの95%を200ミリ秒以内に処理する」といった形で設定される。ここで重要なのは、SLOは通常100%を目指さないという点である。100%の信頼性を追求することは、技術的にもコスト的にも非常に困難であり、また、ユーザーがその差を体感できないことも多いため、現実的かつ合理的な目標を設定することが推奨される。 そして、SLOから導き出されるのがエラーバジェット(Error Budget)という考え方だ。エラーバジェットとは、SLOが100%ではないことによって生じる「許容される失敗の量」を指す。例えば、SLOが99.9%であれば、残りの0.1%がエラーバジェットとなる。この予算の範囲内であれば、システムが一時的に停止したり、パフォーマンスが低下したりすることが許容される。開発チームとSREチームは、このエラーバジェットを共通の資源として管理する。エラーバジェットが十分に残っている間は、新機能のリリースやシステムの変更といった、ある程度のリスクを伴う活動を積極的に行うことができる。しかし、障害が頻発するなどしてエラーバジェットを使い切ってしまった場合、チームは新しい機能開発を一時的に停止し、システムの信頼性を回復・向上させるための作業に専念しなければならない。このように、エラーバジェットは、開発速度と信頼性のバランスを取るための客観的でデータに基づいた意思決定の枠組みを提供する。 SREのもう一つの重要な活動は、トイル(Toil)の削減である。トイルとは、手作業で、繰り返し発生し、自動化が可能で、長期的な価値を生まない運用作業全般を指す。具体的には、手動でのサーバーの再起動、定型的なアラートへの対応、バックアップ作業などが挙げられる。このような作業は、サービスの規模が拡大するにつれて増加し、エンジニアの貴重な時間を奪っていく。SREでは、こうしたトイルをソフトウェア開発の力で徹底的に自動化することを追求する。運用の問題を解決するためのツールやシステムを自ら開発し、人間が介在しなくてもシステムが安定して稼働する状態を目指す。これにより、エンジニアは、より創造的で、システムの根本的な改善につながるような価値の高い業務に集中することが可能になる。 また、障害発生後の対応プロセスもSREの文化を特徴づける要素である。ポストモーテム(Postmortem)と呼ばれる障害の事後検証では、何が起こったのか、どのような影響があったのか、原因は何か、そしてどうすれば再発を防げるのかを詳細に分析し、文書化する。このプロセスにおいて最も重視されるのが、「非難なき文化(Blameless Culture)」である。個人の失敗を責めるのではなく、障害を引き起こしたシステムやプロセスの欠陥に焦点を当てることで、誰もが失敗を恐れずに情報を共有し、組織全体として学習し、システムをより強固なものにしていくことができる。 SREを担うエンジニアは、従来のインフラ管理者とは異なり、ソフトウェアエンジニアリングの高いスキルを持つことが求められる。彼らはコードを書くことによって運用上の課題を解決し、システムの信頼性、スケーラビリティ、パフォーマンスを向上させる役割を担う。SREは単なる役職名ではなく、データとエンジニアリングを用いてシステムの信頼性を継続的に高めていくための哲学であり、実践的な方法論の集合体なのである。