スレーブ (スレーブ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
スレーブ (スレーブ) の読み方
日本語表記
従系 (ジュウケイ)
英語表記
slave (スレーブ)
スレーブ (スレーブ) の意味や用語解説
スレーブとは、コンピューターシステムやネットワークにおいて、主となる別のコンポーネントからの指示や制御を受けて動作する従属的な要素を指す。この概念は、一般的に「マスター/スレーブ構成」と呼ばれる設計モデルの一部として理解される。この構成では、システムは一つのマスターと一つまたは複数のスレーブから成り立っており、マスターが全体の制御や主要な処理を担当し、スレーブはマスターからの命令に従って補助的な処理を実行する。この主従関係により、システム全体の機能分担、負荷分散、冗長性の確保などを効率的に実現することが可能となる。 マスター/スレーブ構成の基本的な動作原理は、マスターがスレーブに対してコマンドやデータを送信し、スレーブがそれを受け取って指定されたタスクを実行するというものである。通信は多くの場合、マスターからスレーブへの一方向的な指示が中心となるが、スレーブが処理結果や自身の状態をマスターに報告するために、スレーブからマスターへの通信路が設けられることもある。マスターはどのスレーブにどのような処理を割り当てるかを決定し、システム全体の調和を保つ役割を担う。一方、スレーブは自律的な判断を行わず、あくまでマスターの制御下で機能する。この明確な役割分担が、システムの設計を単純化し、管理を容易にする。 このマスター/スレーブ構成は、ITの様々な分野で広く応用されている。最も代表的な例の一つがデータベースシステムにおけるレプリケーションである。レプリケーションとは、データベースの複製を作成して、複数のサーバーで同じデータを保持する技術である。この際、更新処理(書き込み)を受け付けるプライマリデータベースをマスターとし、その複製データを保持して読み取り処理を担当するデータベースをスレーブとして構成する。マスターデータベースでデータの追加、更新、削除が行われると、その変更履歴がスレーブデータベースに転送され、データの同期が保たれる。これにより、読み取り要求を複数のスレーブに分散させることができ、システム全体の応答性能を向上させる負荷分散が実現できる。また、マスターデータベースに障害が発生した際には、スレーブの一つを新たなマスターに昇格させることで、サービスを継続することが可能となり、システムの可用性を高める冗長化の役割も果たす。 ストレージシステムの分野でもスレーブの概念が用いられる。例えば、ディスクアレイ技術であるRAIDの一部構成、特にRAID 1(ミラーリング)では、一台のディスクをマスター(プライマリ)、もう一台をスレーブ(セカンダリ)と見なすことができる。マスターディスクへのデータの書き込みは、同時にスレーブディスクにも行われる。これにより、全く同じデータを持つ二台のディスクが常に存在するため、片方のディスクに物理的な障害が発生しても、もう片方のディスクからデータを失うことなくシステムを復旧させることができる。 さらに、ハードウェアレベルのバスアーキテクチャにおいても、マスター/スレーブの関係は重要である。I2CやSPIといったシリアル通信プロトコルでは、一つのマスターデバイスが複数のスレーブデバイスを制御する。例えば、マイクロコントローラをマスターとし、センサー、メモリ、ディスプレイなどの周辺機器をスレーブとして接続する。マスターが通信の開始を宣言し、クロック信号を供給してタイミングを制御し、特定のスレーブを指定してデータの送受信を行う。各スレーブは自身のアドレスを持っており、マスターから呼び出された場合にのみ応答する。このようにして、限られた信号線で多数のデバイスを効率的に管理している。 近年、技術コミュニティでは「マスター/スレーブ」という用語が、その歴史的な背景から不適切であるとの認識が広まり、より中立的な代替用語への置き換えが進められている。この動きは、包括的な環境を促進する観点から多くの企業やオープンソースプロジェクトで採用されている。例えば、「マスター/スレーブ」の代わりに「Primary/Secondary(プライマリ/セカンダリ)」、「Primary/Replica(プライマリ/レプリカ)」、「Leader/Follower(リーダー/フォロワー)」、「Controller/Worker(コントローラー/ワーカー)」といった用語が使用されるようになった。システムエンジニアを目指す初心者は、この設計モデルの概念を理解すると同時に、新しいドキュメントやソフトウェアではこれらの代替用語が一般的に使われていることを認識しておく必要がある。古い資料では依然としてスレーブという言葉が使われているため、両方の文脈を理解しておくことが重要である。用語は変化しても、システムにおける主従関係に基づいた役割分担という基本的な設計思想は、今後も様々なシステムで活用され続けるだろう。