スピア型攻撃 (スピアガタコウゲキ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

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スピア型攻撃 (スピアガタコウゲキ) の読み方

日本語表記

スピア型攻撃 (スピアガタコウゲキ)

英語表記

Spear-phishing attack (スピアフィッシングアタック)

スピア型攻撃 (スピアガタコウゲキ) の意味や用語解説

スピア型攻撃は、特定の組織や個人を標的として実行されるサイバー攻撃の一種である。不特定多数に無差別で攻撃を仕掛ける「ばらまき型」とは異なり、まるで槍(スピア)で獲物を狙い撃ちするかのように、定められた標的だけを狙うことからこの名が付けられた。これは、より広義の「標的型攻撃」に分類される攻撃手法であり、その中でも特に個々の従業員などを精密に狙うものを指す場合が多い。攻撃の主な目的は、標的が所属する組織の機密情報や知的財産、個人情報などを窃取すること、あるいは内部システムへ侵入し、破壊活動を行うための足がかりを築くことにある。この攻撃の最大の特徴は、標的の信頼や心理的な隙を巧みに利用する点にあり、非常に巧妙化されているため、従来のセキュリティ対策だけでは防御が困難な場合がある。 スピア型攻撃は、周到な準備段階を経て実行される。攻撃者は、まず標的とする組織や個人に関する情報を入念に収集する。企業の公式ウェブサイト、プレスリリース、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のアカウント、過去に漏洩した情報など、公開されているあらゆる情報源を駆使して、組織の構造、従業員の氏名や役職、業務内容、取引先の情報、さらには個人の趣味や交友関係までを詳細に調査する。この偵察活動によって得られた情報をもとに、標的を騙すための信憑性の高いシナリオを構築する。次に、このシナリオに基づいて、標的が開封せざるを得ないような、極めて自然な電子メールを作成する。例えば、取引先や顧客、社内の上司や同僚、情報システム部、人事部など、標的が日常的にやり取りしている信頼できる人物や部署を差出人として偽装する。件名も「〇〇プロジェクトに関するご確認」「【至急】請求書送付のご案内」「セキュリティ強化に伴うパスワード変更のお願い」といった、業務に直結する内容や緊急性を煽るものが用いられる。メール本文も、収集した情報に基づいてパーソナライズされており、受信者が疑いを抱きにくいように作り込まれている。この巧妙に作成されたメールには、マルウェア(ウイルスなどの悪意のあるソフトウェア)が仕込まれたファイルが添付されているか、マルウェアをダウンロードさせる不正なウェブサイトへのリンクが記載されている。添付ファイルは、業務で頻繁に利用されるWord、Excel、PDFといった文書ファイルや、ZIP形式の圧縮ファイルに偽装されていることが多い。受信者がこれらの添付ファイルを開いたり、リンクをクリックしたりすると、PCがマルウェアに感染し、攻撃者による遠隔操作が可能な状態に陥る。一度内部ネットワークへの侵入に成功すると、攻撃者は潜伏活動を開始する。感染したPCを足がかりとして、ネットワーク内の他のPCやサーバーへと感染を広げ(水平展開)、より重要な情報にアクセスできる管理者アカウントの認証情報を窃取する(権限昇格)。最終的に、目的とする機密情報が保管されているサーバーに到達し、情報を外部へ送信する。これらの活動は非常に隠密に行われるため、組織が被害に気づくまでに数ヶ月から数年を要するケースも少なくない。スピア型攻撃への対策は、単一の技術に依存するのではなく、技術的、人的、組織的な観点から多層的に講じる必要がある。技術的対策としては、ファイアウォールやアンチウイルスソフトの導入はもちろんのこと、不正なメールを入口で検知・ブロックするメールセキュリティ製品、未知のマルウェアを仮想環境で実行してその挙動を分析するサンドボックス、そしてPCやサーバー上での不審な活動を検知し対応するEDR(Endpoint Detection and Response)などが有効である。しかし、攻撃は人間の心理を突くものであるため、技術的な対策だけでは限界がある。最も重要なのは、従業員一人ひとりのセキュリティ意識の向上である。不審なメールの見分け方、安易に添付ファイルを開いたりURLをクリックしたりしないことの徹底、少しでも怪しいと感じた場合の報告ルールの周知など、継続的な教育と訓練が不可欠である。組織的対策としては、厳格なセキュリティポリシーの策定、インシデント発生時に迅速に対応するための体制(CSIRTなど)の整備、そして従業員に必要最小限のアクセス権限のみを付与する「最小権限の原則」の徹底が、被害の発生防止と拡大抑制の両面で効果を発揮する。

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