スプリットブレインシンドローム (スプリットブレインシンドローム) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
スプリットブレインシンドローム (スプリットブレインシンドローム) の読み方
日本語表記
スプリットブレインシンドローム (スプリットブレインシンドローム)
英語表記
split-brain syndrome (スプリット・ブレイン・シンドローム)
スプリットブレインシンドローム (スプリットブレインシンドローム) の意味や用語解説
スプリットブレインシンドロームは、分散システム、特にクラスタシステムにおいて発生する特有の障害現象の一つである。システムを構成する複数のノードが互いの存在を確認できなくなり、それぞれが独立して動作することで、データの一貫性喪失やリソースの競合を引き起こす状態を指す。この状態は、あたかも一つの脳が二つに分かれてそれぞれが異なる意思決定を行うかのように見えることから、「スプリットブレイン」(分離脳)という名称がつけられている。システムエンジニアを目指す上で、この現象とその対策を理解することは、信頼性の高いシステムを構築・運用するために不可欠である。 クラスタシステムでは、通常、複数のサーバ(ノード)が連携し、あたかも一台のサーバであるかのようにサービスを提供する。例えば、一台のノードに障害が発生しても、別のノードがその役割を引き継ぎ、サービスを継続する仕組み(フェイルオーバー)が一般的だ。ノード間では、互いの稼働状況を確認するための通信(ハートビート通信と呼ばれる)が常に行われている。また、複数のノードが共有のストレージリソースにアクセスし、データを処理する構成も多い。 スプリットブレインシンドロームは、このノード間のハートビート通信が何らかの原因で途絶したときに発生しやすい。最も典型的な原因はネットワークの分断である。例えば、ノード間の接続ケーブルが切断されたり、通信を担当するスイッチが故障したりすると、ノードは互いの存在を確認できなくなる。このとき、各ノードは「相手ノードが停止した」「自分だけが生き残っている」と誤認識し、サービス継続のためにそれぞれが「プライマリノード」として振る舞い始める可能性がある。 このような状態に陥ると、各ノードは共有ストレージに対し、独立したデータ更新を試みたり、同じIPアドレスを使ってサービスを提供しようとしたりする。例えば、データベースを運用するクラスタでスプリットブレインが発生すると、それぞれのノードがデータベースへの書き込み権限を持っていると誤認し、競合するデータ更新を行う。あるノードが顧客Aの情報を更新した直後に、別のノードが古い顧客Aの情報に基づいてさらに別の更新を行い、結果的にどちらの更新が正しいのか判断できない、あるいはデータが破損するといった事態が発生する。また、両方のノードが同じ仮想IPアドレスを保持し、ネットワーク上でIPアドレスの衝突が発生することで、サービスが不安定になったり、完全に停止したりする可能性もある。これにより、データは破損したり、回復不能な矛盾を抱えたりする可能性があり、最悪の場合、システム全体の機能停止や重要なデータの喪失につながる。 この問題を回避するためには、スプリットブレイン状態を検知し、未然に防ぐ、あるいは発生した際に適切な回復処理を行うための仕組みが必要となる。主要な対策の一つは、クォーラム(Quorum)と呼ばれる多数決機構の導入である。クォーラムは、クラスタを構成するノード群のうち、過半数のノードが機能していることを確認できた場合にのみ、クラスタ全体が正常に動作していると判断する仕組みである。例えば、3台以上のノードでクラスタを構成し、ネットワークが分断されても、過半数(2台以上)のノードが互いに通信できるグループだけがサービスを継続することを許す。これにより、少数のノードからなるグループが単独でサービスを提供し始めるのを防ぎ、データ不整合のリスクを低減できる。 さらに強力な対策として、フェンシング(Fencing)あるいはSTONITH(Shoot The Other Node In The Head)と呼ばれる機構がある。これは、スプリットブレイン状態が検知された際に、誤って動作している可能性のあるノードを強制的に停止させる、または共有ストレージへのアクセスを遮断する仕組みである。具体的には、電源制御ユニットと連携して対象ノードの電源を物理的に落とす、ストレージアクセスパスを遮断する、などの方法が用いられる。これにより、問題のあるノードが共有リソースを操作することを確実に防ぎ、データの破壊やサービス競合を未然に防止する。フェンシングは、クラスタの健全性を保つ上で最後の砦となる重要な機能である。 また、ネットワークの冗長化も重要な対策の一つである。ノード間のハートビート通信やデータ通信に使用するネットワークパスを複数用意し、一つのパスに障害が発生しても別のパスで通信を継続できるようにすることで、ネットワーク分断自体の発生確率を低減させる。複数のNIC(ネットワークインターフェースカード)やスイッチ、ケーブルを用意し、異なるネットワークセグメントを利用することで、単一障害点(SPOF: Single Point Of Failure)をなくす設計が求められる。 スプリットブレインシンドロームは、分散システムや高可用性クラスタを設計・運用する上で、常に考慮すべき重要な課題である。単にノード数を増やすだけでは解決せず、むしろノード間の協調動作が複雑になることで、発生リスクが高まる可能性もある。そのため、システムの特性に応じた適切な検出・回避・回復メカニズムを組み込み、データの一貫性とシステムの可用性を確保することが、システムエンジニアの重要な役割となる。これらの対策を理解し、適切に適用することで、信頼性の高いシステムを提供できる。