スプリットトンネル (スプリットトンネル) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
スプリットトンネル (スプリットトンネル) の読み方
日本語表記
スプリットトンネル (スプリットトンネル)
英語表記
Split Tunnel (スプリットトンネル)
スプリットトンネル (スプリットトンネル) の意味や用語解説
スプリットトンネルとは、仮想プライベートネットワーク(VPN)接続において、特定の通信のみをVPNトンネル経由でルーティングし、その他の通信は直接インターネットにルーティングする機能である。これは、VPN接続の既定の動作である「フルトンネル」(すべての通信をVPN経由でルーティングする)とは対照的な概念だ。システムエンジニアを目指す初心者がこの概念を理解することは、ネットワーク設計やセキュリティポリシー策定において非常に重要となる。 通常、企業ネットワークにリモートからアクセスする際、VPNクライアントソフトウェアを使用してVPNサーバーに接続する。この時、VPNがフルトンネルモードで動作していれば、利用者のPCから発生するすべての通信、例えば社内ネットワークへのアクセス、ウェブサイト閲覧、メールの送受信などが、一度企業のVPNサーバーを経由してインターネットに出る形となる。これはセキュリティの観点からは望ましいが、すべてのトラフィックがVPNサーバーを経由するため、パフォーマンスの低下や企業ネットワークへの負荷増大を招く可能性がある。 一方、スプリットトンネルは、この問題を解決するために導入される。具体的には、VPNクライアントソフトウェアやVPNサーバーの設定により、どのトラフィックがVPNトンネルを通るべきか、そしてどのトラフィックがローカルのインターネット接続を直接使うべきかを決定する。例えば、社内ファイルサーバーへのアクセスや社内システムへのログインなど、企業の内部リソースへの通信はVPNトンネルを通過させ、YouTubeの閲覧や個人のメールチェックなど、インターネット上の公開サービスへの通信はVPNトンネルを通さず、直接利用者のローカルインターネット接続から外部に送る、といった設定が可能だ。このルーティングの決定は、主にクライアント側のルーティングテーブルを動的に操作することによって行われる。VPN接続時に特定の宛先IPアドレス範囲に対するルートがVPNインターフェースに設定され、それ以外のデフォルトルートはローカルの物理インターフェースに残る。 スプリットトンネルの実装は主に二つの方式に分けられる。一つは「インクルードスプリットトンネル」で、これは特定の宛先(主に企業の内部ネットワークアドレス範囲)への通信のみをVPNトンネル経由でルーティングし、それ以外のすべての通信はVPNを迂回して直接インターネットへ向かう。これが最も一般的な利用形態だ。もう一つは「エクスクルードスプリットトンネル」で、これは特定の宛先(例えば、特定の動画ストリーミングサービスやクラウドサービス)への通信のみをVPNを迂回させ、それ以外のすべての通信はVPNトンネル経由でルーティングする。後者の方式は稀だが、特定の条件下で利用されることがある。 この機能の利点は多岐にわたる。まず、パフォーマンスの向上だ。インターネットへの直接アクセスを許可することで、利用者は社外のウェブサービスやクラウドサービスを高速に利用できる。すべてのトラフィックがVPNサーバーや企業ネットワークの出口を経由するボトルネックが解消されるため、遅延が減少し、快適な操作感を実現する。次に、VPNサーバーおよび企業ネットワークの負荷軽減だ。VPNサーバーは社内リソースへのアクセスに必要な通信のみを処理すればよいため、CPUや帯域幅のリソース消費が抑えられる。これにより、より多くの同時接続を処理できるようになり、企業全体のネットワーク帯域幅の節約にも繋がる。さらに、通信コストの削減も期待できる場合がある。企業がプロバイダから購入しているインターネット回線の帯域幅を、社外の一般インターネットトラフィックで消費しなくて済むためだ。 しかし、スプリットトンネルには重要なセキュリティ上の欠点も存在する。最大の懸念は、VPNを迂回するトラフィックが企業のセキュリティポリシーの保護下に置かれないことだ。すなわち、利用者が直接インターネットにアクセスする際、企業のファイアウォール、侵入検知システム(IDS/IPS)、ウェブフィルタリングといったセキュリティ対策を通過しないため、マルウェア感染やフィッシング詐欺などのリスクが高まる可能性がある。もし利用者のデバイスがインターネットからマルウェアに感染した場合、そのデバイスはVPNトンネルを通じて企業の内部ネットワークにも接続しているため、内部ネットワークへの脅威の侵入経路となるリスクがある。この状況は「デュアルホーミング」と呼ばれる脆弱性を生み出すことがある。また、利用者のインターネットアクセス時のIPアドレスが、VPNサーバーのものではなく、利用者の実際のグローバルIPアドレスとなるため、匿名性やプライバシー保護の観点から問題となるケースもある。コンプライアンス要件によっては、すべての通信が企業の監視下に置かれることを義務付けている場合があり、その場合はスプリットトンネルの利用は認められない。 これらのリスクを軽減するためには、エンドポイントセキュリティ対策が極めて重要となる。VPNクライアントデバイスには、最新のアンチウイルスソフトウェア、パーソナルファイアウォール、エンドポイント検出応答(EDR)ソリューションなどを導入し、デバイス自体が強固に保護されている必要がある。また、企業は利用者がスプリットトンネルを適切に利用するためのセキュリティポリシーを明確に定め、教育を徹底することも不可欠だ。 スプリットトンネルは、利用者の利便性向上、ネットワークリソースの効率化と、セキュリティリスクのバランスを考慮して導入されるべき機能だ。特に、大容量のデータを扱うクラウドサービスへのアクセスや、国際的な拠点間での利用など、フルトンネルでのパフォーマンス低下が顕著なシナリオにおいて、その有用性が発揮されることが多い。システムの設計者や管理者は、自社のネットワーク環境、セキュリティ要件、利用者のニーズを総合的に評価し、最適なVPN運用形態を選択する必要がある。