スポットインスタンス (スポットインスタンス) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
スポットインスタンス (スポットインスタンス) の読み方
日本語表記
スポットインスタンス (スポットインスタンス)
英語表記
Spot Instance (スポットインスタンス)
スポットインスタンス (スポットインスタンス) の意味や用語解説
スポットインスタンスとは、クラウドコンピューティングサービスにおいて、一時的に利用可能な余剰コンピューティングリソースを非常に低い価格で提供するインスタンスタイプの一つである。クラウドプロバイダが自社のデータセンターで保有する、まだ顧客に割り当てられていない仮想サーバーやその他のリソース(CPU、メモリなど)を、必要とするユーザーに市場価格で利用させる仕組みとして提供される。これにより、ユーザーは通常のオンデマンドインスタンスと比較して大幅なコスト削減を実現できる可能性があるが、いくつかの重要な特性を理解し、適切に利用する必要がある。 スポットインスタンスの最も特徴的な点は、その価格が需要と供給に基づいて変動すること、そしてクラウドプロバイダの都合によっていつでも中断される可能性があることだ。クラウドプロバイダは、顧客がオンデマンドインスタンスやリザーブドインスタンスを要求した場合に備え、一定量のキャパシティを確保している。スポットインスタンスはこの確保されたキャパシティの余剰分を利用するため、もしオンデマンドインスタンスなどの需要が高まり、リソースが不足する状況になれば、稼働中のスポットインスタンスは強制的に停止または終了させられることになる。この中断は「プリエンプション」とも呼ばれ、通常、インスタンスが中断される数分前にユーザーに通知が送られることが多い。しかし、通知後すぐに中断されるため、その短い時間で処理を完全に完了させることは困難な場合が多い。 価格は、クラウドプロバイダが設定するスポット市場の価格によって決まる。この価格は、リージョンやアベイラビリティゾーン、インスタンスタイプごとに異なる。ユーザーは、最大支払価格(入札価格)を設定できる場合があり、現在のスポット市場価格がユーザーの最大支払価格を下回っている限り、インスタンスは稼働し続ける。しかし、市場価格が最大支払価格を上回ると、インスタンスは中断される。多くのクラウドプロバイダでは、この入札価格を設定せずに市場価格で利用するオプションも提供されており、この場合も市場価格が変動し、リソースの需要が高まれば中断される可能性がある。この価格変動と中断の可能性こそが、スポットインスタンスが通常のインスタンスよりも格段に安価である理由である。 このような特性から、スポットインスタンスは、中断されても大きな問題とならないワークロードや、中断されても容易に再開できるような設計が可能なワークロードに特に適している。具体的には、バッチ処理、データ分析、テスト環境、開発環境、コンテナベースのステートレスなアプリケーション、レンダリング、大規模な計算処理など、一時的な利用や分散処理に適した用途が挙げられる。例えば、大量の画像処理や動画エンコードなど、処理を小さなタスクに分割でき、各タスクが独立しているようなケースでは、一部のインスタンスが中断されても残りのインスタンスで処理を続行したり、中断されたタスクを別のスポットインスタンスやオンデマンドインスタンスで再実行したりすることが容易である。 一方で、永続的なデータストアを必要とするデータベースサーバー、常に稼働している必要があるWebサーバーやアプリケーションサーバー、状態を保持するサービスなど、中断が許されない、あるいは中断によってサービスに重大な影響が出るようなワークロードには、スポットインスタンスは不向きである。これらの用途には、安定した稼働が保証されるオンデマンドインスタンスやリザーブドインスタンスを利用すべきだ。 スポットインスタンスを効果的に利用するためには、耐障害性のあるアーキテクチャ設計が不可欠となる。具体的には、処理の途中経過を定期的に保存するチェックポイント機能の実装、キューイングサービスを利用して中断されたタスクを自動的に再スケジュールする仕組み、複数のスポットインスタンスや異なるインスタンスタイプを組み合わせて利用する分散処理、あるいは異なるアベイラビリティゾーンにインスタンスを分散配置するなどの対策が考えられる。これにより、たとえインスタンスが中断されても、システム全体の可用性や処理の継続性を確保できる。 主要なクラウドサービスでは、AWSの「EC2スポットインスタンス」、Google Cloudの「プリエンプティブVM」や「スポットVM」、Microsoft Azureの「スポットVM」など、名称は異なるものの同様のサービスが提供されている。これらは、クラウドインフラの柔軟性とコスト効率を最大限に引き出すための重要な選択肢の一つとして、多くの企業や開発者に利用されている。システムエンジニアを目指す上では、これらのコストメリットとリスクを理解し、適切な場面で活用できるスキルを身につけることが求められる。