スタック (スタック) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

スタック (スタック) の読み方

日本語表記

スタック (スタック)

英語表記

stack (スタック)

スタック (スタック) の意味や用語解説

スタックは、データを一時的に保存するための特殊なデータ構造の一つである。このデータ構造は、データの追加と取り出しに関して、LIFO（Last-In, First-Out、後入れ先出し）という特定の原則に従って動作する。LIFOの原則とは、最後にスタックに追加されたデータが、スタックから取り出す際に最も早く取り出されるという特性を指す。これは、プログラムの実行中に一時的な情報を効率的に保持したり、特定の処理の履歴を管理したりする際に広く利用される、コンピュータサイエンスにおける基本的な概念である。 スタックの動作はLIFOの原則に厳密に基づいており、後から追加されたデータが先に取得されるという特性を持つ。この特性は、特定のアルゴリズムやシステム機能の実装において非常に重要となる。 スタックに対して行われる主要な操作は以下の通りである。 プッシュ（Push）は、スタックに新しいデータを追加する操作を指す。データは常にスタックの「トップ（一番上）」に追加される。この操作が行われると、スタックに格納されているデータ量が増加する。 ポップ（Pop）は、スタックからデータを取り出す操作を指す。データは常にスタックの「トップ」から取り出され、取り出されたデータはスタックから削除される。この操作により、スタックに格納されているデータ量は減少する。もし空のスタックに対してポップ操作を行おうとすると、スタックアンダーフローと呼ばれるエラーが発生する。 ピーク（Peek）またはトップ（Top）は、スタックのトップにあるデータを参照する操作である。この操作ではデータが取り出されて削除されることはなく、単にその値を確認する目的で利用される。 コンピュータの内部では、スタックは通常、メモリ上の一部分を使って実装される。具体的には、配列や連結リストのような線形データ構造を用いて構成されることが多い。スタックのトップの位置を管理するために、「スタックポインタ」と呼ばれる特殊なレジスタや変数が用いられる。プッシュ操作が行われるたびにスタックポインタは新しいトップの位置を示すように移動し、ポップ操作が行われるたびにスタックポインタは以前のトップの位置を示すように移動する。これにより、常に正しいトップの位置が管理される。 スタックは様々な場面で利用される。最も典型的な例は、プログラムにおける関数呼び出しの管理である。プログラムが関数を呼び出す際、その関数の戻りアドレス（関数が終了した後に実行を再開する場所）、関数の引数、そして関数内で使用されるローカル変数などが、一時的にスタックに保存される。このスタック領域はコールスタックと呼ばれ、関数が呼び出されるたびに新しい情報がプッシュされ、関数が終了するとその情報がポップされて、プログラムの実行フローが正確に制御される。再帰関数（自分自身を呼び出す関数）の処理も、このコールスタックの仕組みを深く利用して実現される。 その他にも、スタックの利用例は多岐にわたる。例えば、数式を評価するアルゴリズムにおいて、特に逆ポーランド記法のような後置記法では、オペランド（演算対象のデータ）を一時的にスタックに保存し、演算子が来たときにスタックからオペランドを取り出して計算を行う方法が用いられる。 また、多くのソフトウェアで提供されている「元に戻す（アンドゥ）」や「やり直し（リドゥ）」といった機能の実装にもスタックが利用される。ユーザーの操作履歴をスタックに保存し、アンドゥ操作時には最新の操作をスタックからポップして元に戻す、という仕組みである。ウェブブラウザの「戻る」ボタンによる閲覧履歴の管理も、訪問したページのURLをスタックに保存することで実現される。 スタックには容量の限界があり、プログラム実行時に割り当てられるメモリ領域には限りがある。プログラムが過剰に多くのデータをスタックにプッシュし続け、割り当てられたメモリ領域を超過してしまうと、「スタックオーバーフロー」と呼ばれる重大なエラーが発生する。これは、プログラムが予期せぬ動作をしたり、システムが動作不能になったりする原因となる。スタックオーバーフローは、無限ループによって再帰関数が深く呼び出されすぎた場合などによく見られる。 このように、スタックはシンプルながらも非常に強力なデータ構造であり、コンピュータシステムやソフトウェアの基盤を支える重要な要素の一つである。そのLIFOの特性と基本的な操作、そして利用例を理解することは、システムエンジニアを目指す上で不可欠な知識となる。