スタックフレーム (スタックフレーム) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
スタックフレーム (スタックフレーム) の読み方
日本語表記
スタックフレーム (スタックフレーム)
英語表記
Stack Frame (スタックフレーム)
スタックフレーム (スタックフレーム) の意味や用語解説
スタックフレームとは、プログラムが関数(またはサブルーチン)を呼び出す際に、その関数が実行を完了するために必要な情報や作業領域を一時的に格納するメモリ領域のことである。この領域は、プログラムの実行中に動的に変化するメモリ領域である「スタック」上に生成される。スタックフレームは、個々の関数呼び出しごとに独立して作成され、関数が終了すると同時に解放される。 スタックはLIFO(Last-In, First-Out:後入れ先出し)のデータ構造を持つメモリ領域であり、プログラムが実行されるたびに、関数呼び出しの情報が上から順に積み重ねられ、処理が完了すると上から順に取り除かれる。このスタックに積み重ねられる情報の単位がスタックフレームである。一つの関数が別の関数を呼び出す場合、呼び出された関数のための新しいスタックフレームが、呼び出し元の関数のスタックフレームの上に積み重ねられる。これにより、関数が入れ子状に呼び出されても、それぞれの関数が必要な情報を独立して保持できる仕組みとなっている。 スタックフレームが含む主要な要素は、一般的に以下の通りである。第一に、関数が終了した後にプログラムが実行を再開すべき場所を示す「戻りアドレス」である。関数呼び出し命令が実行されると、次に実行すべき命令のアドレスがスタックにプッシュされ、それが戻りアドレスとして機能する。第二に、呼び出された関数に渡される「引数」である。これらの引数は、関数が自身の処理を行うために利用する入力値となる。第三に、関数内で宣言される一時的な変数である「ローカル変数」を格納する領域である。これらの変数は、その関数が実行されている間のみ存在し、関数が終了すると破棄される。第四に、関数が実行中に使用するCPUの「レジスタ」の元の値を保存するための領域である。関数がレジスタの内容を変更する前に元の値を保存し、関数終了時に元の状態に戻すことで、呼び出し元の関数の処理に影響を与えないようにする。最後に、「フレームポインタ(またはベースポインタ)」と呼ばれる特殊なポインタが、現在のスタックフレームの特定の場所、通常はその開始地点を指し示す。これにより、関数はスタックフレーム内の引数やローカル変数などの情報に効率的にアクセスできるようになる。また、「スタックポインタ」は、スタックの現在の最上位を指し示し、データの追加(プッシュ)や削除(ポップ)の基準となる。 スタックフレームの生成と解放のプロセスは、関数の呼び出しと戻りによって制御される。関数が呼び出される前、呼び出し元の関数は、呼び出される関数に必要な引数をスタックにプッシュする。その後、関数呼び出し命令が実行され、現在の命令の次の命令のアドレス(戻りアドレス)がスタックに自動的にプッシュされる。関数が呼び出されると、まず「プロローグ」と呼ばれる処理が実行される。このプロローグでは、現在のフレームポインタの値をスタックに保存し、新しいフレームポインタを現在のスタックポインタの値に設定する。そして、ローカル変数を格納するための領域をスタック上で確保するために、スタックポインタを調整する。これにより、新しいスタックフレームが確立される。 関数が実行されている間は、このスタックフレーム内でローカル変数へのアクセス、引数の参照、CPUレジスタの利用などが行われる。関数が他の関数を呼び出す場合、その新しい関数に対しても同様のプロセスでスタックフレームが生成され、既存のスタックフレームの上に積み重ねられる。この連鎖的な構造により、どの関数がどの関数を呼び出したかの履歴がスタック上に保持される。 関数が処理を終えると、「エピローグ」と呼ばれる処理が実行される。このエピローグでは、まずローカル変数の領域が解放される。具体的には、スタックポインタがフレームポインタの位置に戻される。次に、保存されていたレジスタの値が復元され、元のフレームポインタの値もスタックからポップされて元の状態に戻される。最後に、スタックに保存されていた戻りアドレスがポップされ、そのアドレスへプログラムの実行フローが戻されることで、呼び出し元の関数の処理が再開される。このようにして、スタックフレームは動的に生成され、利用され、そして解放される一連のサイクルを繰り返す。 スタックフレームの理解は、プログラムのデバッグ、メモリ管理、そしてセキュリティの脆弱性(例えばスタックオーバーフロー攻撃)を理解する上で不可欠である。スタック領域のサイズには限りがあるため、関数が自身を無限に呼び出すような再帰処理や、非常に大きなローカル変数を宣言するプログラムでは、スタック領域を使い果たして「スタックオーバーフロー」というエラーが発生することがある。これは、スタックフレームが利用可能なメモリ領域を超えてしまい、プログラムが正常に動作できなくなる状態である。 したがって、スタックフレームは、プログラムが関数を効率的かつ安全に実行するための基本的なメカニズムであり、その構造と動作を理解することは、システムエンジニアとしてプログラムの内部動作を深く理解するために極めて重要である。