状態遷移表 (ジョウタイセンイヒョウ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
状態遷移表 (ジョウタイセンイヒョウ) の読み方
日本語表記
状態遷移表 (ジョウタイセンイヒョウ)
英語表記
State transition table (ステートトランジションテーブル)
状態遷移表 (ジョウタイセンイヒョウ) の意味や用語解説
「状態遷移表」は、システムやソフトウェアが取り得る「状態」と、その状態が変化するきっかけとなる「イベント」、そして状態変化に伴って発生する「アクション」、そして変化後の「次状態」を、表形式で整理し記述するドキュメントである。これは、システムの振る舞いを明確にし、どのような状況でシステムがどのように反応すべきかを網羅的に定義するために非常に有効な手段である。特に、ユーザーインターフェースを持つアプリケーションや、様々な外部入力に応じて動作を変える組込みシステムなど、複雑な振る舞いをするシステムの設計で重宝される。この表を用いることで、設計の漏れや矛盾を防ぎ、開発者間の認識齟齬を減らし、品質の高いシステム開発に貢献する。 状態遷移表は、主に「現在の状態」「イベント」「アクション」「次状態」の四つの要素で構成される。 「現在の状態」とは、システムがその瞬間に置かれている特定の状況や条件を指す。例えば、自動販売機であれば「硬貨投入待機中」「商品選択待機中」「商品搬出中」「釣銭切れ」などが状態として考えられる。システムは一度に複数の状態を同時に持つことはなく、常にいずれか一つの状態にある。 「イベント」とは、現在の状態から別の状態へシステムが移行するきっかけとなる、外部からの入力や内部で発生する事象である。これも自動販売機を例にとると、「硬貨の投入」「商品ボタンの押下」「釣銭ボタンの押下」「商品切れの検出」などがイベントに該当する。イベントは、システムに何らかの変化を促す引き金となる。 「アクション」とは、イベントが発生し、状態が変化する際にシステムが実行する処理のことである。例えば、「硬貨を受け入れる」「商品の在庫を減らす」「釣銭を排出する」「エラーメッセージを表示する」といった具体的な動作がアクションとして定義される。アクションは状態が変化する直前や直後に実行される場合が多い。 そして「次状態」とは、特定のイベントが発生した結果、システムが移行する先の状態である。現在の状態とイベントの組み合わせによって、システムがどの状態へ移行するかが明確に定義される。 状態遷移表の具体的な作成においては、通常、表の行に「現在の状態」を、列に「イベント」を配置し、各セルに「次状態/アクション」を記述する形式が用いられる。この形式により、システムがどの状態にある時に、どのイベントが発生したら、どのようなアクションを実行し、どの状態へ移行するのかが一目でわかるようになる。 例えば、自動販売機の簡単な例で考えてみる。 現在の状態が「硬貨投入待機中」の時に「100円硬貨投入」というイベントが発生した場合、アクションとして「投入金額を100円増やす」「画面に投入金額を表示する」といった処理を実行し、次状態は「商品選択待機中」となるだろう。 また、現在の状態が「商品選択待機中」の時に「商品Aボタン押下」というイベントが発生し、かつ投入金額が十分であった場合、アクションとして「商品Aを搬出する」「釣銭を計算し排出する」といった処理を実行し、次状態は「硬貨投入待機中」に戻る。もし投入金額が不足している場合は、アクションとして「金額不足のメッセージを表示する」を実行し、次状態は「商品選択待機中」のままである、といった具合である。このように、システムがどのような入力を受けた際に、どのように振る舞い、どのように状態が変化するかを、詳細かつ網羅的に定義していく。 このように状態遷移表を利用するメリットは多岐にわたる。 第一に、システムの振る舞いを網羅的に定義できる点である。すべての状態とすべてのイベントの組み合わせを明示的に記述するため、設計上の抜け漏れを発見しやすくなる。これにより、システムの予期せぬ動作や未考慮のケースを減らすことができる。 第二に、システムの矛盾を早期に発見できる点である。例えば、ある状態とイベントの組み合わせに対して複数の次状態が定義されていたり、矛盾するアクションが定義されていたりするような場合に、表を見ればすぐに異常に気づくことができる。 第三に、関係者間のコミュニケーションを円滑にする点である。開発者、テスト担当者、顧客といった異なる立場の関係者全員が、システムがどのように動作するかの共通認識を持ちやすくなる。これにより、要件定義の段階で認識齟齬を解消し、開発工程における手戻りを減らす効果がある。 第四に、テストケースの作成に非常に役立つ点である。表の各セルは、そのままテストシナリオのパスとして利用できるため、網羅性の高いテスト計画を効率的に立てることが可能になる。これはテストの品質向上とコスト削減に直結する。 一方で、状態遷移表の利用には注意点もある。システムの規模が大きく、状態やイベントの種類が非常に多くなると、表が巨大化し、その作成と管理が複雑になるというデメリットがある。この場合、表の可読性が低下し、かえって理解を妨げる要因となることもある。また、状態が常に連続的に変化するようなリアルタイムシステムや、複数の状態が並行して進行する並行処理システムなど、特定の種類のシステムでは、単純な状態遷移表では表現が困難な場合もある。そのため、常にすべてのシステム開発に適用すべきというわけではなく、対象システムの特性に応じて、その適用範囲や詳細度を適切に判断することが重要である。しかし、適切な範囲で利用することで、システム開発の品質と効率を大きく向上させる強力なツールとなることは間違いない。