構造化手法 (コウゾウカシュホウ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
構造化手法 (コウゾウカシュホウ) の読み方
日本語表記
こうぞうかしゅほう (コウゾウカシュホウ)
英語表記
Structured method (ストラクチャード・メソッド)
構造化手法 (コウゾウカシュホウ) の意味や用語解説
構造化手法は、1970年代から1980年代にかけて広く採用されたシステム開発のための方法論である。大規模で複雑なソフトウェアを、無秩序な状態に陥らせることなく、体系的かつ効率的に開発することを目的として考案された。特に、要件定義から設計、実装、テストへと工程を順に進めていくウォーターフォールモデルのような開発プロセスと親和性が高く、当時のソフトウェア開発における標準的なアプローチとして確立された。この手法の根底にあるのは「分割統治」という考え方である。これは、一つの巨大で複雑な問題を、そのまま解決しようとするのではなく、人間が理解しやすい大きさの、より小さな問題の集合へと分割し、それぞれを個別に解決していくことで、最終的に全体の問題を解決するというアプローチだ。 構造化手法では、システムの全体像から始めて、段階的に詳細化していくトップダウンアプローチを採用する。まずシステムの最上位の機能を定義し、次にその機能を構成するより具体的な機能へと分解していく。この分解を、個々の機能が十分に単純で実装可能な単位になるまで繰り返す。この分割された機能の単位は「モジュール」と呼ばれる。モジュールは、特定の役割を持つ独立した部品として設計され、モジュール間の依存関係をできるだけ小さくすることが推奨される。これにより、あるモジュールの修正が他のモジュールへ予期せぬ影響を及ぼすことを防ぎ、システムの保守性を高めることができる。構造化手法は、システムを主に「機能(プロセス)」「データ」「状態(制御)」という三つの異なる視点から分析・設計する。機能中心のアプローチでは、システムが「何を行うか」に着目し、データの流れと処理の関係をモデル化する。この際に用いられる代表的な図法がDFD(Data Flow Diagram)である。DFDは、データの流れ、データを処理するプロセス、データを保管するデータストア、システムの外部にあるデータの源泉や宛先といった要素を記号で表現し、システム全体のデータの動きを可視化する。これにより、業務プロセスやシステムの機能要件を明確に捉えることが可能となる。次に、データ中心のアプローチでは、システムが「どのようなデータを扱うか」という点に焦点を当てる。ここでは、データの構造やデータ同士の関連性をモデル化することが目的であり、そのための代表的な図法としてER図(Entity-Relationship Diagram)が用いられる。ER図は、顧客や商品といったデータのまとまりである「エンティティ」と、それらのエンティティが持つ属性、そしてエンティティ間の関連性を表現する。このER図は、リレーショナルデータベースの設計における基礎となり、現在でもデータベース設計の現場で広く活用されている。最後の状態中心のアプローチは、システムの「状態がどのように変化するか」を分析するもので、特に外部からの出来事(イベント)に応じてシステムの振る舞いが変わるリアルタイムシステムや組み込みシステムの設計で重要となる。状態遷移図がその代表的な図法であり、システムが取りうる「状態」と、ある状態から別の状態へ移行するきっかけとなる「イベント」、そしてその際に実行される「アクション」を明確に記述する。 構造化手法の利点は、大規模なシステムを体系的に分割して管理できる点、開発工程が明確になる点、そしてDFDやER図といった標準化されたドキュメントを用いることで開発者間の意思疎通が円滑になり、成果物の品質を担保しやすくなる点にある。しかし、この手法には限界もあった。最大の課題は、仕様変更への対応が困難であることだ。特に、システムの根幹をなすデータ構造の変更が発生した場合、そのデータを利用する多くの機能(モジュール)に修正が必要となり、広範囲に影響が及んでしまう。これは、構造化手法がデータと、そのデータを操作する手続き(機能)を分離して設計するという特性に起因する。この課題を克服するために、データと手続きを「オブジェクト」という一つのまとまりとして扱う「オブジェクト指向」という考え方が登場し、現在のソフトウェア開発の主流となった。とはいえ、構造化手法の価値が完全に失われたわけではない。その分析・設計の考え方や、DFD、ER図といった図法は、システム開発の初期段階で業務を理解したり、データベースを設計したりする上で今なお非常に有効である。システムを機能やデータといった観点から整理し、全体像を把握する能力は、どのような開発手法を用いるにしてもエンジニアにとって不可欠な基礎スキルと言えるだろう。