スーパースカラ (スーパースカラ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
スーパースカラ (スーパースカラ) の読み方
日本語表記
スーパースカラ (スーパースカラ)
英語表記
superscalar (スーパースカラー)
スーパースカラ (スーパースカラ) の意味や用語解説
スーパースカラとは、中央処理装置(CPU)の性能向上技術の一つである。従来のCPUが一つの命令パイプラインを用いて一命令ずつ処理を進めるのに対し、スーパースカラプロセッサは複数の命令パイプラインまたは複数の実行ユニットを搭載し、同時に複数の命令を実行することで、単位時間あたりの処理能力(Instruction Per Cycle: IPC)を高めることを目的とする。この技術は、シングルコアの性能を最大限に引き出すために不可欠な要素であり、現代の高性能CPUのほとんどに採用されている。CPUの内部並列性を活用し、プログラムコードの命令レベル並列性を動的に引き出す点が特徴である。 スーパースカラプロセッサの動作原理は、命令の依存関係を動的に解決しながら、複数の独立した命令を並列に処理することにある。まず、CPUは命令フェッチステージで複数の命令をまとめて取得する。次に、命令デコードステージでそれらの命令を解釈し、各命令が必要とするリソース(演算器、レジスタなど)を特定する。 この後、最も重要なのが命令発行(issue)ステージである。ここで、CPUの命令発行ユニット(スケジューラ)は、デコードされた複数の命令の中から、互いにデータ依存関係や制御依存関係を持たない、あるいはそれらの依存関係を解決できる命令の組み合わせを探し出す。例えば、「A = B + C」と「D = E * F」という二つの命令がある場合、これらが互いに無関係であれば、同時に異なる実行ユニット(例えば、一つは加算器、もう一つは乗算器)に発行され、並列に実行される。 命令の並列実行を可能にするためには、いくつかの高度な技術が組み合わされている。 一つは「アウト・オブ・オーダー実行(Out-of-Order Execution, OOO)」である。これは、プログラム上の順序とは異なる順序で命令を実行する技術である。ある命令が前の命令の結果を待つ必要がある場合、その待ち時間の間に、後続の依存関係のない命令を先に実行する。ただし、実行順序が異なっても、最終的なプログラムの状態(レジスタやメモリの内容)は、元のプログラム順序で実行された場合と同じになるように、命令のコミット(結果の確定と反映)はプログラム順序通りに行われる。この機構により、パイプラインのストール(停止)を最小限に抑え、プロセッサの利用率を高める。 もう一つは「レジスタリネーミング(Register Renaming)」である。これは、レジスタの再利用によって発生する見かけ上の依存関係(WAR: Write-After-Read、WAW: Write-After-Write)を解消するための技術である。物理レジスタをアーキテクチャレジスタよりも多く用意し、プログラムが参照する論理的なレジスタ名を、実行時に空いている物理レジスタに割り当てることで、異なる命令が同じレジスタ名を参照していても、実際には異なる物理レジスタを使用するようにし、不必要な依存関係による並列性阻害を防ぐ。 さらに、「分岐予測(Branch Prediction)」もスーパースカラプロセッサの性能を左右する重要な要素である。プログラムには条件分岐(if文など)が頻繁に現れるが、分岐命令の結果が確定するまで、次に実行すべき命令を特定できないため、パイプラインが停止してしまう可能性がある。分岐予測は、過去の実行履歴などに基づいて次に進むべきパスを予測し、その予測に基づいて命令を先行してフェッチ・実行する「投機的実行(Speculative Execution)」を可能にする。予測が当たれば、パイプラインの停止なしに処理を続行できるが、予測が外れた場合は、誤って実行した命令の結果を破棄し、正しいパスの命令を再度フェッチし直す必要がある。 スーパースカラプロセッサは、複数の整数演算ユニット(ALU)、浮動小数点演算ユニット(FPU)、ロード/ストアユニット、分岐ユニットなどの実行ユニットを持つ。命令発行ユニットは、これらの利用可能なユニットと命令の性質を考慮して、最適な並列実行の組み合わせを決定する。これらの複雑なハードウェア制御機構により、プログラマが明示的に並列処理を記述しなくても、CPUが自動的に命令レベルの並列性を引き出し、高い性能を実現するのである。 スーパースカラ技術は、CPUの内部構造を複雑にし、消費電力の増加を招く一方で、シングルスレッド性能を劇的に向上させてきた。これは、パイプライン処理の限界を超えてCPUの処理能力を高めるための、極めて効果的なアプローチとして、現代のマイクロプロセッサ設計において標準的な技術となっている。