シンクロナイゼーション (シンクロナイゼーション) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

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シンクロナイゼーション (シンクロナイゼーション) の読み方

日本語表記

同期 (ドウキ)

英語表記

Synchronization (シンクロナイゼーション)

シンクロナイゼーション (シンクロナイゼーション) の意味や用語解説

「シンクロナイゼーション」は、複数の処理単位(プロセスやスレッド)が並行して動作するシステムにおいて、それらの動作やデータのアクセスを調整し、整合性や正確性を保つための技術や概念である。日本語では「同期」と訳されることが多い。現代の多くのコンピュータシステムは、複数の処理を同時に実行する並行処理を採用しているため、このシンクロナイゼーションの概念はシステム設計やプログラミングにおいて極めて重要となる。 複数の処理が同時に共有のリソース(メモリ上のデータ、ファイル、ハードウェアデバイスなど)へアクセスしようとした際、何の調整もなければ、処理結果が予測不能になったり、データが破壊されたりする可能性がある。このような問題を回避し、システム全体の信頼性と安定性を確保するためにシンクロナイゼーションは不可欠となる。例えば、銀行の口座残高を複数の処理が同時に更新しようとした場合、正しい順番や排他的なアクセスが保証されなければ、最終的な残高が誤った値になることが考えられる。シンクロナイゼーションは、このような状況を防ぎ、定められたルールに基づいて処理を進めることで、常に正しい状態を維持することを目的としている。 詳細に説明すると、シンクロナイゼーションが必要とされる具体的な状況は多岐にわたる。最も典型的な例は、マルチスレッド環境での共有データへのアクセスである。例えば、ある共有カウンタの値を複数のスレッドが同時にインクリメント(1増やす操作)しようとする場合を考える。インクリメント操作は、「現在の値を読み込む」「読み込んだ値に1を加える」「新しい値を書き戻す」という複数の低レベルなステップから構成されることが多い。もし複数のスレッドが同時にこれらのステップを実行すると、次のような問題が発生しうる。 スレッドAがカウンタの値を「10」と読み込む。 その直後、スレッドBもカウンタの値を「10」と読み込む。 スレッドAは読み込んだ値に1を加え「11」とし、カウンタに書き戻す。 その直後、スレッドBも読み込んだ値に1を加え「11」とし、カウンタに書き戻す。 この結果、カウンタは2回インクリメントされたにもかかわらず、最終的な値は「12」ではなく「11」になってしまう。このような予測不能な結果を生む状況を「競合状態(Race Condition)」と呼び、システムが不安定になる主要な原因の一つとなる。シンクロナイゼーションは、この競合状態を回避するために、主に以下の三つの目的で利用される。 第一に「排他制御(Mutual Exclusion)」である。これは、特定の共有リソースに対して、一度に一つの処理単位(スレッドやプロセス)のみがアクセスできるようにする仕組みである。前述のカウンタの例で言えば、あるスレッドがカウンタの更新処理を行っている間は、他のスレッドがそのカウンタにアクセスできないようにすることで、処理の原子性(Atomic Operation、分割不可能であること)を保証し、正しい結果を得る。この排他制御を実現するための代表的なメカニズムには「ミューテックス(Mutex)」や「セマフォ(Semaphore)」がある。ミューテックスは、共有リソースへのアクセス権を「ロック(Lock)」と「アンロック(Unlock)」という操作で管理し、一度に一つのスレッドのみがロックを獲得できるようにする。セマフォは、ミューテックスを拡張したもので、複数のリソースインスタンスへのアクセス数を制限したり、ある処理が完了するまで別の処理を待機させたりする用途にも使われる。 第二に「順序制御(Condition SynchronizationまたはOrdering)」である。これは、ある処理が特定の条件が満たされるまで待機し、条件が満たされたら処理を再開できるようにする仕組みである。例えば、データを生成するスレッド(プロデューサ)とデータを消費するスレッド(コンシューマ)がいる場合、コンシューマはデータが生成されるまで待機し、プロデューサは消費可能なデータがない限り生成を続ける。このような協調的な動作は「条件変数(Condition Variable)」を用いて実現されることが多い。条件変数はミューテックスと組み合わせて使用され、スレッドが特定の条件が満たされるのを待機したり、条件が満たされたことを他の待機中のスレッドに通知したりする機能を提供する。 第三に「可視性(Visibility)」の保証である。これは、あるスレッドが行った共有データへの変更が、他のスレッドから確実に認識できることを保証する概念である。現代のCPUやコンパイラは性能向上のために、メモリ操作の順序を入れ替えたり、レジスタに一時的に値を保持したりする最適化を行うことがある。これにより、あるスレッドが書き込んだ値が、別のスレッドからはすぐに確認できないといった問題が発生する可能性がある。これを防ぐために「メモリバリア(Memory Barrier)」や「揮発性(Volatile)変数」といったメカニズムが用いられ、最適化の抑制やメモリ操作の順序保証を行う。 さらに、より高レベルなシンクロナイゼーションの機構としては「モニター(Monitor)」がある。モニターは、共有データとそのデータに対する操作(メソッド)を一つにまとめ、モニター内部で排他制御を自動的に行うことで、プログラマが直接ロック操作を行う手間を省き、より安全な並行プログラミングを可能にする。また、特定の操作が不可分な単位として実行されることを保証する「アトミック操作(Atomic Operations)」も、軽量かつ効率的な同期手段として利用される。 これらの同期機構を適切に適用することで、システムの信頼性と正確性を高めることができる一方で、シンクロナイゼーションの導入にはいくつかの課題も伴う。最も深刻な問題の一つは「デッドロック(Deadlock)」である。これは、複数の処理が互いに相手が保持しているリソースの解放を待ち続け、結果としてどの処理も進まなくなる状態を指す。また、ロックを頻繁に利用しすぎると、処理の並行性が失われ、システムのパフォーマンスが大幅に低下する可能性がある。さらに、特定の処理がリソースへのアクセスを永遠に得られない「スタベーション(Starvation)」や、デッドロックではないものの、互いにリソースを譲り合い続けて結果的に何も処理が進まない「ライブロック(Livelock)」といった問題も発生しうる。 システムエンジニアを目指す上で、シンクロナイゼーションの概念とその具体的な実装方法、そしてそれに伴う課題を深く理解することは、堅牢で効率的なシステムを構築するために不可欠である。

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