時分割多元接続 (ジブンカツゲンソウセツ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
時分割多元接続 (ジブンカツゲンソウセツ) の読み方
日本語表記
時分割多元接続 (ジブンカツゲンソウセツ)
英語表記
TDMA (ティーディーエムエー)
時分割多元接続 (ジブンカツゲンソウセツ) の意味や用語解説
「時分割多元接続 (Time Division Multiple Access, TDMA)」は、複数のユーザーが限られた通信チャネルを共有するための技術の一つである。この方式は、通信リソースを「時間」で区切り、それぞれのユーザーに特定の時間帯(タイムスロット)を割り当てることで、あたかも自分だけが通信チャネルを利用しているかのように感じさせる仕組みを提供する。主に携帯電話などの無線通信システムで利用され、多くのユーザーが同時に通信できるように周波数資源を効率的に利用することを目的としている。 詳細な動作原理を説明すると、TDMAシステムでは、まず利用可能な通信時間を非常に短い間隔に分割する。この分割された時間単位を「タイムスロット」と呼ぶ。例えば、1秒間を数百から数千のタイムスロットに分割するようなイメージである。そして、各ユーザーには、これらのタイムスロットの中から特定のものが割り当てられる。たとえば、ユーザーAには1番目のタイムスロット、ユーザーBには2番目のタイムスロット、ユーザーCには3番目のタイムスロットといった具合である。 ユーザーは、自分のタイムスロットが回ってきたときにだけ、データ(音声やデジタル情報など)の送信や受信を行う。自分のタイムスロット以外の時間では、他のユーザーが通信を行っているため、データ送受信は行わず待機状態となる。このタイムスロットの切り替わりは非常に高速で行われるため、人間には途切れることなく連続して通信が行われているように感じられる。例えば、携帯電話での通話中に、相手の声が途切れることなく聞こえるのは、TDMAが高速でタイムスロットを切り替えているおかげである。 このTDMA方式にはいくつかのメリットがある。第一に、周波数資源を非常に効率的に利用できる点が挙げられる。一つの周波数帯域を複数のユーザーで共有できるため、限られた周波数帯域でより多くのユーザーを収容することが可能となる。これは、周波数帯域をユーザーごとに完全に分割する「周波数分割多元接続 (FDMA)」と比較した場合の大きな利点となる。第二に、システム設計の簡素化が挙げられる。各ユーザーに割り当てる周波数を厳密に分ける必要がないため、複雑な周波数フィルタリング機器などが不要となり、システムの構築コストを抑えることができる。第三に、柔軟な帯域割り当てが可能である。ユーザーの通信量や品質要求に応じて、割り当てるタイムスロットの数を動的に変更することで、個々のユーザーに対する帯域幅を柔軟に調整できる。例えば、データ通信中はより多くのスロットを割り当てて高速化し、通話中はスロットを減らすといった運用が可能である。また、異なるユーザーの通信が時間的に分離されるため、異なる通信間の干渉が比較的少なく、システム全体の安定性に寄与する。 一方で、TDMA方式にはいくつかのデメリットも存在する。最も重要なのは、基地局と各ユーザー端末との間で厳密な「同期」が必要となる点である。タイムスロットの開始時刻や終了時刻がすべてのデバイスで一致していなければ、データが正しく送受信されず、通信エラーやデータ衝突が発生してしまう。この同期を維持するためには、特別な同期信号の送信や、電波の伝搬遅延を補償する技術が必要となる。特に、ユーザーが移動する環境では、電波の伝搬遅延が常に変化するため、同期を維持するための複雑な制御が求められる。第二に、通信にわずかな「遅延」が発生する可能性がある点である。自分のタイムスロットが来るまでデータ送信を待つ必要があるため、リアルタイム性が重視される一部の通信(例えば、非常に低遅延が求められるゲームや高精細なビデオ会議など)では、この遅延が体感できるレベルに影響を及ぼすことがある。しかし、一般的な通話やインターネット接続においては、この遅延はほとんど意識されないレベルである。第三に、割り当てられたタイムスロットを常に消費するため、たとえ送信するデータがなくてもスロットが無駄になる場合がある。データ通信のように断続的にデータが発生する用途では、このスロットの非効率な利用が問題となることがある。 TDMAは、第2世代携帯電話システム(例:GSM)などで広く採用され、携帯電話の普及に大きく貢献した技術である。GSMでは、まず利用可能な周波数帯域をFDMAで複数に分割し、さらにそれぞれの周波数帯域内でTDMAを用いて時間的に複数のユーザーを多重化するという、複合的な方式が用いられていた。今日の第3世代以降の携帯電話システムでは、「符号分割多元接続 (CDMA)」や「直交周波数分割多元接続 (OFDMA)」といった、より高度な多元接続技術が主流となっているが、TDMAの基本的な考え方は、無線通信における時間管理の基礎として依然として重要である。