スレッドセーフ (スレッドセーフ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
スレッドセーフ (スレッドセーフ) の読み方
日本語表記
スレッドセーフ (スレッドセーフ)
英語表記
thread-safe (スレッドセーフ)
スレッドセーフ (スレッドセーフ) の意味や用語解説
スレッドセーフとは、複数のスレッドが同時にプログラムの一部を実行しても、予期せぬ不具合やデータの不整合が発生せず、常に正しい結果が得られる状態のことを指す。現代のコンピュータでは、CPUの性能を最大限に活用するため、一つのプログラム内で複数の処理の流れ、すなわちスレッドを並行して実行するマルチスレッドプログラミングが広く用いられている。しかし、複数のスレッドが同じデータやリソースを共有しながら動作する場合、互いの処理が干渉し合い、深刻な問題を引き起こす可能性がある。スレッドセーフなコードは、このようなマルチスレッド環境下での安全性と信頼性を保証するために不可欠な設計上の性質である。言い換えれば、ある関数やオブジェクトがスレッドセーフであるとは、複数のスレッドから同時に呼び出されたり操作されたりしても、その内部状態が壊れることなく、一貫性を保ち続けることを意味する。 スレッドセーフの重要性を理解するためには、まずスレッドの性質を把握する必要がある。プログラムの実行単位であるプロセスは、それぞれが独立したメモリ空間を持つ。一方で、スレッドは一つのプロセス内に複数存在できる実行単位であり、同じプロセスのメモリ空間を共有する。このメモリ共有という特性が、高い効率性を実現する反面、スレッドセーフの問題を引き起こす根源となる。 スレッドセーフでないコードが引き起こす最も代表的な問題が「競合状態(Race Condition)」である。これは、複数のスレッドが共有データにアクセスし、その実行順序によって結果が変わってしまう状況を指す。例えば、共有されている整数型の変数カウンターをインクリメントする処理を考える。「カウンターの値を1増やす」という単純な操作も、コンピュータの内部では「現在のカウンターの値をメモリから読み込む」「読み込んだ値に1を加算する」「結果をメモリに書き戻す」という複数のステップに分解されて実行される。この一連の操作は不可分ではない。ここで、二つのスレッドAとスレッドBが、カウンターの値が10の時に同時にインクリメント処理を開始したとする。まずスレッドAがカウンターの値10を読み込む。その直後、OSのスケジューリングによってスレッドAの実行が中断され、スレッドBに処理が切り替わる。スレッドBもカウンターの値10を読み込み、1を加えて11という結果をカウンターに書き戻す。その後、再びスレッドAの処理が再開される。スレッドAは、自身が中断される前に読み込んでいた値10を基に計算を続け、1を加えた11をカウンターに書き戻す。結果として、二つのスレッドがインクリメント処理を行ったにもかかわらず、カウンターの値は10から11にしかならない。本来であれば12になるべきであり、データの不整合が発生してしまったことになる。 このような競合状態を防ぎ、スレッドセーフを実現するためには、同期制御と呼ばれる技術を用いる。その最も基本的な手法が「排他制御(Mutual Exclusion)」である。排他制御は、共有リソースにアクセスするコード領域、いわゆる「クリティカルセクション」を、一度に一つのスレッドしか実行できないように制限する仕組みである。これを実現するために一般的に使われるのが「ミューテックス(Mutex)」や「ロック」と呼ばれるメカニズムだ。スレッドはクリティカルセクションに入る前にロックを取得し、処理が終わった後にロックを解放する。あるスレッドがロックを保持している間、他のスレッドはロックが解放されるまで待機させられる。これにより、共有データへのアクセスが直列化され、競合状態の発生を未然に防ぐことができる。 排他制御以外にも、スレッドセーフを実現する方法は存在する。「アトミック操作(Atomic Operations)」は、それ以上分割することができない不可分な操作を指す。これはCPUレベルで保証されており、処理の途中で他のスレッドに割り込まれる心配がない。単純な変数のインクリメントや値の交換など、一部の操作はアトミック操作として提供されており、ロック機構よりも軽量で高速に動作する場合が多い。 また、設計レベルでのアプローチとして、共有するデータ自体を変更不可能にする「不変性(Immutability)」の活用がある。一度作成されたオブジェクトの状態が変化しないのであれば、複数のスレッドが同時にそのオブジェクトを読み取っても何の問題も起こらない。データを更新する必要がある場合は、既存のオブジェクトを変更するのではなく、変更内容を反映した新しいオブジェクトを生成する。この方法は、競合状態の原因となる「共有データの書き換え」そのものをなくすことで安全性を確保する。 さらに、データを共有するのではなく、スレッドごとに専用のデータを持たせる「スレッドローカルストレージ」という方法もある。各スレッドが自分だけのデータ領域を使用するため、そもそもスレッド間でデータが競合することがなくなり、同期制御は不要となる。 ただし、排他制御などの同期メカニズムを導入する際には、「デッドロック」という新たな問題に注意しなければならない。デッドロックとは、複数のスレッドが互いに相手が保持しているロックの解放を待ち続け、双方が永久に処理を先に進められなくなる状態である。例えば、スレッドAがリソースXのロックを取得した後にリソースYのロックを要求し、同時にスレッドBがリソースYのロックを取得した後にリソースXのロックを要求すると、デッドロックが発生する可能性がある。これを防ぐためには、全てのロックを常に同じ順序で取得するなど、慎重な設計が求められる。 結論として、スレッドセーフはマルチスレッドプログラミングにおいて、システムの安定性とデータの整合性を保つために不可欠な概念である。競合状態のような問題を回避するため、排他制御やアトミック操作といった同期メカニズムを正しく理解し、状況に応じて適切に使い分ける能力がシステムエンジニアには求められる。