時分割複信 (ジブンカツシン) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

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時分割複信 (ジブンカツシン) の読み方

日本語表記

時分割複信 (ジブンカクシン)

英語表記

Time-division duplex (タイムディビジョンダュープレックス)

時分割複信 (ジブンカツシン) の意味や用語解説

時分割複信とは、無線通信において、送信と受信を同じ周波数帯で時間的に交互に切り替えることで、あたかも同時に双方向通信を行っているかのように見せる通信方式である。複信とは、送信と受信の両方向で同時に通信が可能な状態を指す。例えば、電話のように話しながら相手の声を聞ける状態が複信にあたる。時分割とは、利用できる時間を細かく区切り、それらの時間帯を異なる用途に割り当てる方式を意味する。この二つの概念を組み合わせた時分割複信では、利用可能な時間軸を短い期間に区切り、ある期間は送信に、別の期間は受信に割り当てることで、一つの周波数帯を有効活用する。これは、送受信にそれぞれ異なる周波数帯を割り当てる周波数分割複信(FDD: Frequency Division Duplex)とは対照的な方式である。時分割複信は、特に無線通信の分野で広く用いられており、限られた周波数資源を効率的に利用するための重要な技術の一つとなっている。 時分割複信の詳細な動作原理を解説する。この方式の根幹は、時間を非常に短い単位で区切り、その時間単位を通信の方向(送信または受信)に割り当てることにある。例えば、全体を一つの通信フレームと捉え、そのフレームをさらに複数の「タイムスロット」と呼ばれる小さな時間区間に分割する。特定のタイムスロットは端末から基地局への送信(アップリンク)に、別のタイムスロットは基地局から端末への受信(ダウンリンク)に割り当てられる。この割り当ては非常に高速に行われるため、人間には送受信が同時に行われているように感じられる。 具体的な例を挙げる。あるタイムスロットの期間中は、基地局から端末に対してデータが送信される。次のタイムスロットの期間では、端末から基地局に対してデータが送信される。この切り替えはミリ秒単位、あるいはそれよりも短い周期で行われる。これにより、同じ周波数帯域上であっても、異なる方向への通信が時間的に分離され、信号が互いに干渉することなく送受信が可能となる。送受信の切り替え時には、データ送信を停止し、回路の向きを切り替えるためのわずかな時間が必要となる。この時間を「ガード期間」と呼び、信号の衝突を防ぐ役割を果たす。このガード期間を設けることで、送信信号と受信信号が重なることなく、安定した双方向通信を実現する。 時分割複信の主な利点の一つは、周波数帯域の利用効率の高さにある。特に、アップリンクとダウンリンクで必要となるデータ量が非対称である場合にその真価を発揮する。例えば、多くのインターネット利用では、ウェブサイトの閲覧や動画視聴など、基地局から端末へのダウンロード(ダウンリンク)のデータ量が、端末から基地局へのアップロード(アップリンク)のデータ量よりも圧倒的に多い傾向にある。時分割複信では、このようなデータ量の偏りに応じて、ダウンリンクに割り当てるタイムスロットの数を増やし、アップリンクに割り当てるタイムスロットの数を減らすといった柔軟な調整が可能である。これにより、利用可能な周波数帯域を最大限に活用し、全体の通信スループットを最適化できる。周波数分割複信では、上り下りの周波数帯域を固定的に割り当てるため、このような柔軟な運用は難しい。また、送受信に異なる周波数帯域を用意する必要がないため、使用する周波数帯域が少なくて済み、無線免許の取得コストの低減にも寄与する。回路構成の観点からは、送受信の分離にデュプレクサのような複雑なフィルタが不要となるため、無線装置の設計を簡素化できる場合がある。 一方で、時分割複信にはいくつかの課題も存在する。まず、送受信の切り替え自体に時間がかかるため、わずかながらも通信の遅延(レイテンシ)が発生する。この遅延は、リアルタイム性が強く求められるアプリケーション、例えば音声通話やオンラインゲームなどにおいて、ユーザー体験に影響を与える可能性がある。また、送信側と受信側で厳密な時間同期が必要となる。同期がずれると、送信データと受信データが衝突したり、ガード期間が不足して信号が干渉したりする恐れがあるため、高精度なタイミング制御が不可欠である。さらに、隣接する基地局間で通信方向が異なると、基地局間の干渉が発生しやすくなるという問題もある。例えば、ある基地局がダウンリンクの送信を行っている時間に、隣の基地局の端末がアップリンクの送信を行うと、互いの信号が干渉し合う可能性がある。これを避けるためには、基地局間の連携や適切な周波数再利用計画が必要となる。 時分割複信は、様々な無線通信システムで採用されている。具体的な例としては、モバイル通信規格であるTD-LTE(Time Division-Long Term Evolution)や、5G(第5世代移動通信システム)におけるTDDモード、かつて普及したWiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)などがある。また、コードレス電話のDECT(Digital Enhanced Cordless Telecommunications)方式や、一部の無線LAN(Wi-Fi)システムにおいても、半二重通信ながら類似の時分割多重アクセス技術が利用されている。これらのシステムは、時分割複信の特性を活かし、限られた周波数資源の中で効率的かつ高速な無線通信を実現しているのである。

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