営業秘密(エイギョウヒミツ)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

営業秘密(エイギョウヒミツ)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

営業秘密 (エイギョウヒミツ)

英語表記

trade secret (トレードシークレット)

用語解説

「営業秘密」とは、企業が事業活動を通じて蓄積し、競争優位性を保つために秘匿している重要な情報全般を指す。これは特許のような登録制度とは異なり、企業自身が秘密として管理している情報であれば、法的保護の対象となり得る。具体的には、製品の設計図、製造ノウハウ、顧客リスト、販売戦略、未公開の技術情報、そしてIT業界においては、ソースコード、システム設計書、開発プロセス、データベース構造、テストデータ、セキュリティ対策に関する情報などがこれに該当する。企業にとって、これらの情報は市場での競争力を左右する非常に価値の高い資産であり、その保護は企業の存続に直結すると言っても過言ではない。不正な手段でこれらの情報が外部に漏洩したり、第三者に利用されたりした場合、企業は多大な損害を被り、信用失墜につながる可能性もあるため、法によって厳しく保護されている。システムエンジニアを目指す者として、日々の業務で触れる情報がこの営業秘密に該当する可能性を常に意識し、適切な取り扱いが求められる。

営業秘密として法的な保護を受けるためには、満たすべき3つの要件がある。第一に「秘密管理性」である。これは、企業がその情報を秘密として管理しようとする意思を持ち、客観的にそのための措置を講じていることを意味する。例えば、情報へのアクセスを特定の人員に限定し、パスワードや認証システムで保護する、情報の記録媒体に「社外秘」や「Confidential」といった秘密表示を行う、従業員に対して秘密保持義務を明確に周知徹底するといった具体的な行為が含まれる。単に心の中で秘密だと思っていても、外部から容易にアクセスできる状態では秘密管理性があるとは認められない。第二に「有用性」である。これは、その情報が客観的に事業活動にとって役立つものであることを指す。売上増加、コスト削減、品質向上、新たな事業展開など、どのような形であれ企業の事業活動に利用され、競争上の優位性をもたらすものでなければならない。単なる個人的なメモや、すでに陳腐化した情報などは有用性があるとは認められない。第三に「非公知性」である。これは、その情報が一般に知られていないことを意味する。特許情報のように公開されている情報はもちろん、業界内で広く知られている常識的な情報や、容易に入手できる情報も非公知性があるとは認められない。特許とは異なり、営業秘密は登録によって独占権を得るものではなく、あくまで企業が秘密として管理している限りにおいて保護されるため、一度一般に公開されてしまえば、その情報に対する営業秘密としての保護は失われる。

システムエンジニアが営業秘密と関わる機会は非常に多い。例えば、ある企業の基幹システムの設計書は、そのシステムの内部構造やデータフロー、使用技術、セキュリティ上の弱点まで詳細に記述されているため、競合他社に知られれば、同様のシステムを開発する上で多大な時間とコストを削減できる。また、特定の顧客の個人情報や取引履歴、システムの脆弱性に関する分析データなども、営業秘密として厳重な管理が求められる。これらの情報が外部に流出すれば、企業の信用問題だけでなく、顧客への重大な被害にもつながりかねない。開発中の新機能や、まだ発表されていない技術的な知見なども同様に営業秘密となり得る。クラウドサービスやリモートワークが普及する現代において、情報は社内外を問わず容易に共有され、アクセスできる環境にあるため、情報漏洩のリスクは一層高まっている。

不正競争防止法は、これらの営業秘密が不正な手段で取得されたり、使用されたり、開示されたりする行為を「不正競争」として定義し、その行為を規制している。もし営業秘密が不正に侵害された場合、企業は侵害行為の差し止めを求めることや、侵害によって生じた損害の賠償を請求することができる。さらに、悪質なケースでは、行為者に対して懲役や罰金といった刑事罰が科される可能性もある。

システムエンジニアとして働く上で、特に注意すべきは、転職時の情報持ち出しや、業務委託で複数のプロジェクトに関わる際の情報の混同である。前職で得た営業秘密を、転職先の企業で利用したり、私的に持ち出したりすることは、不正競争防止法に抵触する重大な行為である。また、フリーランスのシステムエンジニアとして複数の企業から業務を受託する際には、それぞれのクライアント企業の営業秘密が混同したり、意図せず他社に開示されたりしないよう、細心の注意を払う必要がある。このため、多くの企業では、従業員や業務委託契約者に対して、入社時や契約締結時に秘密保持契約(NDA: Non-Disclosure Agreement)の締結を義務付けている。この契約は、どのような情報が営業秘密に該当するか、どのように取り扱うべきか、契約終了後も秘密保持義務が継続するかといった点が明記されており、その内容を正確に理解し遵守することは、システムエンジニアとしての責任を果たす上で不可欠である。

情報セキュリティの観点からも、営業秘密の保護は極めて重要だ。システムエンジニアは、企業の重要な情報資産を扱う立場にあるため、情報セキュリティポリシーや社内規定を熟知し、それを厳守しなければならない。具体的には、許可されていないデバイスへの情報コピー、私的なクラウドストレージへのアップロード、不特定多数の目に触れる場所での作業、SNSなどでの安易な情報発信などは、情報漏洩のリスクを高め、営業秘密の侵害につながる行為となる。また、退職後も一定期間は秘密保持義務が継続する場合が多いため、退職後の行動にも注意が必要である。システムエンジニアは、自らの技術力や専門知識だけでなく、企業秘密に対する高い倫理観と責任感を持って業務にあたることが、自身のキャリアを守り、企業の発展に貢献するために不可欠だ。

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