協定世界時(キョウテイセカイジ)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説

協定世界時(キョウテイセカイジ)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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読み方

日本語表記

協定世界時 (キョウテイセカイジ)

英語表記

UTC (ユーティーシー)

用語解説

協定世界時(Coordinated Universal Time, UTC)は、世界中で共通して使用される時刻の国際的な基準である。ITシステム、特にインターネットを介して相互に接続されたグローバルなシステムにおいて、正確な時刻同期の基盤として不可欠な役割を担っている。システムエンジニアは、このUTCを正しく理解し、扱うことが求められる。UTCは、極めて高精度な原子時計によって維持される国際原子時(TAI)を基にしているが、地球の自転に基づく時刻とのずれを調整するための仕組みを持つという特徴がある。かつて基準とされていたグリニッジ標準時(GMT)と同一視されることもあるが、その定義は厳密には異なり、現代の技術標準としてはUTCが採用されている。

UTCのより詳細な仕組みを理解するには、その成り立ちを知る必要がある。UTCの時刻は、世界中の原子時計のデータを集めて決定される国際原子時(TAI)に基づいている。原子時計はセシウム原子の特定のエネルギー準位間の遷移が発する電磁波の周波数を基準としており、その精度は極めて高く、数千万年に1秒程度の誤差しかない。このため、TAIは非常に安定した時刻系を提供する。しかし、地球の自転速度は潮汐摩擦などの影響で常に一定ではなく、ごくわずかに遅くなる傾向がある。そのため、純粋な原子時計の時刻であるTAIは、私たちが日常的に太陽の動きとして認識している時刻、すなわち地球の自転に基づく世界時(UT1)と少しずつずれていく。このずれが大きくなると、時刻と昼夜の感覚が乖離してしまう問題が生じる。この問題を解決するために、UTCはTAIに対して「うるう秒」と呼ばれる調整を加えて、UT1との差が常に0.9秒以内になるように維持される。この調整こそが、UTCが「協定された」時刻と呼ばれる所以である。うるう秒は、必要に応じて年の途中(主に6月末か12月末)に1秒を挿入または削除する形で実施される。

ITシステムにおいてUTCが重要視される理由は、その普遍性と一貫性にある。世界中に分散配置されたサーバーやデバイス間で時刻を統一するための基準として、UTCは最適である。例えば、ある企業のサービスがアメリカ、ヨーロッパ、アジアのデータセンターで稼働している場合、各サーバーがそれぞれの地域のローカルタイムでログを記録すると、障害発生時などにイベントの正確な前後関係を追跡することが非常に困難になる。サマータイムの切り替えも問題をさらに複雑化させる。しかし、すべてのサーバーがログのタイムスタンプをUTCで記録するように統一すれば、タイムゾーンに関係なく、すべてのイベントを一貫した時系列で分析できる。これが、障害解析やセキュリティインシデントの調査において極めて重要となる。また、プログラミングにおいても、時刻データは内部的にUTCで保持し、ユーザーへの表示が必要な場合にのみ、そのユーザーの地域のタイムゾーンに合わせてローカルタイムに変換するのが一般的な設計パターンである。これにより、データの整合性を保ちつつ、ユーザーにとって分かりやすい時刻表示を実現できる。各地域の時刻は、日本標準時(JST)が「UTC+09:00」のように、UTCからの差(オフセット)として定義される。

一方で、UTCが持つうるう秒の仕組みは、ITシステムにとって潜在的なリスク要因ともなる。うるう秒が挿入される瞬間には、特定の1分が60秒ではなく61秒になるという、通常では想定されない事態が発生する。時刻の連続性や単調増加を前提としているシステム、特に高頻度取引システムや精密な同期を要する分散データベースなどでは、このイレギュラーな1秒が原因で、処理の停止やデータの不整合といった深刻な障害を引き起こす可能性がある。過去には、うるう秒が原因で大手ウェブサービスやオペレーティングシステムに障害が発生した事例も報告されている。この問題に対処するため、Googleなどの一部の企業では、うるう秒を特定の瞬間に一度に挿入するのではなく、挿入時刻の前後の一定期間にわたってシステムクロックをわずかに遅らせることで、1秒のずれを滑らかに吸収する「Leap Smear」という手法を導入している。このように、協定世界時は現代のITインフラを支える根幹技術であるが、その特性を深く理解し、うるう秒のような特異な事象にも適切に対処できる知識がシステムエンジニアには求められる。