実用新案権 (ジツヨウシンアンケン) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
実用新案権 (ジツヨウシンアンケン) の読み方
日本語表記
実用新案権 (ジツヨウシンアンケン)
英語表記
Utility model patent (ユーティリティモデルパテント)
実用新案権 (ジツヨウシンアンケン) の意味や用語解説
実用新案権とは、物品の形状、構造または組み合わせに係る考案を保護するための権利である。これは特許権と同様に産業財産権の一つに数えられ、新しい技術的アイデアを奨励し、その利用を図ることで産業の発展に寄与することを目的としている。特許権が高度な「発明」を対象とするのに対し、実用新案権は比較的日常的な「考案」、すなわち自然法則を利用した技術的思想の創作で、物品の形状、構造、組み合わせに特化している点が大きな特徴である。システムエンジニアを目指す初心者にとって、直接ソフトウェアそのものがこの権利の対象となることは稀であるが、ソフトウェアを搭載するデバイスや機器の物理的な改善、例えば操作性の向上を図るための筐体の設計変更や、部品の配置に関する工夫などが実用新案権の対象となり得るため、知的財産権の基礎知識として理解しておくことは非常に重要である。 詳細に入ると、実用新案権の対象となる「考案」は、あくまで「物品」に関するものである。そのため、プログラム単体やビジネス方法、製造方法、化学物質、飲食物などは対象外である。例えば、スマートフォンの持ちやすさを向上させるための背面カーブの形状や、特定の機能を効率的に実現するための内部構造の工夫などが該当し得る。この権利の取得プロセスも特許権とは大きく異なる。実用新案権は「無審査登録制度」を採用しており、出願された考案について、特許庁による新規性や進歩性といった実体的な審査が原則として行われない。これにより、特許と比較して迅速かつ安価に権利を取得できるメリットがある。しかし、実体審査がないため、登録された権利の有効性は、特許権に比べて相対的に不安定であるという側面も持つ。 権利の有効期間は、出願日から10年と定められている。特許権の20年と比較して短いが、これは実用新案が保護する考案が、比較的ライフサイクルの短い日用品の改良や、小規模な技術的工夫を想定しているためである。実用新案権者がその権利を行使し、他者が無断で登録考案を実施している場合に差止めや損害賠償を請求するためには、事前に「実用新案技術評価書」を請求し、その評価書を相手方に提示して警告することが必要となる。この技術評価書は、特許庁の審査官が後からその考案の新規性や進歩性などを評価したものであり、権利の有効性を判断する上で重要な根拠となる。警告なしに権利行使を行った場合、その権利行使によって相手方に与えた損害を賠償しなければならないリスクがあるため、権利行使の際には慎重な対応が求められる。 特許権との比較をさらに深めると、対象となる技術的思想の「高度さ」の基準が異なる点が挙げられる。特許は「高度な発明」を、実用新案はそれよりハードルの低い「考案」を保護する。また、審査制度の違いも重要である。特許権は実体審査を経て権利が付与されるため、権利の安定性が高い。一方、実用新案権は無審査で登録されるため、早期に権利取得が可能だが、権利行使時には技術評価書が必要となり、後から無効審判で権利が無効とされるリスクも特許より大きい。このため、画期的な技術開発には特許権、迅速な権利取得や小規模な改良には実用新案権という使い分けが一般的である。 システムエンジニアがこのような実用新案権の知識を持つことは、自身の開発する製品やサービスを取り巻く知的財産権の全体像を理解する上で不可欠である。特に、IoTデバイス、組み込みシステム、あるいは特定のハードウェアと連携するソフトウェアなど、物理的な「物品」と密接に関わる開発を行う際には、自社や他社の実用新案権を侵害しないよう、また自社の考案を適切に保護できるよう、この権利がどのようなものかを知っておく必要がある。これにより、将来的に開発リーダーやプロジェクトマネージャーとして、知的財産戦略を考慮した開発計画を立案する際にも、より専門的で多角的な視点を持つことができるだろう。