垂直磁気記録方式 (スイチョクジキキロクホウシキ) とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
垂直磁気記録方式 (スイチョクジキキロクホウシキ) の読み方
日本語表記
垂直磁気記録方式 (スイチョクジキキロクホウシキ)
英語表記
Vertical Magnetic Recording (バーティカルマグネティックレコーディング)
垂直磁気記録方式 (スイチョクジキキロクホウシキ) の意味や用語解説
垂直磁気記録方式(PMR: Perpendicular Magnetic Recording)は、ハードディスクドライブ(HDD)の記録密度を飛躍的に向上させた磁気記録技術の一つである。従来の水平磁気記録方式(LMR: Longitudinal Magnetic Recording)が、データを記録する磁気ビットの磁化の向きを記録媒体の表面と平行に配置していたのに対し、垂直磁気記録方式ではその名の通り、磁化の向きを記録媒体の表面に対して垂直に配置する。この根本的な記録方向の変更により、磁気ビットをより小さく、より高密度に配置することが可能になり、HDDの大容量化を実現した重要な技術である。 従来の水平磁気記録方式は、磁気ビットを小さくすることで記録密度を向上させてきたが、物理的な限界に直面していた。磁気ビットが小さくなりすぎると、熱擾乱と呼ばれる現象(超常磁性現象)によって磁化が不安定になり、データが自然に消えてしまう問題が発生したためである。これは、磁気ビットが持つ磁気異方性エネルギー(磁化を特定の方向に安定させるエネルギー)が、周囲の熱エネルギーに打ち勝てなくなり、磁化の向きが勝手に変化してしまうことに起因する。また、水平方向に並んだ小さな磁気ビット同士が互いに影響し合い(隣接ビット間の干渉)、記録の安定性を損なうという問題もあった。これらの限界を克服するために開発されたのが垂直磁気記録方式である。 垂直磁気記録方式の記録媒体は、主に「軟磁性下地層」と「垂直磁気記録層」の二層構造となっている点が特徴である。軟磁性下地層は、磁化されやすく磁化の方向も変わりやすい性質を持つ材料で構成され、記録時に発生する磁界を効率的に垂直磁気記録層に集中させる役割を果たす。垂直磁気記録層は、比較的高い保磁力(磁化を安定して保持する力)を持つ材料で構成されており、実際にデータが記録される部分である。 データの書き込みは、特殊な構造の記録ヘッドを用いて行われる。記録ヘッドは、主に「主磁極(Main Pole)」と「補助磁極(Return Pole)」から構成される。書き込み時には、主磁極から発生した強い磁界が記録媒体の垂直磁気記録層に印加される。この磁界は垂直磁気記録層を貫通し、その下の軟磁性下地層を通過して補助磁極へと戻るという磁束経路を形成する。この磁束が記録層に対して垂直方向に流れることで、記録層の磁性体が垂直方向に磁化され、データが記録される。軟磁性下地層が存在することで、磁界が垂直方向に効率よく集中し、隣接する磁気ビットへの不要な磁界の影響を最小限に抑えつつ、安定した垂直磁化を形成できるのである。 垂直磁気記録方式の大きな利点は、熱擾乱への耐性が向上したことにある。磁化の方向を垂直にすることで、磁気ビットの形状と磁気異方性エネルギーをより効率的に利用でき、小さなビットでも磁化を安定して保持できるようになった。これにより、超常磁性現象の発生を遅らせ、ビットサイズをさらに微細化することが可能になった。また、磁気ビットが垂直に並ぶことで、水平方向の磁気的な干渉が低減され、隣接するビットからの影響を受けにくくなるため、これも高密度化に貢献している。データの読み出しは、書き込まれた垂直方向の磁気情報がヘッドの磁気抵抗変化を誘起することで行われ、一般的にはMR(磁気抵抗)ヘッドやGMR(巨大磁気抵抗)ヘッドといった高感度な読み出しヘッドが用いられる。 垂直磁気記録方式の導入により、HDDの記録密度は格段に向上し、テラバイト級の大容量HDDが普及する礎となった。現在では、この技術も物理的な限界に近づきつつあり、さらなる記録密度向上を目指して、熱アシスト磁気記録(HAMR: Heat-Assisted Magnetic Recording)やマイクロ波アシスト磁気記録(MAMR: Microwave-Assisted Magnetic Recording)といった次世代技術の研究開発が進められている。しかし、垂直磁気記録方式は今日のストレージ技術において、依然としてその中心的な役割を担い続けている基盤技術である。