仮想シャーシ(カソウシャーシ)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
仮想シャーシ(カソウシャーシ)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
仮想シャーシ (カソウシャーシ)
英語表記
Virtual Chassis (バーチャルシャーシ)
用語解説
仮想シャーシとは、複数の物理的なネットワークスイッチを、専用のポートとケーブルを用いて相互に接続し、論理的に単一のスイッチとして管理・運用するための技術である。この技術を利用することで、ネットワーク管理者は複数台のスイッチを個別に設定・監視する手間から解放され、あたかも1台の高性能なモジュラー型スイッチを扱っているかのように、システム全体を統合的に操作することが可能となる。仮想シャーシ技術の主な目的は、ネットワーク運用における管理の簡素化、システムの可用性向上、そしてポート数や帯域幅の柔軟な拡張性の確保にある。一般的に、データセンターや企業のキャンパスネットワークのコア層やディストリビューション層で広く採用されている。
仮想シャーシの仕組みは、構成メンバーとなる複数のスイッチが協調して動作することで実現される。まず、仮想シャーシを構成するスイッチ群の中から、1台が「マスター(またはプライマリ)」と呼ばれる役割に選出される。このマスタースイッチが、仮想シャーシ全体の頭脳として機能し、すべての管理機能と制御プロトコルを担う。例えば、設定情報の保持、ルーティングテーブルの生成、各種プロトコルの処理といった制御情報(コントロールプレーン)は、すべてマスタースイッチに集約される。これにより、管理者はマスタースイッチに割り当てられた単一のIPアドレスにアクセスするだけで、仮想シャーシを構成するすべてのスイッチの設定変更や状態監視を一元的に行うことができる。また、通常はマスターに障害が発生した場合に備え、別の1台が「バックアップ(またはセカンダリ)」として待機する。マスターに障害が発生すると、バックアップが自動的にマスターの役割を引き継ぎ、システムの継続的な運用を保証する。マスターとバックアップ以外のスイッチは「ラインカード」メンバーとして機能し、主にデータ転送処理に専念する。実際のユーザーデータの転送処理(データプレーン)は、各メンバースイッチが分散して実行するため、仮想シャーシ全体として高いスループットを維持することができる。
この技術を導入するメリットは多岐にわたる。第一に、管理の劇的な簡素化が挙げられる。複数のスイッチが単一の管理対象となるため、設定ファイルは一つにまとまり、ファームウェアのアップデートも一度の操作で全体に適用できる。これにより、設定ミスを減らし、運用コストを大幅に削減することが可能となる。第二に、高い可用性と冗長性を実現できる点である。構成メンバーの一台がハードウェア障害で停止しても、残りのスイッチで通信は継続される。特に、マスターが故障した場合でも、バックアップがその役割を瞬時に引き継ぐグレースフル・ルーティング・エンジン・スイッチオーバー(GRES)といった機能により、通信断を最小限に抑えることができる。さらに、異なる物理スイッチにまたがってリンクアグリゲーション(LAG)を構成するマルチシャーシLAG(MC-LAG)が可能になる。これにより、サーバーや他のネットワーク機器との接続において、スイッチ単位での障害にも耐えうる物理的な冗長経路を確保しつつ、スパニングツリープロトコル(STP)によるポートのブロッキングを回避し、帯域を最大限に活用できる。第三に、優れた拡張性を持つことである。ネットワークの拡大に伴いポート数が不足した場合でも、システムを停止させることなく新たなスイッチを仮想シャーシに追加し、シームレスにポートを増設することが可能である。
一方で、仮想シャーシにはいくつかの注意点も存在する。この技術はベンダー独自の仕様であることが多く、基本的に同一ベンダーの特定の製品シリーズ間でしか構成できない。そのため、一度導入すると特定のベンダーに依存する「ベンダーロックイン」が発生しやすい。また、論理的に単一のデバイスとして動作するため、ソフトウェアのバグや設定ミスが仮想シャーシ全体に影響を及ぼす可能性がある。ファームウェアのアップデートに失敗した場合、システム全体が停止するリスクも伴うため、作業は慎重に行う必要がある。さらに、構成するスイッチ間の物理的な距離には制限があり、通常は同一のデータセンターラック内や隣接するラック間での利用が前提となるため、地理的に離れた場所にあるスイッチを統合することはできない。これらの特性を十分に理解した上で、ネットワークの要件に合わせて導入を検討することが重要である。