仮想MACアドレス(カソウマックアドレス)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
仮想MACアドレス(カソウマックアドレス)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
仮想MACアドレス (カソウマツクアドレス)
英語表記
Virtual MAC Address (ヴァーチャル マック アドレス)
用語解説
MACアドレスとは、ネットワーク上で通信する機器を識別するために用いられる、48ビットの物理アドレスである。これはイーサネットなどのデータリンク層(レイヤー2)で動作し、通常、ネットワークインターフェースカード(NIC)にメーカーによって一意に書き込まれている。MACアドレスは「00-1A-2B-3C-4D-5E」のように16進数で表現され、前半の24ビットはメーカー固有の識別子(OUI: Organizationally Unique Identifier)、後半の24ビットはメーカーが個別に割り当てるシリアル番号から構成される。これにより、世界中のどのNICも固有のMACアドレスを持つことが保証されている。
仮想MACアドレスとは、物理的なNICに割り当てられた本来のMACアドレスではなく、仮想化環境において、仮想マシン(VM)の仮想ネットワークインターフェースカード(vNIC)に対して、ハイパーバイザー(仮想化ソフトウェア)が割り当てる論理的なMACアドレスのことである。これは物理MACアドレスと同様に、ネットワーク内で仮想マシンを識別するために使用されるが、物理的なハードウェアとは直接関連付けられていない。仮想MACアドレスの導入は、仮想化技術が普及する中で、物理リソースを共有しながら複数の仮想マシンが独立して動作するための基盤として不可欠な要素となった。
詳細に説明すると、MACアドレスはデータリンク層において、同一のネットワークセグメント内でのデータ転送先を特定する重要な役割を担う。例えば、ARP(Address Resolution Protocol)は、IPアドレスから対応するMACアドレスを解決するために使用され、このMACアドレス情報に基づいてデータフレームが物理的に送受信される。全てのネットワーク機器は、通信相手のMACアドレスを学習し、その情報に基づいて直接データを送る。
仮想化環境では、一つの物理サーバー上に複数の仮想マシンが稼働し、これらの仮想マシンは物理サーバーのNICを共有してネットワークに接続する。もし、全ての仮想マシンが物理NICと同じMACアドレスを使用してしまえば、ネットワーク上でどの仮想マシンがどのIPアドレスを持つのか区別できなくなり、ARPキャッシュの混乱や、意図しない宛先へのデータ転送、さらには通信の衝突といった深刻な問題が発生する。ネットワークスイッチは、MACアドレスを学習してどのポートにデータフレームを送るべきかを判断するため、複数の機器が同じMACアドレスを持つことは許されない。
この問題を解決するために、仮想MACアドレスが導入された。ハイパーバイザーは、仮想マシンを作成する際に、その仮想マシンのvNICに対して、物理NICのMACアドレスとは異なる、新しいMACアドレスを生成して割り当てる。この仮想MACアドレスは、通常、特定のベンダーが仮想化ソフトウェア向けに取得しているOUIを使用し、それに続く部分をハイパーバイザーが自動的に生成することで、ネットワーク内で一意性が保たれるように設計されている。管理者が必要であれば、手動で特定の仮想MACアドレスを割り当てることも可能である。
仮想MACアドレスがもたらす利点は多岐にわたる。最も顕著な利点の一つは、仮想マシンの**移動性(モビリティ)**の向上である。例えば、VMware vMotionやMicrosoft Live Migrationのような機能を使用すると、稼働中の仮想マシンを、ネットワーク接続を維持したまま別の物理サーバーへ移行できる。この際、仮想マシンに割り当てられた仮想MACアドレスは変わらないため、物理ホストが変更されても、仮想マシンのIPアドレス設定やルーティング情報、ファイアウォールルールなどを一切変更する必要がない。ネットワークスイッチも、MACアドレスの移動を検知して新しいポートに学習し直すだけで済むため、ユーザーは移行が実施されたことを意識することなく、サービスを継続利用できる。
次に、ネットワーク設定の簡素化が挙げられる。物理NICが故障して交換されたり、新しい物理サーバーに仮想マシンを移行したりした場合でも、仮想MACアドレスが変わらないため、仮想マシン内部のネットワーク設定を変更する必要がない。これにより、運用管理の負担が大幅に軽減され、サービスの継続性が高まる。
さらに、仮想MACアドレスはセキュリティと分離の面でも貢献する。仮想マシンごとに異なるMACアドレスを持つことで、それぞれの通信を個別に識別し、物理ネットワークからの論理的な分離を強化できる。これにより、ネットワークスイッチのMACアドレスフィルタリング機能などを活用し、特定の仮想マシンからの通信を許可または拒否するといった、より細やかなセキュリティポリシーを適用することが可能になる。また、仮想マシンの複製やクローンを作成する際にも、新しい仮想MACアドレスが自動的に割り当てられるため、複製された仮想マシンが既存のネットワークに衝突することなく、独立して動作できる。これは、テスト環境の構築や、開発・検証目的での仮想マシンの迅速な展開において非常に有用である。
運用上の注意点としては、仮想MACアドレスも物理ネットワークセグメント内で一意である必要があるという点である。通常、ハイパーバイザーが自動生成する仮想MACアドレスは、既知の物理MACアドレスや他の仮想MACアドレスと重複しないように配慮されているが、手動で割り当てる場合には重複を避けるための慎重な管理が求められる。大規模な仮想化環境では、仮想MACアドレスの管理ポリシーを確立し、確実に一意性を維持することが重要となる。ネットワークスイッチなどの物理機器は、仮想MACアドレスを通常のMACアドレスと同様に学習し、処理するため、仮想化環境におけるMACアドレスの仕組みを理解することは、ネットワークトラブルシューティングにおいても不可欠である。