仮想ポートチャネル(かそうポートチャネル)とは | 意味や読み方など丁寧でわかりやすい用語解説
仮想ポートチャネル(かそうポートチャネル)の意味や読み方など、初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
読み方
日本語表記
仮想ポートチャネル (かそうポートチャネル)
英語表記
virtual port channel (バーチャルポートチャネル)
用語解説
仮想ポートチャネルは、データセンターなどのネットワーク環境において、サーバーやストレージといった終端デバイスとネットワークスイッチ間の接続に、高い可用性と帯域幅の向上をもたらす技術である。これは、複数の物理スイッチを論理的にあたかも一台のスイッチであるかのように振る舞わせることで実現される。
従来のポートチャネル、またはリンクアグリゲーションと呼ばれる技術は、複数の物理的なネットワークケーブルを論理的に束ねて一本の高速な通信路として扱うものである。これにより、通信帯域を増やし、一部のケーブルが故障しても通信が継続できる冗長性を提供できた。しかし、この従来のポートチャネルには一つの大きな制約があった。それは、束ねるケーブルの全ての端が、単一の物理スイッチに接続されている必要があったことだ。
この制約により、もしその単一の物理スイッチ自体が故障した場合、たとえポートチャネルで接続されたケーブルがどれほど冗長化されていても、終端デバイスはネットワークから切り離されてしまうという単一障害点の問題が残っていた。システムエンジニアを目指す初心者が想像するネットワークの冗長化とは、サーバーを複数の異なるスイッチに接続して、一方のスイッチがダウンしてももう一方で通信を継続できるような構成だろう。しかし、従来のイーサネットネットワークでは、このような接続を行うと、物理的なループが発生し、ネットワークの混乱や通信障害を引き起こす可能性があるため、スパニングツリープロトコル(STP)という技術が冗長パスを自動的にブロックし、片方のパスしか利用できないようにしていた。結果として、サーバーからの通信経路はアクティブ/スタンバイ構成となり、利用可能な帯域幅が半分になってしまう、あるいは常に一つのスイッチが単一障害点として残り続けるという課題があった。
この従来のポートチャネルの限界を克服するために開発されたのが、仮想ポートチャネル(vPC: Virtual Port Channel)である。vPCは、主にシスコシステムズのNexusシリーズスイッチで提供される機能であり、2台の物理スイッチを論理的に一台のポートチャネルエンドポイントとして機能させる。これにより、サーバーなどの終端デバイスは、物理的には異なる2台のスイッチに接続されているにもかかわらず、それらを単一の論理デバイスへの接続であると認識し、ポートチャネルを構成できるようになる。
vPCの仕組みは以下の要素で構成される。まず、vPCを構成する2台のスイッチは「vPCピア」と呼ばれる。これら2台のvPCピアスイッチは、制御情報を交換するための専用のリンク、すなわち「vPCピアリンク」で接続される。vPCピアリンクは通常、複数の物理リンクを束ねたEtherChannelとして構成され、データトラフィックの転送も担う。さらに、vPCピアスイッチ間には、vPCピアリンクとは独立した「vPCピアキープアライブリンク」も設定される。これは、vPCピアリンクが故障した場合に、各vPCピアの状態を監視し、ネットワークのスプリットブレイン状態(お互いが相手の故障を誤って判断し、それぞれがプライマリとして振る舞おうとする状態)を防ぐための重要な役割を果たす。
終端デバイス側から見ると、vPCに接続されたインターフェースは、物理的には各vPCピアスイッチにそれぞれ接続されるが、論理的には単一のポートチャネルグループの一部として扱われる。これにより、終端デバイスは両方のvPCピアスイッチへのパスを同時に利用でき、パケットの負荷分散が可能となる。
vPCを導入することで、ネットワークには数多くのメリットがもたらされる。第一に、高可用性が大幅に向上する。サーバーやストレージデバイスは2台の独立したスイッチに冗長接続されるため、一方のスイッチが完全に故障しても、もう一方のスイッチ経由で通信が継続される。これは、従来の単一スイッチへのポートチャネル接続では実現できなかったレベルの耐障害性を提供する。また、個々のリンク障害に対しても、ポートチャネルの特性として冗長性がある。
第二に、帯域幅の向上と効率的な利用が可能になる。vPCは、終端デバイスから2台のvPCピアスイッチへのパスを、スパニングツリープロトコルによるブロックなしに、アクティブ/アクティブで利用できるようにする。これにより、両方の物理リンクから同時にトラフィックを転送でき、実質的な利用帯域を増やすことができる。例えば、サーバーが2本の10GbEポートでvPCに接続されている場合、合計20Gbpsの帯域を理論上利用可能となる。
第三に、レイヤー2のループフリーなネットワークを実現できる。vPCは、物理的な冗長パスが存在するにもかかわらず、ネットワークループが発生しないように設計されているため、スパニングツリープロトコルの複雑な設定や、冗長パスのブロックといった制約を受けることなく、すべてのリンクをアクティブに利用できる。これにより、データセンターネットワークの設計と運用が簡素化されるとともに、安定性が向上する。
第四に、LACPとの連携がスムーズである。vPCは、終端デバイスがLACP(Link Aggregation Control Protocol)を使用してポートチャネルを確立する際、2台のvPCピアスイッチを単一の論理デバイスとして認識させる。これにより、終端デバイス側は特別な設定変更を必要とせず、既存のLACP実装をそのまま利用して、vPC環境のメリットを享受できる。
仮想ポートチャネルは、これらのメリットから、特に高い可用性とパフォーマンスが要求されるデータセンターのサーバーアクセス層や、FCoE(Fibre Channel over Ethernet)のようなストレージ接続において広く採用されている。ネットワークの設計が複雑になる可能性はあるが、その提供する耐障害性と帯域利用効率の向上は、現代のITインフラにおいて不可欠な要素となっている。vPCはシスコ独自の名称だが、他ベンダーでも類似の機能が異なる名称で提供されている場合がある。この技術は、物理的な制約を超えてネットワークの柔軟性と堅牢性を高める、先進的なソリューションの一つである。