【ITニュース解説】3Dプリント部品にネジをはやして結合しよう

2024年11月19日に「Gihyo.jp」が公開したITニュース「3Dプリント部品にネジをはやして結合しよう」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

3Dプリント部品は、一度に全て出力できない場合がある。別々に出力した部品同士を確実に接合するため、部品自体にネジやネジ穴を作成し、組み合わせる方法を解説する。

ITニュース解説

3Dプリント技術の進歩は目覚ましく、個人でも手軽に様々な立体物を作成できるようになった。しかし、全ての部品が一度の出力で完結するわけではない。作成したいものがプリンターの造形範囲を超えたり、複数の素材を組み合わせたり、特定の機能を持たせたい場合には、別々に出力した部品同士を接合する必要が生じる。今回は、3Dプリント部品を組み合わせる際に非常に有効な、部品自体にネジとネジ穴を作成する方法について解説する。

3Dプリントにおける部品結合のニーズは多岐にわたる。例えば、大きな構造物を作る際に、プリンターの造形サイズを超えるため、分割して出力し後から結合するケースがある。また、複数の色や異なる特性を持つ材料を組み合わせたい場合、あるいは、試作段階で一部の部品だけを交換できるようにしたい場合などにも、結合は不可欠だ。結合方法には、接着剤、はめ込み、ピンやクリップ、そして今回解説するネジ結合など、様々な選択肢がある。中でもネジ結合は、部品を繰り返し分解・再結合できるという大きな利点を持つ。これは、プロトタイプの開発や修理、部品交換が必要な製品にとって非常に重要な特性と言える。

特に、市販の金属ネジやナットを別途用意するのではなく、3Dプリント部品自体にネジ山やネジ穴を造形する方法は、部品点数を減らし、設計の自由度を高める点で優れている。外部部品の調達コストや在庫管理の手間を削減できるだけでなく、部品の形状に合わせて最適なネジをデザインできるため、より一体感のある製品や構造物を作成可能だ。

この方法を実現するために最も重要なのは、CAD(Computer-Aided Design)ソフトウェアを用いた正確な設計である。一般的な金属ネジの規格(M3、M5など)を参考にしつつも、3Dプリントの特性を考慮した調整が必要になる。具体的には、外ネジ(ボルトに相当する部品)と内ネジ(ナットに相当する部品の穴)の形状、ねじ山のピッチ(ねじ山の間隔)、深さなどを慎重に決定する。

外ネジを設計する際には、ねじ山の形状が重要だ。一般的な三角ネジの形状をベースに、3Dプリンターで造形しやすいように、少し丸みを帯びさせたり、角度を調整したりすることが有効な場合がある。また、ネジの強度を確保するためには、積層方向も考慮に入れる必要がある。ネジの軸方向に積層する方が、ねじ山が剥がれにくく強度が増す傾向にあるが、プリント時のサポート材の有無や、造形時間のバランスも考慮して最適な向きを判断する。

内ネジ、つまりネジ穴の設計はさらに繊細だ。ネジがスムーズに、かつしっかりと締まるようにするためには、外ネジとの間に適切な「クリアランス」、つまり隙間を設けることが不可欠である。このクリアランスの調整こそが、3Dプリントでネジ結合を成功させる上での最大のポイントと言えるだろう。

クリアランスは、使用する3Dプリンターの種類、積層方式(FDM、SLAなど)、材料(PLA、ABS、PETGなど)、ノズル径、積層ピッチといった様々な要因によって最適な値が大きく変動する。例えば、FDM方式のプリンターでは、溶融したフィラメントが冷却される際にわずかに収縮したり、ノズルから押し出される際に意図せず膨らんだりするため、設計値と実際の寸法にずれが生じやすい。特に、細かなディテールを持つネジ山では、このわずかな誤差が結合の成否を分ける。

一般的には、0.1mmから0.3mm程度のクリアランスが推奨されることが多いが、これはあくまで目安だ。クリアランスが小さすぎるとネジが全く入らなかったり、無理に締め込もうとして部品が破損したりする。逆にクリアランスが大きすぎると、ネジが緩く締まらなかったり、簡単に外れてしまったりして、結合としての機能が果たせない。そのため、実際に使用するプリンターと材料で、小さなテストピース(例えば、異なるクリアランスで数種類のネジとネジ穴を作成したもの)をいくつかプリントし、最適なクリアランスを見つけるための試行錯誤が非常に重要となる。このプロセスは、問題の原因を特定し、最適な解決策を見つけ出す地道な作業だ。

プリント後の後処理も考慮すべき点である。特にFDM方式でプリントする場合、ネジ穴内部やねじ山の裏側にサポート材が必要となることがある。このサポート材をきれいに除去しないと、ネジがスムーズに締まらない原因となる。細い工具やエアダスターなどを使って、慎重に除去する必要がある。また、積層造形特有の表面の粗さ(積層痕)が、ネジ山のかみ合いを妨げることがある。この場合、目の細かいヤスリやリューターなどで軽く表面を研磨することで、スムーズな結合が可能になる場合がある。場合によっては、市販のタッピングツール(ネジ切り工具)を使って、プリントされたネジ穴を清掃し、ねじ山を整える「タッピング」という工程も有効だ。これは、金属加工で用いられる技術だが、樹脂部品の精度を向上させるためにも応用できる。

繰り返し着脱する部分や、高い強度を求める部分には、3Dプリントされたネジだけでは不十分な場合もある。そのような状況では、熱を加えて樹脂に埋め込む「ヒートセットインサート」などの金属製インサートナットを併用することも検討すべきだ。これは、金属のネジを直接樹脂部品に結合させることで、より高い強度と耐久性を持たせる方法である。しかし、部品点数が増えたり、追加の加工が必要になったりする点も考慮に入れる必要がある。

総じて、3Dプリント部品にネジとネジ穴を造形して結合させる技術は、非常に奥深く、多くの可能性を秘めている。単に部品を物理的に結合させるだけでなく、デザインの自由度、機能性、コスト、メンテナンス性といった多角的な視点から最適な解を導き出す必要がある。これは、システム設計における要件定義や実装方法の選択にも通じる考え方と言えるだろう。最適なクリアランスを見つけ出すための試行錯誤、プリント時の向きやサポート材の考慮、そして必要に応じた後処理。これら一連のプロセスを通じて、設計者は単なるモノづくりを超え、複雑な課題解決能力を培うことができる。3Dプリントにおけるネジ結合は、デジタル設計と物理的な造形が交錯する点であり、その知識は今後のものづくりにおいてますます重要となるに違いない。