【ITニュース解説】第838回 Active Directoryへの統合ツールadsysを使う(3) グループポリシーの設定
2024年11月13日に「Gihyo.jp」が公開したITニュース「第838回 Active Directoryへの統合ツールadsysを使う(3) グループポリシーの設定」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
UbuntuマシンをActive Directoryに統合するツールadsysの活用記事。AD参加とadsysd展開を終えたUbuntuマシンに対し、今回はActive DirectoryユーザーやUbuntuマシン自体にグループポリシー(GPO)を適用する方法を解説。AD環境でのUbuntu管理を学ぶ。
ITニュース解説
今日の解説は、企業や組織のITシステム管理において非常に重要な役割を果たす「Active Directory」(アクティブディレクトリ)と、LinuxベースのOSであるUbuntu(ウブントゥ)を連携させる技術、そしてその上で「グループポリシー」を適用する方法について深く掘り下げる。システムエンジニアを目指す上で、こうした複数の異なるシステムを統合し、効率的に管理する手法は必須の知識となる。
まず、Active Directoryとは何か、という点から説明しよう。Active Directoryは、主にWindows Serverの機能として提供されるもので、企業ネットワーク内に存在するユーザーアカウント、コンピューター、ファイルサーバー、プリンターといったさまざまなリソースを一元的に管理するためのシステムだ。例えるなら、会社全体の「住所録」と「社員名簿」、そして「ルールブック」を兼ね備えたようなものだと言える。誰がどのコンピューターにログインできるのか、どのファイルにアクセスできるのか、どのプリンターを使えるのかといった情報をすべてActive Directoryが管理している。これにより、システム管理者は個々のコンピューターを一つずつ設定する手間を省き、全体のセキュリティレベルを統一的に保つことができる。
次に、このActive Directoryの強力な機能の一つである「グループポリシー」(Group Policy Object、通称GPO)について解説する。グループポリシーとは、Active Directoryに登録されているユーザーやコンピューターに対して、様々な設定やルールを一括で適用するための仕組みのことだ。例えば、「全てのコンピューターでスクリーンセーバーを5分で起動させる」「特定のソフトウェアを自動的にインストールする」「パスワードの複雑さを一定以上にする」「デスクトップの背景を変更できないようにする」といった設定を、個々のコンピューターに手動で設定するのではなく、Active Directoryから一斉に配布・適用できる。これにより、数百、数千台のコンピューターがあっても、管理者一人で効率的かつ一貫した設定を維持できるようになる。
通常、Active DirectoryはWindows環境で利用されることがほとんどだが、現代の企業ネットワークではWindowsだけでなく、LinuxベースのOSであるUbuntuなどのマシンも数多く使われている。そこで課題となるのが、これらLinuxマシンをいかにActive Directoryの管理下に置き、Windowsマシンと同様に効率的に運用するかという点だ。今回解説する記事は、この課題を解決するための方法の一つを示している。
UbuntuマシンをActive Directoryに参加させるということは、UbuntuマシンがActive Directoryの「住所録」に登録され、Active Directoryの「ルールブック」に従うようになることを意味する。そのためのツールとして「adsys」(エイディーシス)が利用される。adsysは、UbuntuとActive Directoryの橋渡し役となり、Active Directoryが発する指示(特にグループポリシー)をUbuntuが理解し、適切に実行できるようにする。以前の記事でUbuntuマシンをActive Directoryに参加させ、adsysd(エイディーシスディー)というadsysの一部であるデーモン(バックグラウンドで常に動作するプログラム)を展開したとあるが、このadsysdがActive Directoryからのグループポリシーの変更を監視し、Ubuntuマシンにその設定を適用する中心的な役割を果たす。
今回の記事の肝は、Active Directoryで設定されたグループポリシーを実際にUbuntuマシンに適用する部分だ。具体的にどのようなGPOがUbuntuに適用されるのかというと、例えば以下のようなケースが考えられる。
- ログインバナーの表示: ログイン時にセキュリティに関する警告文や会社の規定を表示させる設定。これはWindows環境では一般的なセキュリティ対策だが、adsysを使うことでUbuntuマシンにも同じバナーを表示させることができる。ユーザーがログインする前に重要なメッセージを確認させることで、情報セキュリティ意識の向上に貢献する。
- パスワードポリシーの適用: パスワードの最低文字数、有効期限、複雑さ(大文字・小文字・数字・記号の組み合わせなど)といったルールを強制する設定。これもActive Directoryで一元管理することで、全ユーザーが強固なパスワードを使用するよう促され、システム全体のセキュリティが向上する。Ubuntuのユーザーも、Active Directoryのポリシーに準拠したパスワードを設定するよう求められる。
- sudoer(スードゥワー)設定の管理: Linuxでは、一般ユーザーが管理者権限でコマンドを実行するために
sudoコマンドを利用する。どのユーザーがsudoを使用できるか、どのようなコマンドを実行できるかといった設定は、通常/etc/sudoersというファイルで管理される。adsysを使えば、Active Directoryのグループポリシーによって、特定のActive Directoryユーザーグループに所属するユーザーのみがUbuntuマシン上でsudoコマンドを利用できるようにしたり、特定のコマンドの実行を許可・禁止したりするといった、よりきめ細やかな権限管理が可能になる。これは、システムへの不正な変更を防ぎ、セキュリティを強化する上で非常に重要だ。
これらの設定をActive Directoryのグループポリシーとして一元的に管理し、adsysを通じてUbuntuマシンに適用することで、個々のUbuntuマシンを一つずつ設定する手間が大幅に削減される。また、すべてのマシンで統一されたセキュリティポリシーや運用ルールが適用されるため、セキュリティリスクの低減にもつながる。システム管理者は、Active Directory上での設定変更一つで、数十、数百台のUbuntuマシンの挙動を制御できるようになるのだ。
この技術は、WindowsとLinuxが混在する大規模なエンタープライズ環境において、システムの管理効率とセキュリティを向上させる上で不可欠なものとなっている。システムエンジニアを目指す皆さんにとって、異なるOSを統合し、効率的な運用を実現するこうした知識とスキルは、今後のキャリアにおいて非常に大きな強みとなるだろう。単にOSの操作ができるだけでなく、システム全体の構成や管理手法を理解することが、真のシステムエンジニアへの道を開くことになる。