【ITニュース解説】第839回 Active Directoryへの統合ツールadsysを使う(4) Ubuntu Proサブスクリプションを必要とするポリシーの紹介

2024年11月20日に「Gihyo.jp」が公開したITニュース「第839回 Active Directoryへの統合ツールadsysを使う(4) Ubuntu Proサブスクリプションを必要とするポリシーの紹介」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

adsysツールでUbuntuマシンをActive Directoryに統合し、グループポリシーオブジェクト(GPO)を適用する方法を紹介。今回は、Ubuntu Proサブスクリプションが必要となる特別なポリシーの一部を解説する。

ITニュース解説

企業が情報システムを運用する際、多数のコンピューターやユーザーを効率的かつ安全に管理することは、非常に重要な課題となる。ここで中心的な役割を果たすのが「Active Directory(アクティブディレクトリ)」という仕組みだ。Active Directoryは、主にMicrosoft Windowsサーバー上で動作するサービスで、企業内のユーザーアカウント、コンピューター、プリンターなどのネットワークリソースを一元的に管理するために利用される。例えば、社員がどのコンピューターを使っても自分のアカウントでログインでき、同じファイルやサービスにアクセスできるようにしたり、特定の部署のコンピューター群に共通のセキュリティ設定を一括で適用したり、あるいは特定のソフトウェアを自動的にインストールさせたりすることが可能になる。これにより、システム管理者は個々のコンピューターを手作業で設定する手間を大幅に省き、企業全体の情報セキュリティポリシーを確実に適用できるため、非常に強力な管理基盤となる。

一方、オペレーティングシステム(OS)としてWindowsが主流な企業環境においても、近年では「Ubuntu(ウブントゥ)」のようなLinuxベースのOSの利用が広まっている。Ubuntuはオープンソースで提供される人気の高いLinuxディストリビューションの一つで、その堅牢性や柔軟性からサーバー用途や開発環境などで広く採用されている。しかし、WindowsとUbuntuという異なる種類のOSが企業内で混在する環境では、それぞれのOSを別々の方法で管理することになり、運用が複雑になるという課題が生じる。そこで、「Active Directoryを使ってWindowsもUbuntuもまとめて管理したい」というニーズが生まれてくる。

このニーズに応えるための具体的なツールの一つが「adsys(アドシス)」である。adsysは、UbuntuをActive Directoryのドメイン(管理下の領域)に参加させ、Active Directoryが持つ強力な管理機能である「グループポリシーオブジェクト(GPO)」をUbuntuマシンにも適用できるようにするためのツールだ。これにより、システム管理者はActive Directoryを通じて、WindowsマシンだけでなくUbuntuマシンに対しても、セキュリティポリシーやシステム設定などを一元的に制御できるようになる。ユーザーにとっても、Windowsと同じようにActive Directoryの認証情報(ユーザー名とパスワード)を使ってUbuntuにログインできるようになるため、利便性が向上する。

グループポリシーオブジェクト(GPO)とは、Active Directoryにおけるコンピューターやユーザーの動作を制御するための一連の設定をまとめたものだ。たとえば、「パスワードは8文字以上で英数字記号を組み合わせること」「一定時間操作がない場合は自動的にスクリーンロックをかけること」「USBメモリの使用を禁止すること」といった、情報セキュリティやシステム運用に関する様々なルールを設定し、組織内の特定のグループやすべてのコンピューターに強制的に適用できる。adsysはこのGPOをUbuntuが理解できる形に変換し、Active Directoryで設定されたポリシーをUbuntuマシンに反映させる役割を担う。これにより、企業の情報セキュリティ基準をWindowsとUbuntuの両方で一貫して適用することが可能になるのだ。

しかし、Active DirectoryとUbuntuの統合管理をさらに深化させ、より高度なセキュリティやコンプライアンス(法令順守)の要件に対応しようとする場合、追加の要素が必要になることがある。それが「Ubuntu Proサブスクリプション」だ。Ubuntu Proは、Ubuntuの開発元であるCanonical社が提供する有料サービスで、長期的なセキュリティメンテナンス(ESM: Extended Security Maintenance)や追加のセキュリティ機能、専門的な技術サポートなどが含まれる。一般的なUbuntu LTS(長期サポート版)は、リリースから5年間は無償でセキュリティアップデートが提供されるが、それ以降もさらに長期間にわたって重要なセキュリティパッチを受け取るにはUbuntu Proサブスクリプションが必要となる。これは、特に企業環境でシステムを長期運用する際に、継続的なセキュリティ対策を講じる上で非常に重要な意味を持つ。

今回のニュース記事が触れているのは、このUbuntu Proサブスクリプションを必要とするポリシーの一部である。adsysを使ってActive DirectoryからUbuntuに適用できるGPOの中には、Ubuntu Proサブスクリプションが有効になっているUbuntuマシンでなければ、その機能が利用できない、あるいはその恩恵を最大限に受けられないものがある、という点がポイントだ。例えば、ESMによって提供されるセキュリティアップデートを確実に適用させるためのポリシーや、特定の業界標準(例: FIPS、連邦情報処理標準)への準拠を強制するためのセキュリティ設定など、高度な情報セキュリティやコンプライアンス要件に関わるポリシーがこれに該当する。これらのポリシーは、Ubuntu Proサブスクリプションによって提供される特別な機能や拡張されたサポートを前提としているため、サブスクリプションがなければActive Directoryからの指示があっても、Ubuntuマシン上で適切に機能させることができないのだ。

つまり、企業がUbuntuをActive Directoryと統合して運用する際に、単に基本的な設定管理だけでなく、より高いレベルのセキュリティ基準を満たしたり、長期にわたって古いバージョンのOSを安全に使い続けたりするためには、Ubuntu Proサブスクリプションの導入が不可欠になる場合があるということだ。adsysはActive DirectoryとUbuntuをつなぐ橋渡し役だが、その橋の先に提供される高度な機能やセキュリティはUbuntu Proによってさらに広がる。システムエンジニアを目指す初心者にとって、このような異種OS間の統合管理の仕組み、有料サービスが提供する価値、そしてそれらがどのように連携して企業の情報システム全体のセキュリティと運用効率を高めているのかを理解することは、現代の複雑なITインフラを管理していく上で非常に重要な知識となる。