【ITニュース解説】Amazon S3 の月額コストを約30%削減したアプローチ
ITニュース概要
AWSのストレージサービス「Amazon S3」のコスト増加という課題に対し、設定やデータの保存方法を見直すことで月額費用を約30%削減した事例。記事では、コスト削減を実現した具体的な設定方法や考え方を紹介している。
ITニュース解説
クラウドサービス、特にAmazon Web Services (AWS) は、現代のシステム開発において不可欠な存在となっている。その中でも、Amazon S3 (Simple Storage Service) は、画像やログ、バックアップデータなど、あらゆる種類のデータを安価かつ安全に保管できるストレージサービスとして広く利用されている。しかし、その手軽さゆえに、データの蓄積が進むと意図せずコストが増大してしまうケースも少なくない。今回は、ある企業が実際にAmazon S3の月額コストを約30%削減した事例を通して、クラウドコストを最適化するための具体的な手法とその考え方を解説する。 コスト削減の第一歩は、現状を正確に把握することから始まる。AWSには、利用料金の内訳を詳細に可視化できる「Cost Explorer」というツールがある。このツールを用いることで、どのサービスの、どの利用タイプにどれだけの費用がかかっているのかを特定できる。この事例の企業でも、まずCost Explorerで分析した結果、AWS利用料全体の中でS3関連のコストが大きな割合を占めていることが判明した。さらに深掘りすると、S3のコストは主に二つの要素で構成されていた。一つはデータを保管しておくこと自体にかかる「ストレージコスト」、もう一つはデータの追加や読み出し、一覧表示といった操作のたびに発生する「リクエストコスト」である。この二つのコストがなぜ高騰していたのか、その原因を突き止めることが次のステップとなった。 ストレージコストが増加していた最大の原因は、S3の「バージョニング機能」と「ライフサイクルポリシーの未設定」にあった。バージョニングとは、同じファイル名でデータが上書きされた際に、古いバージ-ョンを自動的に削除せず、履歴として保存しておく機能である。データの誤削除や意図しない変更から復旧できるため非常に便利な機能だが、有効にしたまま放置すると、古いバージョンのデータが際限なく蓄積されていく。この事例では、多くのデータ保管場所(バケット)でバージョニングが有効になっていたにもかかわらず、不要になった古いバージョンを自動的に削除する設定、すなわち「ライフサイクルポリシー」が適用されていなかった。その結果、ユーザーの目には見えない古いデータが大量に溜まり続け、ストレージコストを押し上げていたのである。この問題に対し、二つの対策が講じられた。一つは、ライフサイクルポリシーを設定し、「最新バージョンでなくなってから一定期間(例:30日)が経過した古いバージョンは自動的に削除する」というルールを適用すること。これにより、不要なデータの自動クリーンアップが実現した。もう一つは、「S3 Intelligent-Tiering」という機能の活用である。これは、データのアクセス頻度をS3が自動で監視し、長期間アクセスされていないデータを、より安価なストレージクラス(保管場所の種類)へ自動的に移動させてくれる仕組みだ。これらの設定により、手動での管理の手間をかけることなく、ストレージコストの大幅な削減に成功した。 一方、リクエストコストの高騰は、データ処理の仕組みに起因していた。この企業では、S3に保管された大量のデータを分析するために、AWSの分析サービスである「Athena」やデータ処理サービス「Glue」を利用していた。問題は、これらのサービスがS3にアクセスする際、毎回すべてのデータをスキャンするような非効率な処理を行っていた点にある。例えば、特定の日付のデータだけが必要な場合でも、全期間のデータを読み込み対象としていたため、S3へのAPIリクエスト数が膨大になり、リクエストコストを増大させていた。この課題を解決するために導入されたのが「パーティション」という考え方だ。これは、データを年、月、日などの単位でフォルダ分けして保存する手法である。例えば、「/logs/2024/05/20/」のようにデータを整理することで、AthenaやGlueは分析対象の期間を指定するだけで、必要なフォルダ内のデータのみをスキャンするようになる。これにより、スキャンするデータ量が劇的に減少し、S3へのリクエスト数も大幅に削減された。結果として、データ処理のパフォーマンスが向上すると同時に、リクエストコストの削減にも繋がったのである。 この事例は、クラウドコストの最適化が、単にサービスの利用を控えることではなく、各サービスの機能を深く理解し、設計を工夫することによって達成されることを示している。バージョニングやライフサイクルポリシー、Intelligent-TieringといったS3の機能を適切に設定すること、そしてデータ処理のアーキテクチャにおいてパーティショニングのようなベストプラクティスを取り入れることが、持続可能なコスト管理には不可欠である。システムエンジニアを目指す上で、こうしたクラウドサービスの特性を学び、コスト意識を持った設計・運用スキルを身につけることは、技術的な価値を大いに高めるだろう。