【ITニュース解説】Asahi Linuxのリードデベロッパがアップストリームメンテナーを辞任、背景に“C vs. Rust”対立に端を発したブリゲーディング

2025年02月13日に「Gihyo.jp」が公開したITニュース「Asahi Linuxのリードデベロッパがアップストリームメンテナーを辞任、背景に“C vs. Rust”対立に端を発したブリゲーディング」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

作成日: 更新日:

ITニュース概要

Appleシリコン向けLinux開発「Asahi Linux」の主要開発者Hector Martinが、Linuxカーネルメンテナーを辞任。C言語とRust言語の対立が原因で、コミュニティ内で嫌がらせ行為が発生したことが背景にある。今後はAsahi Linuxの開発に注力する方針を示す。

ITニュース解説

Asahi LinuxのリードデベロッパであるHector Martinが、Appleシリコンに関するコードのLinuxカーネルへの取り込み(アップストリーム)におけるメンテナーの役割を辞任した。この背景には、プログラミング言語CとRustの対立が関係している。

Asahi Linuxは、Appleが独自開発したシリコン(ARMアーキテクチャ)を搭載したMacでLinuxを動作させることを目的としたプロジェクトだ。Appleシリコンは従来のMacで使用されていたIntel製のCPUとは異なるアーキテクチャを採用しており、Linuxを動作させるためには、ハードウェアを制御するための特別なドライバや対応が必要になる。Asahi Linuxプロジェクトは、これらのドライバや対応を開発し、Linuxカーネルに統合することで、Appleシリコン搭載MacでのLinux利用を可能にすることを目指している。

Linuxカーネルは、世界中の開発者が協力して開発を進めている巨大なソフトウェアだ。新しい機能やドライバを追加したり、既存のコードを修正したりする際には、開発者はまずその変更内容をメーリングリストで提案する。提案されたコードは、その領域の専門家であるメンテナーによってレビューされ、問題がなければLinuxカーネルに取り込まれる。このプロセスをアップストリームと呼ぶ。

Hector Martinは、Asahi Linuxプロジェクトのリーダーとして、Appleシリコンに関するコードのアップストリームを担当するメンテナーを務めてきた。つまり、彼が承認したコードがLinuxカーネルに取り込まれ、多くのLinuxユーザーがAppleシリコン搭載MacでLinuxを利用できるようになる、という重要な役割を担っていた。

今回の辞任の背景にあるCとRustの対立は、Linuxカーネルの開発におけるプログラミング言語の選択に関する議論だ。C言語は、Linuxカーネルの大部分を構成する伝統的なプログラミング言語であり、長年にわたって利用されてきた実績がある。一方、Rustは、近年注目を集めている比較的新しいプログラミング言語であり、メモリ安全性が高く、より安全なコードを記述できるとされている。

Linuxカーネルの一部では、Rustによる開発が進められている。しかし、C言語を支持する開発者の中には、Rustの導入に慎重な意見を持つ人もいる。今回の問題は、Appleシリコンに関するコードの一部をRustで記述することに対する反対意見が、Hector Martinに対する集団的な攻撃(ブリゲーディング)に発展したことが原因とされている。

具体的には、Rustで記述されたコードの品質や、C言語との互換性、カーネル全体への影響などを巡って、Hector Martinに対して厳しい批判や非難が相次いだ。このような状況が続いた結果、Hector Martinは精神的な負担を感じ、メンテナーとしての役割を続けることが困難になったと判断し、辞任を決意したと考えられる。

今回の辞任は、Asahi Linuxプロジェクトにとって大きな痛手となる可能性がある。Hector Martinは、プロジェクトのリーダーであるだけでなく、Appleシリコンに関する深い知識と経験を持つ開発者であり、彼の辞任によって、今後の開発に遅れが生じる可能性もある。

また、今回の事件は、Linuxカーネルの開発コミュニティにおけるプログラミング言語の選択に関する議論が、感情的な対立に発展する可能性があることを示唆している。今後、Linuxカーネルの開発においては、技術的な議論だけでなく、開発者間のコミュニケーションや感情的な配慮も重要になるだろう。

システムエンジニアを目指す初心者にとって、今回のニュースは、プログラミング言語の選択が単なる技術的な問題ではなく、コミュニティや開発プロセスにも影響を与える可能性があることを理解する上で重要な事例となる。また、オープンソースソフトウェアの開発においては、技術的なスキルだけでなく、コミュニケーション能力や問題解決能力も重要であることを認識する必要がある。