【ITニュース解説】Implementing Automated Incident Remediation Workflows
2025年09月05日に「Medium」が公開したITニュース「Implementing Automated Incident Remediation Workflows」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
システム障害時の復旧作業を自動化する「自動インシデント修復ワークフロー」の導入解説。よくある障害の対応手順をあらかじめ定義しツールで自動化することで、迅速な復旧と人為的ミスの削減を実現し、エンジニアの負担を大きく軽減する。
ITニュース解説
現代のITシステムは複雑さを増し、様々な問題(インシデント)が発生することは避けられない。しかし、その問題をいかに迅速に解決し、システムを正常な状態に戻すかは、サービスの品質を維持する上で極めて重要だ。今回取り上げる「自動インシデント修復ワークフロー」は、この問題解決のプロセスを自動化することで、IT運用のあり方を大きく変える画期的なアプローチである。
自動インシデント修復ワークフローとは、システムで異常が検知された際に、人間が手動で介入することなく、事前に定義された手順に基づいて自動的に問題を診断し、解決まで導く一連の仕組みを指す。これは、システムがダウンしたり、パフォーマンスが低下したりしたときに、まるで「自動で治る力」をシステム自身が持っているかのように振る舞うことを目指す。
なぜこのような自動化が今、強く求められているのだろうか。従来のインシデント対応では、システム監視ツールが異常を検知すると、エンジニアにアラートが通知され、エンジニアが手動でログを確認し、原因を特定し、適切な修復作業(例えば、サーバーの再起動、設定ファイルの修正、リソースの増強など)を行うのが一般的だった。しかし、この手動プロセスには多くの課題があった。まず、問題解決までに時間がかかる。特に夜間や休日など、担当者がすぐに手配できない時間帯に問題が発生した場合、対応が遅れることでサービス停止時間が長くなり、ビジネスに大きな損害を与える可能性がある。次に、人為的なミスが発生しやすい。複雑な手順を手動で実行する際、誤操作や手順の漏れが発生するリスクは常に伴う。さらに、特定のエンジニアにしか解決方法がわからないといった「属人化」の問題も発生しがちで、そのエンジニアが不在の場合には対応が滞る原因となる。
自動インシデント修復ワークフローを導入することで、これらの課題は大きく改善される。最大のメリットは、問題解決までの平均時間(MTTR:Mean Time To Resolution)を劇的に短縮できる点にある。システムが異常を検知した瞬間に自動で診断と修復が始まるため、人間の反応時間を待つ必要がなく、サービス停止時間を最小限に抑えられる。これにより、システムの可用性が向上し、ユーザーは常に安定したサービスを利用できるようになる。
また、運用コストの削減にもつながる。これまで手動で行っていた作業が自動化されることで、エンジニアは繰り返し発生する定型的な問題対応から解放され、より高度なシステムの改善や新機能の開発といった、付加価値の高い業務に集中できるようになる。これは、エンジニアのモチベーション向上にも寄与し、組織全体の生産性向上にもつながるだろう。さらに、自動化された手順は常に一貫しており、人為的なミスが排除されるため、トラブル再発のリスクを低減し、安定したシステム運用が実現できる。
では、この自動インシデント修復ワークフローは、具体的にどのような要素で構成され、どのように実現されるのだろうか。主要な構成要素は、主に以下の四つが挙げられる。
一つ目は「監視ツール」である。これはシステムの状態を常にチェックし、異常が発生していないかを監視する役割を担う。例えば、サーバーのCPU使用率が異常に高まっていないか、データベースの応答速度が低下していないか、といった様々な指標をリアルタイムで監視する。PrometheusやGrafana、Dynatraceといったツールがこのカテゴリーに属し、システムの「目」となる。
二つ目は「アラートシステム」だ。監視ツールが異常を検知した際に、その情報を適切な担当者や次のシステムに通知する役割を果たす。PagerDutyやOpsgenieなどが代表的なツールで、インシデントの深刻度に応じて、メール、SMS、電話など様々な方法で通知を行い、緊急事態を知らせる「警報器」のようなものだ。
三つ目は「インシデント管理プラットフォーム」である。これは、発生したインシデントに関する情報を一元的に記録し、追跡し、管理するためのシステムだ。Jira Service Managementなどがよく利用され、インシデントの発生日時、内容、対応状況、解決までの履歴などを記録し、後の分析や改善活動に役立てる。これはインシデント対応の「司令塔」として機能する。
そして四つ目が最も重要な「自動化プラットフォーム」あるいは「オーケストレーションツール」だ。このツールこそが、事前に定義されたワークフローに基づいて、具体的な修復アクションを実行する「実行部隊」となる。異常検知とアラート通知を受け、問題の診断、ログの収集、サービスの再起動、リソースのスケールアップ(増強)、設定のロールバック(以前の状態に戻すこと)といった修復作業を自動で実行する。Rundeck、Ansible、Kubernetes Operators、ServiceNow、Pipedreamなどがこの役割を担うツールとして挙げられる。特にRunbook Automationと呼ばれる機能は、エンジニアが手動で行っていた手順書(Runbook)の内容を、自動化ツールが実行可能なスクリプトや定義として実装し、自動的に実行することを可能にする。
これらのツールを組み合わせて自動インシデント修復ワークフローを実装するには、いくつかの段階を踏む必要がある。
最初のステップは「インシデントの特定と分析」だ。自社のシステムでどのようなインシデントが頻繁に発生しているのか、また、それらのインシデントに対して手動でどのような対応をしているのかを詳細に分析する。ここから、自動化の対象とするインシデントを洗い出す。
次に「自動化の範囲定義」を行う。全てのインシデントを一度に自動化することは困難であり、リスクも伴う。そのため、まずは発生頻度が高く、かつ修復手順が比較的シンプルで明確なインシデントから自動化の対象とすると良いだろう。例えば、特定のサービスが停止したら自動で再起動する、といったシンプルなものから始める。
そして「ワークフローの設計」だ。特定したインシデントに対して、異常検知から修復完了までの具体的なステップを詳細に定義する。どの監視ツールが検知し、どのようにアラートが通知され、どの自動化ツールが、どのような順番で、どのようなアクションを実行するのかをフローチャートのように明確に設計する。
適切な「ツールの選択」も重要だ。既存のITインフラストラクチャや、求める自動化の複雑さに応じて、最適な監視ツール、アラートシステム、インシデント管理プラットフォーム、そして自動化プラットフォームを選定する。オープンソースツールと商用ツール、クラウドサービスなどを比較検討し、自社のニーズに合ったものを選ぶ。
その後、「自動化スクリプトの開発」に入る。設計したワークフローに基づいて、実際に修復アクションを実行するためのスクリプト(PythonやBashなど)を作成したり、自動化プラットフォーム上でワークフローを定義したりする。この際、セキュリティと冪等性(何度実行しても同じ結果になること)を考慮することが非常に重要だ。
スクリプトやワークフローが完成したら、「テストと検証」を徹底的に行う。開発環境やステージング環境で、実際にインシデントを発生させ、自動修復ワークフローが期待通りに動作するか、意図しない副作用がないかを確認する。このテスト段階を疎かにすると、本番環境で予期せぬトラブルを引き起こす可能性があるため、細心の注意を払う必要がある。
テストが完了し、十分に検証されたら、いよいよ「導入と監視」だ。自動修復ワークフローを本番環境に適用し、実際に運用を開始する。導入後も、その動作状況や効果を継続的に監視し、問題が発生しないか、期待通りの効果が得られているかを確認する。
最後に「反復と改善」を行う。一度導入した自動化ワークフローも、システムの変更や新たなインシデントの発生によって、その有効性が薄れることがある。そのため、定期的にワークフローを見直し、改善点を見つけて更新していくことが不可欠だ。新たなインシデントタイプを自動化の対象に追加したり、既存のワークフローをより効率的にしたりする。
この自動インシデント修復ワークフローの導入は、システムエンジニアを目指す皆さんにとって、現代のIT運用を理解し、将来のキャリアを形成する上で非常に重要な知識となる。効率的で安定したシステム運用を実現するための強力なツールであり、今後ますますその重要性が高まることは間違いない。手動作業の繰り返しから解放され、より戦略的な業務に集中できるようになるこのアプローチは、エンジニアの働き方そのものをも変革する可能性を秘めていると言えるだろう。