【ITニュース解説】[オンプレ技術者向け] AWSを学ぶには?

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ITニュース概要

AWSの学び方を紹介する連載の第2回。オンプレミスのシステムを扱ってきた技術者が、クラウドのAWSを習得するための学習方法を解説する。

ITニュース解説

ITインフラの世界は近年、大きな変化を遂げており、その中心にあるのがクラウドコンピューティングだ。Amazon Web Services(AWS)はその代表的な存在であり、多くの企業がIT基盤をオンプレミスからクラウドへ移行させている。この動きはITエンジニアにとって、新しいスキル習得の必要性を強く示している。特に、これまで企業内で自前のサーバーやネットワーク機器を構築・運用してきたオンプレミス技術者にとって、AWSの学習はキャリアの幅を広げる上で非常に重要となる。 オンプレミス環境とは、企業がデータセンターやオフィス内に物理的なサーバーやネットワーク機器を自社で所有し、運用・管理する形態を指す。この方式では、機器の購入、設置、冷却、電力供給、故障時の交換、OSやミドルウェアのインストールと設定、ネットワークの配線といった、ハードウェアからソフトウェアまでのあらゆる層を自社で管理する。これにより、高い自由度とセキュリティを確保できる一方で、初期投資が大きく、運用コストも継続的に発生し、需要の変動に柔軟に対応しにくいという課題がある。 一方、AWSのようなクラウドサービスは、これらのITリソースをインターネット経由で必要な時に必要なだけ利用できる仕組みを提供する。ユーザーは物理的なインフラを所有・管理する必要がなく、仮想サーバー、ストレージ、データベース、ネットワークなどのサービスをWebブラウザやAPIを通じて利用する。これにより、初期費用を抑え、運用コストを従量課金制にでき、急な需要増減にも迅速に対応できるといったメリットがある。 オンプレミス環境での経験を持つ技術者は、AWSを学ぶ上で有利な点が多くある。例えば、ネットワークの基礎知識(IPアドレス、ルーティング、ファイアウォールなど)、サーバーのOS(LinuxやWindows Server)、データベースの概念、アプリケーションのデプロイ方法などは、AWS環境でも共通する基本的な要素だ。これらの知識は、AWSの仮想ネットワークサービスであるAmazon VPC(Virtual Private Cloud)や仮想サーバーサービスであるAmazon EC2(Elastic Compute Cloud)を理解する上で大いに役立つ。既存の知識を土台として活用できるため、全くのゼロから学ぶよりは効率的な学習が可能となる。 しかし、オンプレミス技術者がAWSを学ぶ上で、いくつかの思考の転換も必要となる。最も大きな違いは、物理的なインフラ管理から、仮想的なサービス利用へと意識を切り替える点だ。オンプレミスでは物理サーバーやストレージ、ケーブルの接続などを直接触れるが、AWSではこれらの概念が抽象化され、APIや管理コンソールを通じて設定を行う。このため、インフラを「コード」として管理するInfrastructure as Code(IaC)の考え方が重要になる。AWSではCloudFormationやTerraformといったツールを用いて、インフラの構成をコードで記述し、バージョン管理することで、環境の再現性や自動化を向上させることが可能だ。 また、コストに関する考え方も大きく異なる。オンプレミスでは機器の購入に「設備投資(CAPEX)」として大きな初期費用がかかるが、AWSでは利用した分だけ支払う「運用コスト(OPEX)」が主流となる。リソースを適切にプロビジョニングし、不要なリソースは停止・削除するといったコスト最適化の視点が常に求められる。セキュリティに関しても、AWSとユーザーの間で責任範囲が分かれる「共有責任モデル」を理解することが重要だ。AWSはクラウド自体のセキュリティ(ハードウェア、ネットワーク、データセンターなど)に責任を持ち、ユーザーはクラウド内でのセキュリティ(OS、アプリケーション、データの暗号化、ネットワーク設定など)に責任を持つ。この責任分界点を正しく理解し、適切なセキュリティ対策を講じる必要がある。 AWSの学習を始めるには、まず主要なサービスの概要を掴むことが第一歩だ。例えば、仮想サーバーのEC2、オブジェクトストレージのS3(Simple Storage Service)、仮想ネットワークのVPC、リレーショナルデータベースサービスのRDS(Relational Database Service)などは、クラウドにおける基本的な構成要素であり、これらを理解することで、より複雑なアーキテクチャへの理解も深まる。 学習方法としては、公式ドキュメントやAWSが提供する無料のチュートリアル、トレーニングコンテンツの活用が効果的だ。特にハンズオン演習は不可欠であり、実際にAWSマネジメントコンソールを操作して仮想サーバーを構築したり、ウェブサイトをデプロイしたりすることで、座学で得た知識を実践的なスキルへと昇華させることができる。AWSでは無料利用枠(Free Tier)が提供されており、特定のサービスを一定量まで無料で利用できるため、これらを活用して気軽に試行錯誤することが可能だ。 さらに、AWS認定資格の取得を目指すことも、体系的な学習を促し、自身のスキルを客観的に証明する上で非常に有効だ。システムエンジニアを目指す初心者には、「AWS認定クラウドプラクティショナー」がクラウドの基礎概念とAWSの主要サービスを網羅的に学べるため、最初のステップとして推奨される。その後、「AWS認定ソリューションアーキテクト – アソシエイト」に進むことで、より実践的な設計原則やベストプラクティスを習得できる。これらの資格学習を通じて、AWSのサービス間の連携や、実際のシステム構築における応用力を養うことができる。 オンライン学習プラットフォーム(Udemy、Courseraなど)や技術ブログ、コミュニティも貴重な学習リソースとなる。他の学習者や現役エンジニアとの交流を通じて、疑問を解決したり、最新のトレンド情報を得たりすることも、学習のモチベーション維持に繋がる。 AWSへの移行は、単なる技術的な変化に留まらず、ITインフラの設計、構築、運用に対する考え方そのものを変革するプロセスだ。オンプレミスでの経験を強みとしつつ、クラウド特有の考え方やサービスモデルを積極的に吸収することで、システムエンジニアとしての市場価値を高め、新しいキャリアパスを切り開くことができるだろう。継続的な学習と実践を通じて、AWSという強力なツールを使いこなし、これからのITインフラを支えるエンジニアへと成長していくことが期待される。

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