【ITニュース解説】そのBCPは“テレワーク用”になっているか? オフィス前提からの見直しガイド

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オフィス前提の事業継続計画(BCP)は、テレワーク時代に合わない。多様な働き方に対応するため、BCPを刷新する具体的な見直しポイントを解説。

ITニュース解説

事業継続計画(BCP)という言葉を聞いたことがあるだろうか。これは、企業が予期せぬ災害やシステム障害、感染症の流行など、重大な緊急事態に直面した際に、事業を中断させずに継続するための、あるいは中断してもできる限り早く復旧させるための計画を指す。システムエンジニアを目指す者として、企業のシステムを支えることはもちろん重要だが、そのシステムがどのような状況下でも安定して稼働し、事業が滞りなく進むための全体像を理解することも不可欠だ。このBCPは、まさに企業の安定稼働を保証する土台となるものなのである。 これまで多くの企業で作成されてきたBCPは、従業員がオフィスに集まって業務を行うことを前提としていた。例えば、地震でオフィスビルが損壊した場合、別の場所にある代替オフィスへ移動し、そこで業務を再開するといった内容が一般的だった。データのバックアップや復旧手順、代替サーバーの準備なども、主にオフィスやデータセンター内での作業を想定していたのである。しかし、近年、この「オフィス前提」のBCPが時代遅れになりつつある。 その大きな転換点となったのが、新型コロナウイルスの世界的な流行だ。多くの企業は、従業員の安全確保と事業継続のため、一斉にテレワーク体制へと移行した。これにより、従業員がオフィスに集まることなく、それぞれの自宅やサテライトオフィスなど、多様な場所から業務を遂行することが可能になった。これは企業にとって新たな働き方を開拓する機会となった一方で、従来のBCPでは想定されていなかった、新しいリスクや課題を浮き彫りにした。例えば、自宅のインターネット環境に問題が発生した場合の対応、従業員のデバイスが自宅で紛失・盗難された場合のセキュリティ、オフィスから離れた場所での情報共有や指揮命令系統の確立など、オフィス前提のBCPでは考慮されていなかった問題が山積したのである。 このような状況を受け、企業はBCPを「テレワーク用」あるいは「多様な働き方対応用」として刷新する必要に迫られている。具体的には、以下の見直しポイントが挙げられる。 まず、働く「場所」の多様化への対応が必須となる。従業員が自宅、カフェ、コワーキングスペース、出張先など、さまざまな場所から業務を行うことを前提に計画を立て直す必要がある。これにより、特定の場所に依存しない柔軟な業務遂行能力が求められる。 次に、ITインフラの抜本的な見直しと強化だ。オフィスで利用していたシステムが、テレワーク環境で十分なパフォーマンスを発揮できるかを確認し、必要に応じて改善する。例えば、VPN接続が集中することで通信速度が低下したり、サーバーに負荷がかかりすぎたりする問題が発生する可能性がある。クラウドサービスの活用は、特定の物理的な場所に縛られずにサービスを提供できるため、BCP対策として非常に有効だ。また、従業員が個人所有のデバイス(BYOD)を利用する場合、それらを安全に管理するためのMDM(モバイルデバイス管理)ツールや、仮想デスクトップ(VDI/DaaS)の導入も検討されるべきだ。これにより、デバイスが紛失してもデータ漏洩のリスクを低減できる。 さらに、セキュリティ対策の徹底は、テレワークBCPにおいて最も重要な要素の一つだ。オフィス環境と異なり、自宅ではセキュリティの管理が行き届きにくい。従業員の自宅ネットワークの安全性、共有PCの利用、家族による偶発的な情報漏洩など、新たなリスクが生まれる。これに対し、多要素認証の導入、デバイスの暗号化、定期的なセキュリティパッチの適用、そして何よりも従業員に対する徹底したセキュリティ教育が求められる。近年注目される「ゼロトラスト」の考え方は、社内・社外の区別なく、すべてのアクセスを信頼しないことを前提に検証を行うため、多様な働き方におけるセキュリティ強化策として非常に有効だ。 コミュニケーションと業務連携の仕組みも再構築が必要となる。緊急事態発生時に、オフィスにいない従業員の安否をどのように確認し、必要な情報をどのように共有するか。Web会議システム、ビジネスチャットツール、グループウェアなどを活用し、リアルタイムでの情報共有と意思決定ができる体制を整備することが重要だ。また、オフィスで直接指示を出していたマネージャーが、リモート環境で従業員の業務状況を把握し、適切に指示・評価を行うための仕組みも必要となる。 業務プロセスのデジタル化推進も欠かせない。オフィスで紙ベースで行っていた稟議書や契約書の承認プロセス、押印が必要な業務などは、テレワーク環境では大きな障害となる。電子契約システムやワークフローシステムを導入し、業務のペーパーレス化、デジタル化を進めることで、場所にとらわれずに業務を継続できるようになる。これは単なる効率化だけでなく、BCPの観点からも極めて重要だ。 最後に、BCPは一度作成したら終わりではなく、定期的な見直しと訓練の実施が不可欠だ。IT環境は日々変化し、新たな脅威や技術が登場する。それらの変化に対応してBCPを常に最新の状態に保つ必要がある。また、実際に緊急事態が発生した際に、従業員がスムーズに計画を実行できるよう、定期的に模擬訓練を行い、課題を洗い出し改善していくプロセスが重要だ。訓練を通じて、計画の不備や、従業員の習熟度不足といった問題点を発見し、改善することで、より実効性の高いBCPを構築できる。 システムエンジニアとして、このようなBCPの策定や見直しに深く関わる機会は多いだろう。企業のITインフラを設計し、セキュリティシステムを構築し、コミュニケーションツールを選定・導入する過程で、BCPの視点を持つことは非常に重要だ。多様な働き方が浸透した現代において、企業が持続的に事業を継続していくためには、IT技術を最大限に活用した「テレワーク対応のBCP」が不可欠であり、その実現に向けてシステムエンジニアが果たすべき役割は非常に大きいのである。

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