【ITニュース解説】第847回 Deskflowでキーボードとマウスを複数のPCから共用する
2025年01月22日に「Gihyo.jp」が公開したITニュース「第847回 Deskflowでキーボードとマウスを複数のPCから共用する」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
ソフトウェア「Deskflow」は、1組のキーボードとマウスで複数のPCを操作可能にする。物理的な切替器は不要で、ネットワーク経由で連携する。マウスカーソルを画面の端から端へ移動させるだけで、操作するPCをシームレスに切り替えられる。
ITニュース解説
複数のコンピューター、例えばデスクトップPCとノートPCを同時に使用する場面は少なくない。しかし、そのたびにキーボードとマウスを使い分けるのは非効率であり、机の上が複数の入力デバイスで煩雑になるという問題が生じる。この課題を解決する手段として、1組のキーボードとマウスで複数のPCを操作可能にする「KVM」という技術が存在する。従来は物理的な切替器(ハードウェアKVM)が主流であったが、近年ではネットワークを利用してソフトウェアで同様の機能を実現する「ソフトウェアKVM」が注目されている。今回紹介する「Deskflow」は、このソフトウェアKVMの一種であり、複数のPCをまるで1台のPCのようにシームレスに操作できる環境を提供するツールである。
Deskflowの最も基本的な機能は、ネットワークに接続された複数のPC間で、1組のキーボードとマウスを共有することだ。この仕組みは「サーバー」と「クライアント」という役割分担によって成り立っている。まず、物理的にキーボードとマウスが接続されているPCを「サーバー」として設定する。そして、そのキーボードとマウスで操作したい他のPCを「クライアント」として設定する。サーバーPCでマウスカーソルを動かし、画面の端まで移動させると、カーソルは画面を突き抜けて隣に置いたクライアントPCの画面へと自然に移動する。その瞬間から、キーボードとマウスの操作対象はクライアントPCに切り替わる。この切り替えは非常に直感的で、あたかも複数のディスプレイを並べたマルチモニター環境を操作しているかのような感覚で利用できる。
このシームレスな操作がどのように実現されているかを詳しく見てみよう。サーバーとして動作するPCは、接続されたキーボードとマウスからの入力情報を常時監視している。同時に、マウスカーソルが画面上のどの位置にあるかも把握している。ユーザーが事前に「画面の右隣にはPC-Aがある」「画面の上隣にはPC-Bがある」といったPCの物理的な配置を設定しておくと、サーバーはマウスカーソルがその設定された画面の端に到達したことを検知する。検知すると、サーバーはそれ以降のキーボード入力やマウスの動きに関する情報を、ネットワークを通じて隣のクライアントPC(この場合はPC-AやPC-B)に送信し始める。情報を受け取ったクライアントPCは、そのデータを元に自らの画面上でマウスカーソルを動かしたり、文字入力を受け付けたりする。これにより、ユーザーは物理的に入力デバイスを切り替えることなく、視線の移動とマウス操作だけで複数のPCを自在に操ることが可能になる。
さらに、Deskflowはクリップボードの共有機能も備えている。これは、一方のPCでコピーしたテキストや画像を、もう一方のPCで貼り付けられる機能である。例えば、サーバーPCのWebブラウザで調べたテキストをコピーし、マウスカーソルをクライアントPCに移動させて、そちらのテキストエディタに貼り付けるといった操作が簡単に行える。この機能も、コピーされたデータがネットワーク経由で他のPCに転送されることで実現されており、異なるPC間での情報連携を格段にスムーズにする。
DeskflowはWindows、macOS、Linuxといった主要なオペレーティングシステム(OS)に対応しているため、異なるOSが動作するPC間でもキーボードやマウスを共有できる。例えば、メインの作業はLinuxのデスクトップで行い、動作確認や特定のアプリケーションの使用のために隣に置いたWindowsのノートPCを操作するといった使い方が可能だ。設定も比較的容易で、専用のGUIツールを使えば、PCの配置を画面上でドラッグ&ドロップする直感的な操作で設定を完了できる。また、設定内容はTOMLという人間が読み書きしやすいシンプルな形式のファイルに保存されるため、テキストエディタで直接編集することも可能である。
技術的な側面では、Deskflowは比較的新しいプログラミング言語であるRustで開発されており、パフォーマンスと安定性に優れている。また、Linuxのデスクトップ環境で近年標準となりつつある新しいディスプレイサーバープロトコル「Wayland」への対応が進んでいる点も特徴として挙げられる。これにより、将来的に多くのLinuxディストリビューションがWaylandへ移行した後も、安心して利用し続けることが期待できる。複数のマシンを扱うシステムエンジニアや開発者にとって、物理的な制約を取り払い、思考を中断させることなく複数の環境を横断して作業できる環境は、生産性を大幅に向上させるための強力な武器となる。Deskflowは、そのためのシンプルかつ効果的な解決策を提供するソフトウェアであると言える。