【ITニュース解説】「今日夜ご飯いる？」をDXした

家庭内で毎朝行われる「今日夜ご飯いる？」という日常的な会話は、多くの家庭で共通の光景だが、この記事ではこのアナログなコミュニケーションが抱える非効率性をIT技術で解決する事例が紹介されている。特に、大学生である筆者のように急な予定変更が多い場合、朝の時点で夕食の要否を正確に伝えることが難しく、後から改めて連絡し直す手間が発生したり、連絡を忘れてしまったりすることが課題であった。これは、食事を準備する家族にとっても、準備の計画が立てにくく、時には食材の無駄につながる可能性を秘めている。

このような日常の小さな課題を、デジタル技術を用いて根本的に解決し、より効率的なプロセスへと変革する試みこそが「DX（デジタルトランスフォーメーション）」の考え方である。この記事では、LINEという身近なツールを使い、夕食の要否に関する情報をデジタル化することで、この問題を解決するシステムが構築されている。

システムの中心となるのは、まず「LINE Messaging API」である。これはLINEが提供する機能の一つで、外部のプログラムからLINEのメッセージを送受信したり、ユーザーからの特定の操作を受け付けたりすることを可能にする。このAPIを利用することで、普段使い慣れているLINEアプリを介して、ユーザーは「ご飯いる」「ご飯いらない」といったメッセージをシステムに送ることができるようになる。これにより、特別なアプリをインストールすることなく、手軽に夕食の要否を登録・変更するインターフェースが実現されている。

次に重要な役割を果たすのが「Google Apps Script（GAS）」である。これはGoogleが提供している、GoogleスプレッドシートやGmailといったGoogleサービスを自動化したり、連携させたりするためのプログラミング環境である。このシステムにおいてGASは、LINEからのメッセージを受け取り、その内容を解析し、適切な処理を実行するという、いわばシステムの「脳」のような働きをする。ユーザーがLINEで送信した夕食の要否に関する情報は、GASによって受け取られ、次のステップへと引き継がれる。

そして、その情報が記録される場所が「Googleスプレッドシート」である。このスプレッドシートは、単なる表計算ソフトとしてだけでなく、このシステムでは簡易的なデータベースとして活用されている。GASがLINEから受け取った夕食の要否データは、このスプレッドシートにリアルタイムで記録され、必要に応じて更新される。この仕組みにより、食事を準備する家族は、いつでもスプレッドシートを開くだけで、最新の夕食の要否を一目で確認できるようになる。これにより、口頭での確認の手間が省け、食事の準備計画をより正確に、効率的に立てられるようになる。

システムは「Webhook（ウェブフック）」という技術も利用している。これは、あるイベント（この場合はLINEでメッセージが送られたこと）が発生した際に、その情報を別のシステム（GAS）に自動的に通知する仕組みである。ユーザーがLINEでメッセージを送信すると、LINE Messaging APIはその情報をWebhookを通じてGASに即座に送信する。これにより、GASは常にLINEからの新しい情報をリアルタイムで受け取ることができ、遅延なくスプレッドシートの情報を最新の状態に保つことができる。

さらに、システムは夕食の要否の入力忘れを防ぐためのリマインダー機能も備えている。GASは、設定された特定の時刻になると自動的に動作するようプログラムされており、この動作によってLINEを通じてユーザーに対し「今日の夜ご飯、いる？」といった確認メッセージを送信する。これは、ユーザーが能動的に情報を登録するだけでなく、システム側から定期的に促されることで、入力忘れや確認の遅れを防ぐ効果がある。朝だけでなく、夕方などにもリマインダーを送信することで、急な予定変更にも柔軟に対応できる仕組みとなっている。

このシステムを導入することで、ユーザーは外出先や急な予定変更時でも、手軽にLINEから夕食の要否を更新できるようになり、家族への連絡の手間や伝え忘れの心配が解消される。一方、食事を準備する家族は、スプレッドシートを確認するだけで常に正確な情報を得られるため、何度も確認の会話をする必要がなくなり、準備の効率化や食材の無駄の削減が実現される。このように、デジタル技術を活用することで、日常の小さなコミュニケーションプロセスが劇的に改善され、関係者全員の負担が軽減され、生活の質が向上する。

この事例は、システムエンジニアを目指す初心者にとって非常に良い学びの機会となる。身近な課題を特定し、その解決のためにどのような技術を組み合わせるか（LINE Messaging API、Google Apps Script、Googleスプレッドシート）、そしてそれらの技術がどのように連携して機能するのかというシステムの全体像を理解する実践的な経験が得られるからである。単に技術を学ぶだけでなく、現実世界の問題を解決するための思考プロセスや、具体的なシステムの設計・実装の基礎を学ぶ上で、この「日常のDX」は優れた教材となるだろう。