【ITニュース解説】国産セキュリティ製品の普及促進フォーラム - 10月に都内で初開催
ITニュース概要
経済産業省と日本ネットワークセキュリティ協会が、国産セキュリティ製品の普及を目指すイベント「国産セキュリティ推進フォーラム2025」を10月29日に開催。日本のサイバーセキュリティ技術力を高め、安全なIT環境を築くための取り組みだ。
ITニュース解説
現代社会において、企業活動から個人の生活に至るまで、あらゆる場面でITシステムが利用されており、その安全性を確保するサイバーセキュリティの重要性は日々高まっている。システムを外部の脅威から守るためには、ファイアウォールやウイルス対策ソフトといった、多種多様なセキュリティ製品やサービスが不可欠である。こうした中、日本国内で開発・提供される「国産」のセキュリティ製品の普及を目指す新たな動きが注目されている。その象徴的な取り組みが、日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)と経済産業省が共同で主催する「国産セキュリティ推進フォーラム」である。このフォーラムは、国産セキュリティ製品の価値を再認識し、その利用を促進することを目的として、2024年10月29日に初めて開催される。 では、なぜ今、改めて「国産」のセキュリティ製品が重要視されているのだろうか。その背景には、大きく分けて二つの理由が存在する。一つは、サイバー攻撃の巧妙化と、それに伴うサプライチェーンリスクの高まりである。現代のITシステムは、単一の企業がすべての部品を開発するのではなく、国内外の様々な企業が開発したソフトウェアやハードウェアを組み合わせて構築されるのが一般的だ。この部品の連なりを「サプライチェーン」と呼ぶ。もし、システムに組み込まれた海外製の部品に、開発段階で悪意のあるプログラムが仕込まれていたり、セキュリティ上の欠陥である脆弱性が放置されたままになっていたりすると、その部品を利用するすべてのシステムがサイバー攻撃の標的となる危険性を抱えることになる。これがサプライチェーンリスクであり、部品の供給元が海外にある場合、その品質や安全性を完全に管理することは極めて困難となる。 もう一つの理由は、経済安全保障という国家的な観点である。政府機関が保有する国民の個人情報や、電力・水道・交通といった社会インフラを制御する重要システム、あるいは企業の根幹を支える機密情報などを守ることは、国の安全と経済活動を維持する上で極めて重要だ。これらの重要なシステムを海外製のセキュリティ製品に過度に依存していると、製造元の国との国際関係が悪化した場合に、製品の供給が停止されたり、アップデートや技術サポートが受けられなくなったりするリスクが生じる。また、最悪の場合、製品を通じて情報が国外に流出したり、システムが外部から操作されたりする可能性も否定できない。こうしたリスクを低減し、自国の重要な情報を自国の技術で守る体制を構築することは、経済安全保障の根幹をなす考え方である。国産のセキュリティ製品は、国内の法律や商習慣に基づいて開発されており、開発者の顔が見えやすく、迅速できめ細やかなサポートが期待できるという利点もある。 「国産セキュリティ推進フォーラム」は、こうした背景を踏まえ、国産セキュリティ製品の価値を広く社会に伝えるための場となる。フォーラムでは、業界の専門家による基調講演やパネルディスカッションが行われ、日本のセキュリティ産業が直面する課題や今後の展望について議論が交わされる。また、製品やサービスの展示ブースも設けられ、参加者は実際にどのような国産セキュリティ製品が存在し、どのような特徴を持っているのかを直接確認することができる。これにより、セキュリティ製品を導入する側のユーザー企業は、自社の課題を解決するための新たな選択肢を発見し、製品を開発・提供する側のベンダー企業は、自社の優れた技術力や信頼性をアピールする絶好の機会となる。政府機関、ユーザー企業、ベンダー企業が一堂に会し、情報交換を行うことで、国内のセキュリティ産業全体の活性化を図る狙いがある。 この動きは、これからシステムエンジニアを目指す人々にとっても無関係ではない。将来、システムを設計・構築する現場において、「どのセキュリティ製品を選定するか」という意思決定は非常に重要になる。その際、これまでは性能やコストが主な判断基準だったが、今後は「国産であること」が、サプライチェーンリスクや経済安全保障の観点から重要な評価軸の一つとなる可能性が高い。また、国内のセキュリティ産業が成長すれば、セキュリティ分野を専門とするエンジニアの需要も高まり、新たなキャリアパスが生まれることも期待される。システム開発に携わる者は、単にプログラムを書くだけでなく、自らが構築するシステムがどのような脅威に晒され、どのような技術によって守られているのかを深く理解する必要がある。このフォーラムの開催は、日本のITセキュリティが新たな段階に入ろうとしていることを示す象徴的な出来事であり、これからの技術者が知っておくべき重要な潮流と言えるだろう。