【ITニュース解説】DQNで株価のテクニカル分析を行うAIモデルの試作 〜アンサンブル編〜
2025年09月04日に「Qiita」が公開したITニュース「DQNで株価のテクニカル分析を行うAIモデルの試作 〜アンサンブル編〜」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
強化学習AIの一種DQNを用い、株価のテクニカル分析を行うモデルが開発された。複数のAIを組み合わせるアンサンブル学習で予測精度を高め、過去の日経平均株価データで自動売買のシミュレーションを行い有効性を検証している。
ITニュース解説
近年、AI技術、特に機械学習は様々な分野で活用されているが、金融分野もその例外ではない。株価の予測や自動売買システムの構築において、AIに最適な取引戦略を学習させる試みが活発に行われている。その中心的な技術の一つが「強化学習」であり、今回紹介する研究事例では、特に「DQN(ディープQネットワーク)」という高度な強化学習の手法が用いられている。
強化学習とは、AI(エージェント)が特定の環境の中で試行錯誤を繰り返しながら、より良い結果(報酬)を得るための行動を自律的に学習していく機械学習の一分野である。エージェントは現在の「状態」を観測し、何らかの「行動」を選択する。その結果、環境が変化し、エージェントは「報酬」を受け取る。この一連のプロセスを通じて、エージェントは長期的な報酬を最大化するような行動方針を学んでいく。
DQNは、この強化学習に深層学習(ディープラーニング)を組み合わせた画期的な手法だ。従来の強化学習手法の一つである「Q学習」では、ある状態で特定の行動を取った際の価値(Q値)を一覧表(Qテーブル)の形で記録していた。しかし、株取引のように状況(状態)のパターンが膨大になると、このテーブルが巨大になりすぎて現実的に管理・学習することが困難になるという課題があった。DQNは、このQ値をテーブルで管理する代わりに、ニューラルネットワークを用いて近似的に計算する。これにより、複雑で連続的な状態を持つ問題にも対応できるようになり、かつては人間を上回るスコアを叩き出したビデオゲームのプレイなどでその性能が証明された。
このDQNを株の自動取引に応用する場合、各要素は次のように定義される。まず「エージェント」は取引を行うAI自身である。「環境」は、日経平均株価などの過去の価格データやチャート情報だ。「状態」は、エージェントが判断の根拠とする情報であり、この研究では移動平均線やMACD、RSIといったテクニカル指標が数値データとして利用される。これらの指標は、市場のトレンドや過熱感を示すもので、多くの投資家が参考にしている情報である。「行動」は、「買い」「売り」「何もしない(ホールド)」の三つの選択肢となる。そして「報酬」は、行動によって生じた損益だ。利益が出ればプラスの報酬、損失が出ればマイナスの報酬が与えられ、AIはこの報酬を最大化するように学習を進める。
しかし、単一のAIモデルで安定した成果を上げることは容易ではない。学習データとなる過去の相場にはそれぞれ特徴があり、特定の期間のデータに過剰に適合(過学習)してしまうと、未知の相場状況に対応できなくなるリスクがある。そこで、この試作では「アンサンブル学習」というアプローチが導入されている。
アンサンブル学習とは、複数の異なる学習モデルを組み合わせ、それらの多数決や平均を取ることで、単一のモデルよりも頑健で精度の高い予測を目指す手法である。個々のモデルにはそれぞれ得意なパターンと苦手なパターンがあるが、複数のモデルの意見を統合することで、互いの弱点を補い合い、全体としてより安定した判断を下すことが可能になる。この事例では、学習に用いるデータの期間をずらした複数のDQNモデルを個別に作成する。そして、実際の取引判断の際には、これらの複数のモデルに同じ相場状況を見せて、それぞれのモデルが推奨する行動(買い、売り、ホールド)を集計し、最も多くのモデルが支持した行動を最終的な決定とする。この方法により、特定の相場に特化した偏った判断を避け、より汎用性の高い取引戦略の構築が期待できる。
過去のデータを用いたシミュレーション(バックテスト)の結果、単一のDQNモデルよりも、このアンサンブル学習を用いたモデルの方が、安定して高い運用成績を示した。これは、アンサンブル学習によって個々のモデルの誤った判断がフィルタリングされ、より確度の高い局面でのみ取引を行う、慎重かつ効果的な戦略が実現されたことを示唆している。
この取り組みは、深層強化学習という先進的な技術を金融工学という複雑な実世界の課題に適用し、さらにアンサンブル学習という工夫を加えることで性能向上を図った好例である。もちろん、これはあくまで過去のデータに基づいたシミュレーションであり、未来の市場で同様の成果を保証するものではない。しかし、AIがどのようにデータを解釈し、試行錯誤を通じて戦略を洗練させていくのか、そしてその性能を安定させるためにどのような技術的アプローチがあるのかを具体的に示しており、システム開発やデータサイエンスの世界を目指す者にとって、非常に示唆に富む内容となっている。