【ITニュース解説】「エッジAI」を成功させるには? Dell、AWS、HPE、主要製品で探る実践のこつ
ITニュース概要
生成AIで注目の「エッジAI」を成功させるには、Dell、AWS、HPEなど主要ベンダーの製品やサービス、活用事例を知ることが重要だ。自社に合う導入検討ポイントも解説し、実践的なコツを紹介する。
ITニュース解説
エッジAIとは、人工知能(AI)の処理を、データを生み出す場所の「すぐ近く(エッジ)」で行う技術のことである。従来のAIは、データをインターネットを通じて遠く離れたクラウド上のサーバーに送り、そこで処理を行っていた。しかし、この方法では、データの送信に時間がかかったり、大量のデータを送ることで通信回線が混雑したり、機密性の高いデータが外部に漏れるリスクがあった。エッジAIは、こうした課題を解決するために登場した。 特に近年、「生成AI」の登場は、エッジAIへの注目をさらに高めている。生成AIはテキストや画像を生成するなど高度なAIであり、その処理には膨大な計算能力が必要となる。すべての処理をクラウドで行うと、コストや通信負荷が大きくなるため、特定の処理や推論だけをエッジデバイスで行うニーズが増えているのだ。 エッジAIの最大のメリットは、データをリアルタイムで処理できる点にある。工場での異常検知や自動運転車での障害物認識など、瞬時の判断が求められる場面では、データをクラウドに送って処理する時間的なロスは許されない。エッジで処理を完結させることで、このような低遅延(レイテンシ)な応答が可能となる。また、すべてのデータをクラウドに送る必要がなくなるため、通信帯域の消費を抑え、通信コストの削減にもつながる。さらに、機密性の高いデータを外部に持ち出すリスクを減らし、プライバシー保護の観点からも有利である。ネットワークが一時的に切断されても、エッジデバイス自身で処理を継続できる点も大きな利点だ。 一方で、エッジAIには課題も存在する。エッジデバイスはクラウドのサーバーに比べて計算能力やストレージ容量が限られているため、複雑なAIモデルや大量のデータを扱うには限界がある。また、多数のエッジデバイスを分散して配置した場合、それらのデバイスの管理、監視、ソフトウェアの更新といった運用作業が複雑になることもある。初期投資として、エッジデバイスの購入費用がかかる点も考慮する必要がある。 主要なITベンダーは、これらの課題を克服し、エッジAIの導入を支援する多様なソリューションを提供している。例えば、DellはエッジAIの実現に必要なハードウェアとソフトウェアを統合した製品群を展開している。堅牢な産業用PCやエッジゲートウェイ、高性能なPowerEdgeサーバーといった多様なハードウェアに加え、エッジデバイスのライフサイクル管理やアプリケーション展開を容易にするソフトウェア「Dell NativeEdge」を提供することで、製造業における品質検査や小売業での顧客行動分析など、幅広い業界でのエッジAI活用をサポートしている。特に、大規模なエッジAI環境の構築と運用において、ハードウェアとソフトウェアの両面から一貫したソリューションを提供することに強みがある。 Amazon Web Services(AWS)は、クラウドサービスとの連携を重視したエッジAIソリューションを展開している。AWS IoT GreengrassやAWS Panorama、SageMaker Edgeといったサービスを通じて、クラウド上で開発したAIモデルをエッジデバイスで実行したり、エッジデバイスから収集したデータを効率的にクラウドに送信・分析したりする仕組みを提供している。AWSの強みは、豊富なクラウドAIサービスとシームレスに連携できる点にあり、既存のAWSユーザーにとっては導入の障壁が低い。クラウドの強力な計算能力とエッジのリアルタイム性を組み合わせることで、柔軟性の高いAIシステムを構築できる。 Hewlett Packard Enterprise(HPE)は、ハイブリッドクラウド戦略の一環としてエッジAIに取り組んでいる。HPE GreenLake for Edgeのようなサービスを通じて、エッジ環境におけるインフラをサービスとして提供し、分散したエッジデバイスの管理やデータ処理を効率化する。HPEは、データセンターからエッジまで一貫した運用管理を求める企業に対し、オンプレミスとクラウドが融合した「ハイブリッド」なIT環境全体を視野に入れ、エッジにおけるコンピューティングリソースやストレージ、ネットワークを最適に配置・運用するためのソリューションを提供している。 エッジAIを自社に導入する際には、いくつかの重要な検討ポイントがある。まず、エッジAIで何を達成したいのか、どのような課題を解決したいのかというビジネス要件を明確にすることが不可欠である。例えば、工場の生産ラインでのリアルタイム異常検知が必要なのか、店舗での顧客動線分析を行いたいのか、目的によって必要な機能や性能は大きく異なる。 次に、性能要件を具体的に洗い出す必要がある。どの程度の応答速度(レイテンシ)が求められるのか、どれくらいのデータ量を処理する必要があるのか、どのような環境(温度、湿度、振動など)で動作させるのかといった点が重要だ。限られたエッジデバイスのリソースでAIモデルを効率的に動かすための工夫も求められる。 セキュリティも非常に重要な要素である。エッジデバイスが多数分散配置されることで、サイバー攻撃のリスクが増大する可能性もあるため、データの暗号化、デバイス認証、不正アクセス防止策などを講じる必要がある。 また、導入後の管理と運用についても十分に検討しなければならない。多数のエッジデバイスの監視、ソフトウェアやAIモデルのアップデート、障害発生時の対応など、ライフサイクル全体での管理のしやすさが成功の鍵を握る。ベンダーが提供する管理ツールやサービスが、自社の運用体制に合致しているかを確認することが重要だ。 さらに、初期投資や運用コスト、将来的な拡張性(スケーラビリティ)も考慮に入れるべきである。エッジAIソリューションは多様であり、自社の既存システムとの連携の容易さや、特定のベンダーの製品に縛られないオープンなアプローチが求められる場合もあるだろう。 最終的に、自社のビジネス課題、技術要件、予算、運用体制などを総合的に判断し、Dell、AWS、HPEなどの主要ベンダーが提供するソリューションの中から、最も適したものを選択することがエッジAIを成功させるための実践的なこつとなる。エッジAIはまだ発展途上の技術だが、その可能性は大きく、これからのシステムエンジニアにとって重要なテーマとなることは間違いない。