【ITニュース解説】EMConf JP（Engineering Management Conference Japan） 2025レポート――エンジニアリングマネージャーたちの「増幅」と「触媒」を目の当たりにした1日

2025年2月27日、東京のベルサール新宿グランドコンファレンスセンターにて、「Engineering Management Conference Japan 2025」（EMConf JP 2025）というIT業界の重要なイベントが開催された。この会議は、ソフトウェア開発における「エンジニアリングマネジメント」という専門分野に特化しており、日本各地から集まったエンジニアリングマネージャーたちが、彼らが持つ経験や知識、そして直面する課題を共有し、IT業界全体の技術力とマネジメント力の向上を目指す場となった。

システムエンジニア（SE）を目指す皆さんにとって、「エンジニアリングマネージャー」という職種は、まだあまり馴染みがないかもしれない。しかし、SEとしてキャリアを積み重ねていく中で、将来的に大きな関わりを持つ可能性のある、非常に重要な役割を担う職種である。簡単に説明すると、エンジニアリングマネージャーとは、技術的な深い知識を持ちながらも、個々のコードを書くこと自体よりも、開発チームを率いてプロジェクトを成功に導くリーダーのことだ。彼らは、チームメンバーであるエンジニア一人ひとりが最大限のパフォーマンスを発揮できるよう支援し、チーム全体の目標達成を強力に後押しする役割を担っている。具体的には、技術的な課題解決の支援、メンバーの育成、プロジェクトの進捗管理、そしてチーム内外のコミュニケーションの円滑化など、多岐にわたる責任を持つ。

EMConf JP 2025のレポートで特に注目されたキーワードが、「増幅」と「触媒」という二つの言葉である。これらは、エンジニアリングマネージャーという職務の本質を非常に的確に表現している。まず、「増幅」という役割について詳しく見ていこう。システム開発は、多くの場合、複数のエンジニアが協力し合って進めるチーム作業だ。個々のエンジニアがどれほど優秀であっても、それぞれの能力がバラバラに発揮されるだけでは、チーム全体としての最高の成果はなかなか生まれない。エンジニアリングマネージャーは、個々のエンジニアが持つスキルや知識、経験を最大限に引き出し、それらを効果的に組み合わせて、チーム全体の生産性や創造性を高める役割を果たす。例えば、メンバーの得意分野を見極めて最適なタスクを割り振ったり、技術的な課題に対して複数の解決策を検討する際に議論を調整したりする。また、新しい技術の学習機会を提供したり、キャリアに関する相談に乗ったりすることで、個々のエンジニアの成長を支援し、結果的にチーム全体の技術力を底上げする。このように、彼らの働きかけによって、個々のエンジニアの能力が単なる足し算ではなく、掛け算のようにチーム全体の成果を「増幅」させていくのである。

次に、「触媒」という役割について考えてみよう。化学反応における触媒とは、それ自身は最終的に変化しないものの、特定の化学反応を促進させたり、新たな反応を引き起こしたりする物質を指す。エンジニアリングマネージャーも、まさにこの触媒のように、開発チームや組織に対して良い変化をもたらすきっかけとなる存在だ。彼らは、開発プロセスにおける無駄や摩擦を減らし、チーム内のコミュニケーションを活発化させることで、チームがよりスムーズに、より効率的に動けるように環境を整える。具体的には、異なる意見を持つメンバー間の調整役を担ったり、チーム内での情報共有が円滑に行われるための仕組みを構築したりする。さらに、新しい開発手法やツールの導入を検討する際には、そのメリットをチームに分かりやすく伝え、導入プロセスを円滑に進めるためのサポートも行う。時には、部署間の連携を促し、技術的な課題解決に必要な外部リソースとのつながりを生み出すこともある。エンジニアリングマネージャー自身が直接的にコードを書いてシステムを構築することは少なくても、彼らの「触媒」としての働きが、チームや組織に良い変化をもたらし、結果としてより高品質な成果へと導くのである。

EMConf JPのようなカンファレンスは、このような「増幅」と「触媒」の役割を日々実践しているエンジニアリングマネージャーたちが、互いの知見を共有し、直面する課題に対する実践的な解決策を探るための貴重な機会である。最新のマネジメント手法や、多様なチーム運営の成功事例、あるいはエンジニアの成長を支援するための具体的なアプローチなどが活発に議論される場であり、これからのIT業界で求められるリーダー像について深く考察し、それぞれの組織に持ち帰って実践することで、業界全体のエンジニアリング力を高めることに貢献している。

SEを目指す皆さんにとって、このEMConf JPやエンジニアリングマネージャーの役割を知ることは、将来のキャリアを考える上で非常に有益な視点を提供するだろう。まずは技術を学び、コードを書くことに集中することが重要だ。しかし、経験を積み、技術力を高めていくと、自然とチームの中でリーダーシップを発揮したり、後輩の指導にあたったりする機会が増えてくるかもしれない。その時、単に技術的に優れているだけでなく、人やチームを動かし、組織全体として大きな成果を生み出す「エンジニアリングマネージャー」という選択肢が自分のキャリアパスに存在する、ということを知っておくのは非常に意義深いことである。

将来的にエンジニアリングマネージャーとなるかどうかに関わらず、今からSEとして学ぶことは、将来のマネジメントスキルにも繋がる。例えば、チームで開発を進める上での円滑なコミュニケーションの取り方、プロジェクトを計画通りに進めるためのタスク管理、予期せぬ問題が発生した際の論理的な解決アプローチなどは、現在の学習段階から意識して習得できる重要なスキルだ。技術的な専門性を深めながらも、常に周囲と連携し、より良いシステムを創り出すために何ができるかを考える姿勢は、将来どのようなキャリアパスを選んだとしても必ず役立つだろう。

EMConf JP 2025は、エンジニアリングマネージャーという専門職の重要性を再認識させ、彼らがIT業界の発展においていかに不可欠な存在であるかを示すイベントであった。皆さんがSEとして成長していく中で、技術の深掘りだけでなく、組織やチームというより広い視点からもITの世界を捉えることができれば、技術者として、そして将来的にはリーダーとして、より幅広い活躍が期待できる。これは、より豊かなキャリアを築くための重要な第一歩となるはずだ。