【ITニュース解説】Fastly、TollBitと提携しAIボットのアクセスを収益化するサービスを提供へ
ITニュース概要
エッジクラウドのFastlyがTollBitと提携し、AIによるWebサイトへのアクセスを収益化する新サービスを発表。サイト運営者は、AIのデータ収集をブロックせず許可する代わりに料金を得られる仕組み。
ITニュース解説
近年、ChatGPTをはじめとする生成AIの技術が急速に発展している。これらのAIは、人間のように自然な文章を作成したり、質問に答えたりするために、インターネット上に存在する膨大な量の文章や画像データを学習する必要がある。AI開発企業は、この学習データを集めるために「クローラー」や「ボット」と呼ばれるプログラムを使い、世界中のウェブサイトを巡回して自動的に情報を収集している。この行為は「ウェブスクレイピング」とも呼ばれる。しかし、この方法には大きな課題が存在した。ウェブサイトを運営する側、つまりコンテンツを作成している企業や個人にとって、AIボットによるアクセスはサーバーに負荷をかけるだけで、直接的な収益には繋がらないケースがほとんどだったからだ。むしろ、大量のボットがアクセスすることでサイトの表示が遅くなったり、サーバーの維持コストが増加したりといった問題を引き起こすことさえあった。コンテンツ制作者が時間と労力をかけて生み出した価値ある情報が、対価を支払われることなくAIの学習データとして利用されるという、いびつな構造が生まれていた。 この課題を解決するため、CDN(コンテンツデリバリネットワーク)サービスを提供するFastly社と、AIとコンテンツ発行者を仲介するTollBit社が提携し、新たなサービスを発表した。このサービスは、AIボットによるウェブサイトへのアクセスを適切に管理し、ウェブサイト運営者がそこから収益を得られるようにする画期的な仕組みである。 まず、この仕組みを理解するために、それぞれの企業がどのような役割を担っているのかを知る必要がある。Fastlyは、世界中にサーバーを分散配置し、ユーザーに最も近いサーバーからウェブサイトのデータを提供することで、表示速度を高速化するCDNサービスを提供している企業だ。ウェブサイトへのアクセスの多くは、まずこのFastlyのサーバーを経由する。つまり、Fastlyはウェブサイトへのトラフィックを最初に受け取る関門のような役割を果たしており、どのようなボットがアクセスしてきたかを識別するのに最適な場所に位置している。一方、TollBitは、AI開発企業とウェブサイト運営者(パブリッシャー)との間を取り持つプラットフォームを提供する。ウェブサイト運営者はTollBitを使い、自社のコンテンツをAIの学習データとして利用する場合の価格を設定できる。AI開発企業は、TollBitを通じてその利用料を支払うことで、正当な権利を得てコンテンツにアクセスすることが可能になる。 この二社の提携によって実現するサービスの具体的な流れは次のようになる。まず、ウェブサイト運営者はTollBitのプラットフォームに登録し、自社のコンテンツに対するAIからのアクセスライセンスの価格を決定する。例えば、「1記事あたりいくら」や「データ量に応じていくら」といった柔軟な価格設定が可能だ。次に、AI開発企業がそのウェブサイトのデータを学習に使いたいと考えた場合、TollBitを通じて正規の利用料を支払う。これにより、そのAI企業のボットは「許可されたボット」として登録される。そして、実際にAIボットがウェブサイトにアクセスしようとすると、まずFastlyのサーバーがその通信を検知する。Fastlyのシステムは、アクセスしてきたボットがTollBitによって認証された「許可されたボット」なのか、それとも無断で情報を収集しようとする「未許可のボット」や、セキュリティ上の脅威となる「悪意のあるボット」なのかを瞬時に識別する。識別した結果、許可されたAIボットからのアクセスであれば、ウェブサイトのコンテンツをスムーズに提供する。一方で、未許可のボットや悪意のあるボットからのアクセスと判断した場合は、アクセスをブロックしたり、意図的に応答速度を遅くしたりといった制御を行うことができる。 この仕組みは、ウェブサイト運営者とAI開発企業の双方に大きなメリットをもたらす。ウェブサイト運営者にとっては、これまでサーバーの負担でしかなかったAIボットからのアクセスが、新たな収益源へと変わる。これにより、質の高いコンテンツを作り続けるための投資資金を確保しやすくなる。また、不要なボットを排除することで、サーバーの負荷を軽減し、本来の利用者である人間に対して快適な閲覧環境を提供し続けることができる。一方、AI開発企業にとっては、正当な対価を支払うことで、高品質な学習データを安定的に、そして合法的に入手できるという利点がある。ウェブサイト側から突然アクセスを遮断されるリスクを心配することなく、AIモデルの開発に専念できるようになるのだ。 このFastlyとTollBitの提携は、AI時代におけるインターネット上のコンテンツの価値と権利のあり方を再定義する重要な一歩と言える。コンテンツ制作者の労働が正当に評価され、その対価が支払われる健全なエコシステムが構築されることで、インターネット全体の情報の質がさらに向上していくことが期待される。システムエンジニアを目指す者にとって、トラフィックの識別・制御といったネットワーク技術やセキュリティ技術が、いかに新しいビジネスモデルを支える基盤となっているかを理解する上で、非常に示唆に富んだ事例である。