【ITニュース解説】IBM、AIとクラウド時代を支えるメインフレームの現在地--レガシーから未来基盤へ
ITニュース概要
IBMのメインフレーム「IBM Z」は、AIやクラウド時代を支える未来の基盤として好調だ。最新モデル「IBM Z17」も高い人気で、関連収益は前年比70%増。レガシーなシステムではなく、進化し続ける重要インフラとして注目を集めている。
ITニュース解説
今回のニュースは、IBMのメインフレーム「IBM Z」が現在のIT市場で好調を維持しているというものだ。特に、2025年度第2四半期の収益が前年同期比で70%も増加し、最新モデルである「IBM Z17」にも多くの引き合いがあるという事実は、メインフレームという技術が現代においても極めて重要な役割を果たしていることを示している。システムエンジニアを目指す初心者にとっては、この「メインフレーム」という言葉が少し古めかしい響きに感じられるかもしれないが、その実態は大きく進化しており、現代のデジタル社会を支える基盤技術の一つとして理解することが重要だ。 メインフレームとは、企業の基幹システム、つまりビジネスの根幹を支える最も重要な業務を処理するために設計された、非常に高性能で信頼性の高い大型コンピューターのことだ。一般的な個人用コンピューターや、企業で使われるサーバーと比較しても、その処理能力、データの整合性、セキュリティレベルは桁違いに高く、システムが絶対に停止してはならないような場面で活躍する。例えば、銀行のオンライン取引、航空会社や鉄道の座席予約システム、クレジットカードの決済処理、政府機関のデータベースなど、私たちの日常生活に密接に関わる多くのサービスが、実はメインフレームによって支えられている。これらは、膨大な数のトランザクション(処理単位)を同時に、かつ正確に処理し続ける必要があり、少しのダウンタイムも許されない。メインフレームは、こうした要求に長年応え続けてきた実績がある。 かつてメインフレームは、その導入コストや運用・保守の専門性から「レガシーシステム」と呼ばれることが多かった。レガシーとは、一般的に「古い」「時代遅れ」といったニュアンスで使われる言葉だ。しかし、今回のニュースが示すように、IBM Zのようなメインフレームは決して古い技術のままではない。むしろ、AI(人工知能)やクラウドといった最新のテクノロジーが主流となる現代において、その価値を再認識され、進化を遂げている。 では、なぜAIやクラウドの時代にメインフレームが再び注目されるのだろうか。その理由はいくつかある。まず、AIは膨大な量のデータを学習し、処理することでその能力を発揮する。このデータは多くの場合、企業の基幹システムに蓄積されているものであり、その処理には極めて高いパフォーマンスと信頼性が求められる。メインフレームは、まさにその大量データを高速かつセキュアに処理する能力に優れている。AIワークロードをメインフレーム上で直接実行したり、メインフレームに蓄積されたデータをAIが活用しやすい形で連携させたりといった形で、AIの進化を強力に後押ししているのだ。 次に、クラウドとの連携も重要だ。クラウドコンピューティングは、ITリソースを柔軟に利用できるというメリットがある一方で、企業の最も機密性の高いデータや、処理量が非常に多い基幹システムを完全にクラウドへ移行することには、セキュリティやコスト、あるいは既存システムとの整合性の問題から、慎重になる企業も少なくない。そこでIBM Zのようなメインフレームは、クラウド環境と連携し、オンプレミス(自社内の設備)で稼働する基幹システムと、クラウド上のアプリケーションが効率的にデータをやり取りできる「ハイブリッドクラウド」戦略の要となっている。メインフレームは、オンプレミス環境におけるデータの最終的な信頼できる情報源(SoR: System of Record)として機能し、クラウド上のシステムがそのデータを活用することで、両者の利点を最大限に引き出すことができる。 特にIBM Zの最新モデル「IBM Z17」は、このような現代のITニーズに応えるべく、さらに多くの進化を遂げている。例えば、データ処理能力のさらなる向上、高度な暗号化機能によるセキュリティの強化、そしてクラウドネイティブな開発手法(コンテナやマイクロサービスなど)への対応だ。メインフレームは、ハードウェアレベルで強力なセキュリティ機能を備えており、サイバー攻撃が巧妙化する現代において、企業にとって最も重要な資産であるデータを守る最後の砦となっている。また、オープンソース技術との連携も進み、これまでメインフレームに特化した専門知識が必要とされた開発環境も、より多くのエンジニアがアクセスしやすい形へと変化している。 このような進化と、AI・クラウド時代におけるメインフレームの戦略的価値が、今回のIBM Zの好調な業績に繋がっていると言えるだろう。金融機関や政府機関、大企業といった、ミッションクリティカルなシステムを運用する組織が、既存のメインフレームを使い続けるだけでなく、新たな投資を行い、最新モデルへ更新していることは、メインフレームが「レガシー」ではなく、まさに「未来の基盤」として認識されている証拠だ。 システムエンジニアを目指す皆さんにとって、メインフレームという技術は、一見すると縁遠いものに感じるかもしれない。しかし、私たちの社会を支える最も重要なインフラの一部であり、その技術が現代のITトレンドに合わせて進化し続けていることを知ることは、将来のキャリアを考える上で非常に有益だ。メインフレームの専門知識は特定の分野で高く評価されるだけでなく、その堅牢性、信頼性、セキュリティといった思想は、どのようなシステムを設計・構築する上でも学ぶべき重要な教訓を含んでいる。IBM Zの躍進は、メインフレームがこれからもITの最前線で活躍し続けることを強く示唆しているのだ。