【ITニュース解説】氷を曲げると電気が生まれることが判明、長年の謎だった雷の発生メカニズムを解明する糸口になる可能性

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国際研究チームが、氷を曲げると電気が発生する「フレキソエレクトリック効果」を世界で初めて発見した。これは、普通の氷が持つ新しい性質であり、長年の謎である雷の発生メカニズムを解明する重要な手がかりになる可能性がある。

ITニュース解説

ごく普通の氷が、実は私たちが知らなかった驚くべき性質を持っていることが、国際的な共同研究によって明らかになった。それは「フレキソエレクトリック効果」と呼ばれる現象で、簡単に言えば、氷を曲げると電気が発生するという性質のことだ。この発見は、長年謎とされてきた雷の発生メカニズムを解明する上で重要なヒントとなる可能性を秘めているだけでなく、将来的な新しい技術開発にも繋がりうる、非常に興味深いものだ。 まず、フレキソエレクトリック効果とは一体何だろうか。私たちは身の回りにある多くの物質が、外部からの力によって変形すると、その形が元に戻る性質を持っていることを知っている。しかし、フレキソエレクトリック効果は、物質が「曲げられる」という特定の変形を受けたときに、その内部で電荷の偏りが生じ、結果として電気的な分極、つまり電圧が発生する現象を指す。これは、特定の結晶構造を持つ物質に力を加えると電気を発生させる「圧電効果」とは少し異なる。圧電効果は物質全体が均一に圧縮されたり引き伸ばされたりするときに起こるが、フレキソエレクトリック効果は物質が不均一に変形、特に曲げられたときに、その局所的な歪みが電荷の分布を変化させることで生じる。これまでこの効果は、特定の誘電体(電気を通しにくい物質)で確認されていたが、私たちの生活に最も身近な物質の一つである氷がこの性質を持つことが、今回初めて示されたのだ。 スペインのカタルーニャ・ナノ科学ナノ技術研究所(ICN2)、中国の西安交通大学、アメリカのストーニーブルック大学の研究者たちは、最先端の実験技術と理論計算を組み合わせ、氷の微細な構造と電気的応答を詳細に調べた。その結果、氷がわずかに曲げられただけでも、その表面に電荷が現れることを明確に確認した。これは、氷の結晶構造が持つ特定の対称性と、分子間の水素結合の特性が、外部からの曲げの力に対して電気的な応答を引き起こすことを意味する。つまり、ごく微小な力で氷が変形するだけで、電気を生み出すことができるということだ。 この発見が特に注目されるのは、地球上で日常的に発生する、しかしメカニズムが完全には解明されていない自然現象、すなわち「雷」の謎に迫る可能性を秘めているためだ。雷は、積乱雲の中で大量の電荷が分離・蓄積され、その電位差が空気の絶縁耐力を超えたときに発生する放電現象である。これまでの研究では、積乱雲の中を舞う氷の結晶や水の粒が互いに衝突したり摩擦したりすることで電荷が分離されると考えられてきた。しかし、そのメカニズムだけでは、観測されるような巨大な電位差がどのようにして生成されるのか、十分に説明できない部分があった。 今回の氷のフレキソエレクトリック効果の発見は、この雷の発生メカニズムに新たな視点を提供する。積乱雲の中では、氷の結晶が激しい上昇気流に乗って高速で移動し、他の氷の結晶や水滴と衝突を繰り返す。この衝突の際、氷の結晶は単に摩擦するだけでなく、瞬間的に「曲がる」という変形を受けると考えられる。もし氷が曲がることで電気が発生するのであれば、雲の中で無数に存在する氷の結晶が衝突のたびに電位差を生み出し、それが積み重なることで、最終的に雷を引き起こすほどの巨大な電荷の分離につながる可能性がある。つまり、雷の発生に、これまで見過ごされてきた「氷の曲げによる発電」が大きく寄与しているのかもしれない。これは、雷のシミュレーションモデルや予測の精度を向上させる上で、非常に重要な要素となり得る。 この基礎的な科学的発見は、将来的に様々な応用へと繋がる可能性も秘めている。例えば、新しい種類のセンサーや発電デバイスの開発だ。もし氷だけでなく、他の身近な物質にもフレキソエレクトリック効果があることがわかれば、微細な変形や動きを電気信号に変換する高感度センサーや、環境中の微細な振動や動きから電力を取り出す「エネルギーハーベスティング」技術への応用が考えられる。これは、ウェアラブルデバイス(身につける電子機器)やIoTデバイス(モノのインターネット機器)のように、常に電源を必要とするがバッテリー交換が難しい場面で、非常に有用な技術となるだろう。例えば、人が歩くことによって生じる微細な足の変形や、風によって構造物が揺れる動きから電気を取り出す、といった未来の技術の基盤となる可能性を秘めている。 システムエンジニアを目指す皆さんにとって、このような基礎科学の発見は、一見直接的な関係がないように見えるかもしれない。しかし、新しい物理現象の理解は、やがて全く新しいハードウェアやデバイスの誕生へと繋がり、そのデバイスを制御するソフトウェアや、そこから得られるデータを処理・分析するシステムの設計において、エンジニアの役割が不可欠となる。今回の発見も、将来の新しい発電システムやセンサーネットワークの実現に向けた、科学的な一歩として位置づけられる。 今回の研究は、私たちにとって身近な物質である氷が、まだ多くの未知の側面を持っていることを示し、基礎科学の探求がいかに重要であるかを改めて教えてくれる。氷の「曲げると電気が発生する」というシンプルな現象の発見が、雷という壮大な自然現象の理解を深め、さらには未来の技術革新の扉を開く可能性を秘めていることは、科学の奥深さと可能性を強く感じさせるものだ。この新たな知見が、今後の雷研究やエネルギー技術の発展にどのように貢献していくのか、その動向が注目される。

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