【ITニュース解説】io_uring is faster than mmap

2025年09月05日に「Hacker News」が公開したITニュース「io_uring is faster than mmap」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。

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ITニュース概要

Linuxの新しい非同期I/O機能io_uringは、従来のmmap方式よりもデータアクセスが高速であることが分かった。これにより、ファイル処理やデータベース操作などで、システムのパフォーマンスが向上する。

出典: io_uring is faster than mmap | Hacker News公開日:

ITニュース解説

コンピュータが扱うデータ量は増え続け、ストレージの速度も向上しているが、それでもアプリケーションの性能を決定する大きな要因の一つは、いかに効率良くデータを読み書きするかという「I/O(Input/Output)」の処理速度である。この記事では、「io_uring」という比較的新しいI/Oの仕組みが、これまで広く使われてきた「mmap」という手法よりも高速であるという興味深い内容を解説する。

まず、mmapについて説明する。mmapは「memory map」の略で、ファイルの内容をプログラムが動作するメモリ空間に直接マッピングする(対応付ける)手法である。通常、ファイルからデータを読み込む際には「read」というシステムコールを使い、データをメモリにコピーしてから処理を行う。しかし、mmapを使うと、ファイルの内容がOSによってプログラムの仮想メモリ空間に直接紐付けられるため、プログラマはあたかもファイル全体がメモリ上にあるかのように、ポインタを使って直接データにアクセスできる。これにより、readシステムコールを何度も呼び出す手間や、データをメモリにコピーするオーバーヘッドが削減され、特に大きなファイルを扱う際に利便性が高いとされてきた。ファイルの一部を読み書きする際にも、必要な部分だけをメモリにロードする「オンデマンド」な動作が基本となる。

このmmapのオンデマンドな動作が、実は性能上の課題となる場合がある。mmapされたファイルデータは、必要になるまで物理メモリにはロードされない。プログラムがそのデータに初めてアクセスした際に、OSはディスクから該当するデータブロックを物理メモリに読み込む。このとき発生するのが「ページフォルト」という現象である。ページフォルトは、プログラムがアクセスしようとした仮想メモリのアドレスに対応する物理メモリページが現在存在しない、または適切な権限がない場合に発生し、OSが介入して必要な処理(この場合はディスクからのデータロード)を行う。このOSの介入は通常、数百から数千CPUサイクル、場合によってはそれ以上の時間を要し、これが頻繁に発生するとアプリケーションの処理速度は著しく低下する。さらに、CPUが仮想アドレスを物理アドレスに変換する際に利用する高速なキャッシュ「TLB(Translation Lookaside Buffer)」がミス(TLBミス)することも、変換処理に時間がかかり、性能に悪影響を与える要因となる。特に、非常に大きなファイルを扱う際に多くのページフォルトやTLBミスが発生すると、mmapの利便性が性能的なボトルネックに変わってしまうことがあるのだ。

そこで登場するのが、Linuxカーネルに実装された比較的新しいI/Oインターフェース「io_uring」である。これは、これまでのI/O処理の常識を覆すほどの革新的な仕組みである。従来のI/O操作では、アプリケーションが何かデータを読み書きするたびに、OSに「システムコール」を発行し、その都度、アプリケーションが動作する「ユーザーモード」とOSが動作する「カーネルモード」の間を切り替える必要があった。このモード切り替えは、CPUのコンテキスト切り替えを伴うため、決して小さなオーバーヘッドではない。io_uringは、この問題を根本的に解決する。

io_uringは、ユーザー空間(アプリケーション側)とカーネル空間(OS側)の間に、リングバッファと呼ばれる特別なキューを二つ用意する。一つはアプリケーションがI/O操作の要求を書き込むための「Submission Queue(SQ、提出キュー)」、もう一つはカーネルがI/O操作の完了を通知するための「Completion Queue(CQ、完了キュー)」である。アプリケーションは、実行したいI/O操作(ファイル読み込み、書き込みなど)をSQにまとめて複数登録し、一度だけシステムコールを発行してカーネルに処理を依頼できる。カーnelはSQから要求を取り出し、それらを非同期に(アプリケーションの処理を止めずに)実行し、完了した順にCQに結果を書き込む。アプリケーションは、CQを定期的に監視するか、通知を受け取ることで、完了したI/O操作の結果を知ることができる。

この仕組みの最大の利点は、システムコールの発行回数を劇的に減らせることにある。多くのI/O操作をまとめて一度にカーネルに渡すことで、ユーザーモードとカーネルモードの切り替えオーバーヘッドを最小限に抑えられる。また、I/O処理が非同期で行われるため、I/O待ちの時間にアプリケーションが他の計算処理を進めることができ、CPUのリソースを効率的に活用できる。さらにio_uringは、データ転送の際に不要なコピーを減らす「ゼロコピー」に近い効率的なデータパスも提供できるため、データそのものの転送速度も向上させることが可能である。

これらの理由から、io_uringはmmapよりも高速になり得る。mmapが抱えるページフォルトやTLBミスによるパフォーマンス低下を、io_uringは事前にI/O要求をまとめて発行し、必要なデータを効率的に読み込むことで回避できる。つまり、データが必要になるたびにディスクアクセスが発生するのではなく、あらかじめ必要なデータを効率的に、かつまとめてカーネルに読み込ませる指示が出せるため、オンデマンドなロードによるペナルティを最小限に抑えられる。また、システムコールのオーバーヘッド削減と非同期処理による並列性の向上は、現代のマルチコアCPUと高速なSSDのようなストレージ環境において、アプリケーション全体のI/Oスループットとレイテンシ(遅延)を大幅に改善する。

結論として、io_uringは、従来のI/O手法が抱えていたシステムコールオーバーヘッドやデータコピーの非効率性、そしてmmapにおけるページフォルトの問題を解決し、非常に高いI/O性能を実現する新しい技術である。特に、データベース、高速なWebサーバー、大規模データ処理、リアルタイム分析といった、大量のI/Oを高速かつ低遅延で処理する必要があるアプリケーションにおいて、その真価を発揮し、システム全体の性能向上に大きく貢献する強力なツールと言えるだろう。

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