【ITニュース解説】IPAが明らかにする日本企業のDX推進状況 米国、ドイツ企業に並ぶも、成果は「コスト削減」止まり? レガシーシステム刷新は「二極化」
ITニュース概要
IPAの調査で、日本企業のDX推進は米国・ドイツ並みに進んだ。しかし、成果はコスト削減が中心で、古いシステムを新しくする取り組みには企業間で大きな差があることがわかった。
ITニュース解説
情報処理推進機構(IPA)が発表した「DX動向2025」という調査結果は、日本企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の現状を詳細に分析している。この調査は、米国やドイツの企業と比較することで、日本企業のDXが世界的に見てどのような位置にあるのか、またどのような課題を抱えているのかを浮き彫りにした。システムエンジニアを目指す皆さんにとって、これは日本のIT業界の未来を理解する上で非常に重要な情報となるだろう。 DXとは、単に最新のITシステムを導入することではない。デジタル技術を最大限に活用し、企業のビジネスモデルや組織文化、業務プロセスそのものを根本から変革し、新たな価値を創造することを目指す取り組みを指す。例えば、AIを活用して顧客のニーズを先読みしたサービスを開発したり、IoT技術で生産ラインを最適化したりといった具合だ。これは、競争が激化する現代のビジネス環境において、企業が生き残り、成長していくために不可欠な戦略となっている。IPAが2018年に「DXレポート」を発表し、日本企業のDX推進の必要性を訴えてから、既に7年が経過している。この期間に日本企業がどれだけDXに取り組んできたのかが、今回の調査の焦点だ。 調査結果によると、日本企業のDX推進状況は、取り組みの「量」という点では米国やドイツの企業に肩を並べるレベルに達しつつあるという。これは、多くの日本企業がDXの重要性を認識し、実際に何らかの形でデジタル技術の導入や活用に着手していることを示している。つまり、DXへの意識や行動は確実に広まっていると言える。例えば、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)ツールを導入して定型業務を自動化したり、クラウドサービスへ移行したりといった具体的な取り組みが、多くの企業で進められている状況が伺える。これは、ITエンジニアが活躍できる場が増えていることを意味するポジティブな側面だ。 しかし、問題はその「質」、つまりDXによって得られた成果の内容にある。多くの日本企業がDXの取り組みを進める一方で、その成果が「コスト削減」にとどまっているという点が指摘されている。コスト削減はもちろん企業にとって重要な成果だが、本来のDXが目指すのは、新たなビジネスモデルの創出や顧客体験の抜本的な改善、競争力の強化といった、より本質的で企業価値を高める変革である。既存業務の効率化やコスト削減だけでは、将来的な成長の源泉となる新たな価値を生み出すことは難しい。これは、DXの取り組みが、まだ「守りのIT投資」の域を出ていない企業が多いことを示唆する。なぜこのような状況になるかというと、DXを単なるITツールの導入と捉え、既存業務の延長線上でデジタル化を進めてしまうケースが少なくないためだ。全社的な戦略のもと、ビジネス変革を見据えたDX推進ができていない企業が多いと考えられる。 さらに、今回の調査では、企業の基盤となる「レガシーシステム」の刷新状況に「二極化」が見られることも明らかになった。レガシーシステムとは、昔から使われており、最新の技術やビジネスの変化に対応しきれていない古い情報システムを指す。これらのシステムは、保守に莫大なコストがかかったり、新しいサービスと連携しにくかったりといった課題を抱え、DX推進の大きな足かせとなることが多い。 「二極化」とは具体的にどういうことかというと、一部の企業は積極的にレガシーシステムの刷新に多額の投資を行い、最新の技術基盤への移行を進めている。これにより、新たなビジネスを迅速に立ち上げたり、データ活用を高度化したりする土台を築いている。これらの企業は、真のDXを実現するための基盤を整えつつあると言えるだろう。 一方で、多くの企業はレガシーシステムの刷新に踏み切れない状況にある。その背景には、刷新にかかる多大なコストや時間、既存システムを停止するリスクへの懸念がある。長年培ってきた業務プロセスがレガシーシステムに深く組み込まれており、それを変更することの複雑さや、システムの専門家が不足しているといった課題も大きい。結果として、古いシステムを使い続けながら部分的なデジタル化を進めようとするため、DXの効果が限定的になってしまっているのだ。システムエンジニアの視点で見れば、レガシーシステムの刷新は非常に専門性の高い、やりがいのある仕事だが、同時に大きな課題でもある。この二極化は、日本企業全体のDXの進展に大きな差を生み出す可能性を秘めている。 この調査結果から、日本企業が今後DXを真の成果につなげるためには、単なるデジタルツールの導入やコスト削減にとどまらず、ビジネスモデルや組織文化そのものを変革する視点が必要だということがわかる。そして、そのためには、古くなったレガシーシステムをどうにかする覚悟と戦略が不可欠である。システムエンジニアを目指す皆さんにとって、こうした状況は、非常に多くの活躍の場が生まれていることを意味する。レガシーシステムを最新の技術で刷新するスキル、新たなビジネスモデルをITで実現する企画力、そして何よりも、単にシステムを作るだけでなく、企業の変革を支援できるようなビジネスへの理解と提案力が、これからますます求められるようになるだろう。日本のDXが次のステージに進むためには、こうした能力を持ったIT人材の育成が不可欠であり、これからの皆さんの役割は非常に大きいと言える。