【ITニュース解説】「iPhone」の“脱獄”はどう予防する? 自社の事情に合わせた3つのリスク管理戦略
2025年09月06日に「TechTargetジャパン」が公開したITニュース「「iPhone」の“脱獄”はどう予防する? 自社の事情に合わせた3つのリスク管理戦略」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
業務で利用するiPhoneでは、セキュリティ機能の一部を解除する「ジェイルブレーク」(脱獄)が情報漏洩などのリスクを招く。この記事では、企業が自社の状況に合わせてジェイルブレークを予防するための、具体的な3つのリスク管理戦略を紹介する。
ITニュース解説
業務でiPhoneなどのiOSデバイスを利用する企業にとって、「脱獄」と呼ばれる行為は重大なセキュリティリスクをもたらす問題である。この脱獄は、英語で「ジェイルブレーク(Jailbreak)」とも呼ばれ、Appleが設定したセキュリティ機能の一部を意図的に解除し、本来許可されていない操作を可能にする行為を指す。具体的には、正規のApp Store以外から自由にアプリケーションをインストールしたり、OSのシステムファイルを直接書き換えたりすることが可能になる。Appleは、iPhoneのセキュリティと安定性を保つために、ユーザーが特定の領域にアクセスしたり、未承認のアプリをインストールしたりすることを厳しく制限しているが、ジェイルブレークはこの制限を解除してしまうのだ。
企業が従業員に貸与するiOSデバイスや、従業員が私物のデバイスを業務に利用するBYOD(Bring Your Own Device)環境において、デバイスがジェイルブレークされると深刻な問題が発生する。まず、Appleが提供するセキュリティアップデートやパッチが正しく適用されなくなり、既知の脆弱性が悪用されるリスクが高まる。これにより、マルウェア(悪意のあるソフトウェア)が容易にデバイスに侵入し、企業の情報が盗まれたり、デバイスが乗っ取られたりする可能性が生じる。また、ジェイルブレークされたデバイスは、企業ネットワークに接続された際に、セキュリティ対策が施されていない状態であるため、内部ネットワーク全体に脅威を広げる「踏み台」となる危険性もはらんでいる。企業の機密情報や顧客データが漏洩する事態に発展すれば、企業の信用失墜はもちろん、多額の損害賠償や法的責任を問われる可能性もある。
こうしたリスクに対処するため、企業は自社の状況に合わせた適切なリスク管理戦略を立て、ジェイルブレークの予防と対策に取り組む必要がある。主な戦略は三つ挙げられる。
一つ目は、「厳格な統制」戦略である。これは、ジェイルブレークされたデバイスを徹底的に検出し、企業システムへのアクセスを完全にブロックするアプローチだ。企業は、MDM(モバイルデバイス管理)ツールを導入し、従業員のiOSデバイスを一元的に管理する。MDMツールは、デバイスがジェイルブレークされているかどうかを検知する機能を持ち、もしジェイルブレークが確認された場合は、企業内のメールシステムやファイルサーバー、業務アプリケーションなどへのアクセスを自動的に遮断するように設定できる。この戦略の利点は、セキュリティポリシーを厳格に適用し、既知のリスクを排除できることにある。しかし、常に最新のジェイルブレーク手法に対応し続ける必要があり、検出ツールの更新やポリシーの見直しが欠かせない。
二つ目は、「リスク軽減」戦略である。この戦略は、ジェイルブレークを完全に防ぐことは難しいという現実を踏まえ、もしジェイルブレークが発生してしまったとしても、そこから生じる被害を最小限に抑えることに重点を置く。例えば、デバイスに保存される企業データをすべて暗号化する。これにより、デバイスが不正にアクセスされたとしても、データが容易に読み取られることを防ぐ。また、業務アプリケーションを「サンドボックス化」と呼ばれる隔離された環境で実行させることで、万が一、不正なアプリがインストールされても、それが他のアプリケーションやOS全体に影響を及ぼさないようにする。さらに、多要素認証(パスワードだけでなく、指紋認証やワンタイムパスワードなども併用する認証方式)を導入することで、たとえデバイスがジェイルブレークされても、不正アクセス者が企業システムにログインすることを困難にする。この戦略は、柔軟性があり、ユーザーの利便性を損なわずにセキュリティを確保できる側面もある。
三つ目は、「ユーザー教育と監視」戦略である。どんなに優れた技術的な対策を施しても、最終的にはデバイスを操作するユーザーのセキュリティ意識が欠かせない。企業は、従業員に対してジェイルブレークがもたらすリスクや、企業の情報セキュリティポリシーについて定期的に教育を実施し、理解を深める必要がある。ジェイルブレークは個人の自由なカスタマイズを目的とする場合もあるが、企業利用においてはそれが大きな危険につながることを明確に伝えるのだ。また、デバイスの不審な挙動やネットワーク通信の監視を強化することで、ジェイルブレークの兆候や、それによって引き起こされる異常を早期に発見し、迅速に対応できるようにする。例えば、デバイスから不審な通信が確認された場合や、通常ではありえない設定変更が検知された場合に、管理者にアラートを送信するといった仕組みが考えられる。
これらの三つの戦略は、企業の規模や業種、業務で利用するiOSデバイスの数や重要度、従業員のITリテラシーといった自社の具体的な状況に合わせて、単独で採用するだけでなく、複数を組み合わせて実施することが最も効果的だ。例えば、厳格な統制をベースとしつつ、リスク軽減のための暗号化も併用し、さらに従業員への継続的な教育を欠かさない、といった複合的なアプローチが望ましい。ジェイルブレークに関する技術や手法は常に進化しているため、企業は一度対策を講じて終わりではなく、定期的にセキュリティポリシーを見直し、最新の脅威に対応するための継続的な努力が求められる。これにより、企業はiOSデバイスの利便性を享受しつつ、情報資産を安全に保護できる環境を維持できるだろう。