【ITニュース解説】Extending Kafka the Hard Way (Part 2)
2025年09月04日に「Reddit /r/programming」が公開したITニュース「Extending Kafka the Hard Way (Part 2)」について初心者にもわかりやすいように丁寧に解説しています。
ITニュース概要
データ処理基盤Kafkaの機能を拡張する際の技術的な難しさや、実装上の苦労について詳しく解説している。システムの安定性と複雑な要件の両立がいかに困難であるかを示す記事だ。
ITニュース解説
Kafkaは、大量のデータメッセージを高速かつ安定してやり取りするための非常に強力なシステムである。現代の多くのITサービスで利用され、データの収集、処理、分析といった様々な場面で中心的な役割を担っており、メッセージングキューやイベントストリーミングプラットフォームとして、リアルタイム処理の基盤を提供している。
今回解説する記事では、このKafkaを、既存の便利なフレームワークを使わずに、素のKafkaクライアント(Consumer APIとProducer API)を用いて自力で拡張しようと試みた開発者が直面した困難について深く掘り下げている。開発者は、Kafkaからメッセージを読み込み、何らかの処理を行った後、その結果を再びKafkaの別のトピックに書き込むという、一見単純に見えるデータ処理パイプラインの構築を目指していた。これは、例えば、あるシステムからのログデータを加工して別のシステムに渡したり、注文情報を処理して在庫情報を更新したりするような、様々なアプリケーションで使われる基本的なパターンだ。
この開発者が特に重要視したのは、「メッセージが一度だけ処理されること(Exactly-once processing)」と「メッセージの順序が保たれること」であった。メッセージが重複して処理されたり、処理されずに失われたりすることは、データの整合性を損ない、ビジネスに大きな影響を与える可能性があるため、これらの要件は非常に厳しいものとなる。しかし、分散システムであるKafkaの特性上、これを自力で実現することは想像以上に複雑な課題を伴う。
まず直面した大きな課題の一つが、「オフセットの管理」である。Kafkaのコンシューマーは、どのメッセージまで読み取ったかを「オフセット」と呼ばれる番号で管理している。このオフセットをKafkaに定期的に「コミット」することで、もしコンシューマーが停止しても、再起動時にどこから処理を再開すべきかを正確に判断できる。開発者は、メッセージを読み取って処理し、その結果をKafkaに書き込んだ後にオフセットをコミットするという一連の操作を、全体として「一度だけ」実行されるようにする必要があった。もし、処理結果の書き込みが完了する前にオフセットがコミットされてしまうと、クラッシュ時に処理済みのはずのメッセージが再度処理されることになる(重複処理)。逆に、オフセットのコミット前にクラッシュすると、書き込みは完了していてもオフセットが記録されていないため、メッセージが処理されていなかったことになり、データが失われる可能性がある。
この問題を解決するために、Kafkaは「トランザクションAPI」を提供している。トランザクションとは、複数の処理をひとまとまりとして扱い、その全てが成功するか、全てが失敗して元に戻るか、のいずれかを保証する仕組みだ。KafkaのトランザクションAPIを使うことで、メッセージの読み取りとオフセットのコミット、そして処理結果の書き込みという複数の操作を、一つのアトミックな(不可分な)単位として実行できる。これにより、Exactly-once processingの実現が可能になる。しかし、トランザクションAPIを正しく利用するには、「トランザクションID」の管理が必要となる。各アプリケーションインスタンスが一意のトランザクションIDを持ち、そのIDに紐づくトランザクションの状態(例えば、どのメッセージまで処理したか)を管理する必要がある。これは、分散環境下で複数のアプリケーションインスタンスが同時に動作する場合、その状態管理が非常に複雑になることを意味する。クラッシュからの復旧時にも、このトランザクションIDと関連する状態を正確に復元できなければならない。
次に、記事で特に強調されているのが、「分散処理におけるリーダーシップ選出と状態管理」の難しさだ。このアプリケーションは、障害発生時にもサービスを継続できるように、複数のインスタンスで動作するように設計されている。しかし、複数のインスタンスが同じKafkaトピックのパーティションを同時に処理しようとすると、競合が発生し、メッセージの重複処理や順序保証の破綻につながる。そのため、どのインスタンスがどのパーティションを処理すべきかを決定し、もし担当インスタンスがダウンした場合には、別のインスタンスがその処理を引き継ぐという仕組みが必要になる。これが「リーダーシップ選出」と呼ばれるプロセスである。
開発者は、このリーダーシップ選出を自力で実装しようと試みた。これは、一般的にはZooKeeperやRaftといった、分散システムで合意形成を行うための専門的なツールやアルゴリズムが使われる領域だ。自作のリーダーシップ選出メカニズムは、各インスタンスが定期的に「ハートビート」(生存信号)を送り合い、一定時間ハートビートが途絶えたインスタンスをダウンしたと判断し、残りのインスタンスで新しいリーダーを選出するというものだった。しかし、このようなシステムでは、ネットワークの一時的な分断(スプリットブレイン問題)によって、複数のインスタンスがそれぞれ自身がリーダーだと誤解し、矛盾した状態に陥るリスクがある。また、フェイルオーバー(障害時の処理引き継ぎ)の際に、新しくリーダーになったインスタンスが、前任のインスタンスがどこまで処理を完了していたのかを正確に把握し、そこから処理を再開できるように、状態を永続的に保存し、共有するメカニズムも必要となる。
具体的には、トランザクションIDや担当パーティションといった情報を共有データベースに保存し、クラッシュ時にそこから復旧することを検討しているが、これもデータベースの可用性や一貫性、ロック機構など、さらなる複雑な問題を引き起こす。さらに、アプリケーションが成長し、処理するメッセージ量が増えたり、インスタンスの数が増えたりした場合に、自作のシステムが適切に「スケーリング」できるか、そして「耐障害性」を維持できるか、といった課題も浮上する。
記事は、これらの困難な課題に直面する中で、既存のKafka StreamsやKafka Connectといったフレームワークが提供する機能のありがたさを改めて認識させる。これらのフレームワークは、今回開発者が自力で解決しようとした「Exactly-once processing」「オフセット管理」「状態管理」「リーダーシップ選出」といった分散システム特有の複雑な問題を、開発者が意識することなく利用できるように抽象化し、信頼性の高い形で実装してくれている。自力でゼロから構築することは、深い理解にはつながるものの、本番環境で安定稼働させるための膨大な労力とリスクを伴うことをこの記事は示唆している。
システムエンジニアを目指す初心者にとって、この記事はKafkaのような分散システムが内部でどのように動作し、どのような課題を抱えているのかを理解するための貴重な教材となるだろう。複雑な問題を解決するためにどのような設計上の考慮が必要か、そして既存のフレームワークやツールが、実はどれほど高度な技術的課題を解決してくれているのかを学ぶ良い機会となる。