【ITニュース解説】[Laravel] 10年付き合うことになるWebAPIをチームで作るときに考えたこと
ITニュース概要
Laravelで10年間運用するWebAPIをチームで開発。長期保守で問題となるコードの複雑化や仕様との乖離を防ぎ、10年後も快適に開発できる状態を維持するために考えた設計やルール、工夫を解説する。(109文字)
ITニュース解説
ウェブ上で提供される様々なサービスは、WebAPIと呼ばれる仕組みを通じて互いに連携している。WebAPIは、アプリケーション同士がデータをやり取りするための窓口のようなもので、例えばスマートフォンのアプリが天気予報サイトから情報を取得したり、オンラインショップがクレジットカード決済サービスと連携したりする際に使われる。サーバー側で処理された結果を、リクエストしたアプリケーションに返す役割を担う、現代のITシステムにおいて非常に重要な土台と言える。 しかし、このWebAPIのようなシステムの基盤となる部分を長期にわたって運用していくことは、決して簡単なことではない。一度作って終わりではなく、サービスが成長するにつれて新しい機能を追加したり、利用者からの要望に応えたり、不具合を修正したりと、継続的にメンテナンスや改善が必要となる。この作業は「運用」や「保守」と呼ばれ、システムが生きている限り続くものだ。 ある開発現場では、新しく開発するWebAPIが最低でも10年間は使われ続けることが事前に決まっていた。このような長期間の運用を見据えた場合、何も考えずにシステムを開発してしまうと、将来的に様々な問題が発生し、開発者だけでなく、システムを使う事業担当者にとっても大きな負担となることが予想される。そのため、「10年後も快適に開発できる状態」を保つためには、初期段階から将来を見据えた設計や開発プロセスが必要不可欠だと判断された。 では、具体的にどのような問題が起きるのか。主な問題は大きく三つ挙げられる。 一つ目は、コードが複雑になりすぎて読みにくくなり、追加開発や修正に時間がかかってしまうことだ。システムは、最初はシンプルなコードで作られていても、多くの機能が追加されたり、複数の開発者が入れ替わり立ち替わりコードを修正したりするうちに、全体像が把握しづらい状態に陥ることがある。まるで、あちこちの糸が絡み合って複雑な模様になった毛糸玉のようになるイメージだ。新しい開発者がそのコードを読んでも、どこがどう動いているのか理解するまでに膨大な時間がかかったり、少しの変更が思わぬ場所に影響を与えてしまったりする。これにより、機能を追加するにも、不具合を修正するにも、本来必要以上に多くの労力と時間がかかってしまい、開発効率が著しく低下する。結果として、サービスの改善スピードが落ち、事業の成長を阻害する要因にもなりかねない。 二つ目は、システムを作る際に決められた「仕様書」と、実際に動いている「実装(コード)」の内容が一致しなくなってしまうことだ。システムを開発する際には、どんな機能が必要か、どのように動くべきかといった要件をまとめた仕様書を作成する。これは開発チーム全員がシステムの全体像を理解し、共通認識を持つための重要なドキュメントだ。しかし、開発が進むにつれて、コードの変更が仕様書に正確に反映されなかったり、仕様書自体が更新されずに古い情報のまま放置されたりすることがある。そうなると、仕様書を見ても現在のシステムの正確な動きがわからなくなり、結局は実際のコードを直接読んで、その挙動を一つ一つ確認するしかなくなる。これは、開発者にとって非常に手間のかかる作業であり、仕様書が本来持つべき「システムの指針」としての価値を失わせてしまう。 三つ目は、プログラム言語やデータベースなどのミドルウェアのバージョンアップが非常に面倒になってしまうことだ。プログラミング言語(例えばLaravelの基盤であるPHP)や、システムを動かす上で必要となる各種ソフトウェアは、日々進化している。新しいバージョンには、セキュリティの脆弱性(弱点)が修正されたり、処理速度が向上したり、便利な新機能が追加されたりといった多くのメリットがある。そのため、定期的に新しいバージョンに更新していくことが望ましい。しかし、長期間運用されているシステムでは、古いバージョンの技術に強く依存した部分が多く、安易にバージョンアップを行うと既存の機能が正常に動作しなくなるリスクが高い。このため、バージョンアップ作業自体が大規模なプロジェクトとなり、多大な労力とコストがかかることがある。結果として、バージョンアップを先延ばしにし、古い技術を使い続けることになり、セキュリティリスクの増大や、最新の技術トレンドから取り残されて開発効率がさらに低下するといった問題を引き起こす可能性がある。 これらの問題を10年間抱え続けることは、開発者にとっても、そのシステムを利用する事業にとっても避けたい状況だ。そのため、「10年後も快適に開発できる状態」を目指すことは、単にシステムが動き続けるだけでなく、上記で述べたような問題が発生しにくい、あるいは発生しても素早く安全に対処できるようなシステム開発を意味する。具体的には、誰が読んでも理解しやすい整理されたコード、常に最新の状態に保たれた正確な仕様書、そして新しい技術への追従が容易で、安全にバージョンアップが行えるような設計思想が求められる。これは、目先の機能開発だけでなく、将来の運用のしやすさや拡張性、保守性を考慮に入れた、長期的な視点での品質の高いシステム開発がいかに重要であるかを示している。